アイサム&トランザム 2020より

 AI/SUM(上) 日本企業が注目する英国スタートアップは

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 人工知能(AI)発祥の国である英国は、政府主導で世界有数のAI戦略を展開する。AI領域において世界をけん引する人材の育成やスタートアップ支援にも積極的だ。最先端の技術力と知見、ノウハウを有するイギリスのAI/モビリティのスタートアップと日本企業との協業も進んでいる。AI/SUM&TRAN/SUM登壇企業のなかから注目の日英協業事例を紹介する。

 Doddle x Yamato/ECエコシステム構築へ向けた協業

 ――DX(デジタルトランスフォーメーション)による物流事業の変革を進めるヤマトホールディングスは、電子商取引(EC)における商品の受け取り・返品管理のプラットフォームを各国で提供するDoddle社と業務提携。EC商品が物流網の最終配送拠点からユーザーのもとに届けられるまでのラストワンマイルの最適化を進めている。

 Doddle ティム・ロビンソン・CEO

 当社は2014年にイギリスで創業し、ECにおいて商品のPUDO(Pick Up & Drop Off=受け取りと返品)を管理するプラットフォームを提供している。すでに各国の物流・郵便・EC企業との協業実績があり、例えば米郵政公社(USPS)や豪国営のオーストラリア・ポスト、アマゾン・ドット・コムなどで当社の技術が活用されている。

 世界からみると、日本の宅配市場は非常にユニークだ。ことECに関して、ユーザーの99%以上は自宅で商品を受け取っている。EC商品の自宅受け取りの割合はイギリスでは85%、フランスでは60%と大きな開きがある。この差は、荷物を安全に預けておけるスマートロッカーなど、自宅以外での受け取りの選択肢が用意されていないことなどにより生じている。また日本では、不在による再配達が全体の15~20%にも上る。再配達によって生じる人件費が物流事業者を圧迫するだけでなく、受け取りのために行動を制限されることは、ユーザーの満足度にも大きな影響をもたらしている。

 我々はテクノロジーを活用し、これらの課題を解決するソリューションをヤマトと協働でつくっていく。EC商品の物流最終拠点からユーザーの手に届くまでの行程をデジタルで可視化し、リアルタイムでトラッキングできるようにすることで、ユーザーは自宅に限らず、生活導線上で利用する様々な店舗を自由に選択し、気軽に荷物の受け取り・返品ができるようになる。EC受け取り・返品のラストワンマイルの最適化によるカスタマー・エクスペリエンスの向上は、EC市場のさらなる普及にも貢献するだろう。

 ヤマトホールディングス 社長室 シニアマネージャー・ヤマト運輸 EC事業部 部長 齊藤 泰裕

 当社は昨年、創業100周年を迎えた。それを踏まえ、今年1月に次の100年へ向けた経営のグランドデザインとして「YAMATO NEXT100」を策定。ECの成長を踏まえ、ECに特化した物流サービスの創出に取り組み、ECエコシステムを確立することなどを発表した。

 ECエコシステム確立へ向けた施策の一環として、今年6月に新配送商品「EAZY」をリリース。EC商品に特化した配送商品で、ユーザーは商品の受け取り直前まで、行動に即して自由に受け取り方を選択できる。例えば、「在宅だがしばらく仕事をするので置き配で」「外出していたけど、予定より早く帰れたので対面で」などといったニーズにリアルタイムで対応できる。さらにより受け取り方法の多様化を実現するのがDoddle社が開発したプラットフォームだ。

 これまでは宅急便センターやコンビニエンスストア、オープン型宅配便ロッカーPUDOなど生活動線上で荷物を受け取れていたが、今年8月以降、このプラットフォームを活用した新規受け取り拠点を募集してさらなる拠点拡充を進め、11月にはサービスを開始する。拠点となった店舗にかかる負担は極めて少なく、当社が提供する「Click & Collect」という専用端末を設置するだけで準備は完了する。受け取りの手続きも、ユーザーが提示する2次元バーコードを端末で読み取るだけなので簡単だ。Doddle社の調査によると、各国で受け取り拠点となった店舗ではユーザーの「ついで買い」で売り上げが増加している。

 EC商品のラストワンマイルの最適化において豊富な実績と高い技術力を有するDoddle社との提携により、日本のEC事業者やユーザーに全く新しい価値を提供したい。当社は引き続き、デジタルを基盤とした宅配市場の変革に本気で挑んでいく。

 Secondmind×マツダ/最先端の意思決定プラットフォームで内燃エンジンのキャリブレーションプロセスを最適化

 ケンブリッジ発のAIスタートアップであるSecondmindは、マツダの戦略的パートナーとして、高性能かつ低燃費を実現するための内燃エンジンのパラメーター調整(キャリブレーション)を独自のAI技術で支援。最先端のディシジョンエンジンを提供し、エンジンの開発期間短縮や性能向上などに貢献している。

セカンドマインド共同創業者 兼 CEO ビシャール・チャトラス

 当社は2016年創業だ。ケンブリッジを本拠地とし、独自に開発したAI技術を実社会の問題解決に生かすことを得意とする。様々な事業領域での意思決定をサポートするディシジョンエンジンを開発している。

 これまでのAIによる予測・分析は通常、傾向の似た大量のデータを必要としていたが、我々のディシジョンエンジンでは、少ない分散した実験データからでも高精度の予測が可能となる。日本ではマツダの戦略的パートナーとして、自動車の内燃エンジン開発工程において、複雑なエンジンのパラメーターに対し最適値の組み合わせを見つけ出す技術を提供している。

 今日、エンジンを取り巻く環境は非常に複雑だ。国によって異なる排出ガス規制への適応はもちろん、燃費やコスト、耐久性などに関しても、市場の要求はより厳しくなっている。新しいエンジンを開発する工程では、新技術の導入と改良が繰り返されており、その度に必要となるエンジンキャリブレーションのコストは増大し、その開発工程は平均でも6か月、時には18か月かかることもある。

燃料噴射量や点火タイミングなどのエンジンパラメーター値をAIで分析・予測して最適バランスを導き出すことで、開発期間の短縮や効率化、コスト削減に貢献し、新車の開発開始から市場投入までのトータル開発期間の短縮に向け取り組んでいる。

 当社の技術の核は、高速なガウス過程を基にした、高効率な次世代のベイズ最適化を実現したことにある。次世代ベイズ最適化では、計算式では求められない内燃エンジンパラメーターの実験値を入力として与えることで、各パラメーターの最適値を推定することができる。

 電気自動車(EV)が普及すれば内燃エンジンの高性能化に向けた開発は必要なくなるのではないかという声もある。しかしながら、少なくとも今後20年間、世界で販売される車の半分は内燃エンジンを使用すると推定されている。エンジンキャリブレーション工程の効率化は、今だけの課題でなく、中長期にわたり対応が求められるものだ。

 もちろん将来的には、ハイブリッドやEVの開発も支援していくつもりだ。キャリブレーションが必要となる課題が増加し複雑化するほど、我々のディシジョンエンジンによる効率化が求められるだろう。今後も技術を強みに、自動車産業の課題解決に貢献していく考えだ。

【PR】英国での事業展開・資本投資、英国の最新テクノロジー、日本や第三国での英国企業との協業に関するご相談は、駐日英国大使館・在大阪英国総領事館 国際通商部までご連絡ください。
英国からの輸入に関するお問い合わせ: importfromuk.jp@fcdo.gov.uk
英国への投資に関するお問い合わせ:  investinuk.jp@fcdo.gov.uk

 協力:(一財)貿易・産業協力振興財団、英国市場協議会

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