日経SDGsフォーラム

「世界を健康に」知見結集 ヘルスサイエンス、新たな歴史紡ぐ

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 長い歴史のある企業が、さらに持続的な存在にするために、姿を変えようとしている。技術の蓄積、知見を独自性、新規性に昇華させ、社会課題解決のために新しい領域へと挑戦する。110年を超える歴史を誇るキリンホールディングス(HD)は「世界の人々の健康に貢献していく」企業への脱皮を目指す。中核的技術はビール醸造を科学と位置づけて培った発酵バイオ技術だ。新たに挑むのはヘルスサイエンス領域だ。

プラズマ乳酸菌 可能性は無限大

 8月上旬、キリンHDに朗報がもたらされた。主にチーズやヨーグルトの発酵に使用される乳酸菌の中でキリンが独自に発見した「プラズマ乳酸菌」を含む6つの商品が「健康な人の免疫機能維持」に関する表示で日本で初めて消費者庁に届出受理されたからだ。キリンHD傘下の小岩井乳業、協和発酵バイオや国内外の研究機関と共同で研究を続け、その機能を突き止めた。今、世界中で関心を集める「生物によるものづくり」の具現化であり、約35年の研究の蓄積だった。

 キリンHDは8月上旬、技術力と会社の方向性を公表する「KIRIN R&D DAY 2020」を開催。磯崎功典社長は「自然界の有用物質を見つけて、生物反応を再現して新たな物質を精製し、製品を作り上げる。キリンは世界的にも優れた発酵技術、生物学的な知見をもとに食、医、そしてヘルスサイエンス(健康食品・飲料、サプリメント)領域のプラットフォームを持つ世界で類を見ない企業。生活のあらゆるシーンの未充足ニーズに応えていく」と宣言した。

 新型コロナウイルスによって私たちは健康、公衆衛生への感心はいや応なく高まっている。プラズマ乳酸菌にある免疫機能はまさに今日的な社会解決問題の一助となるはずだ。すでに医療従事者でもプラズマ乳酸菌を含むサプリメント「iMUSE(イミューズ)」が活用されているほか、キリンビールの製造現場の従業員も摂取。幸いなことに現場からの感染者はゼロ(10月末時点)だ。コロナと経済との共存を余儀なくされる中で「企業活動を止めないことが社会貢献」と磯崎社長は言い切る。

 言葉の通底にあるのは、CSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)という考え方にある。社会的課題をキリンHDの事業の強みで解決し、企業の持続的な成長へとつなげていく。

 コロナで製造現場を除き、従業員の大半が在宅勤務となっている。改めて働きがいとは何か、パーパス(存在意義や存在理由)を自問自答するなかで、社会にとって価値創造ができているか、腹落ちしているかが再認識する機会だったに違いない。「歴史を守るために変わる」。その覚悟がヘルスサイエンス領域への挑戦だ。

(編集委員 田中陽)

成長の芽は課題解決の中にある――
 キリンHDの経営理念は「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」です。この理念を実現すべく、2027年に向けた長期経営構想「キリングループビジョン(KV)2027」を策定し、食から医に渡る領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業になることを宣言しました。社会課題の解決の中に事業の成長機会を見いだし、その解決を通じて社会的、経済的価値を両立させます。

 そのためのイノベーションを具現化するには4つの指揮能力が必要だと考えます。(1)お客様主語のマーケティング力(2)確かな価値を生む技術力(3)多様な人材と挑戦する風土(4)価値創造を加速するICT(情報通信技術)です。
 祖業であるビールなど既存事業でも健康を考えることはできます。10月にビール「一番搾り 糖質ゼロ」を発売。発酵の技術・研究の源であるビール事業は「一丁目一番地」なのは変わりありません。この強固な基盤があって、ヘルスサイエンス領域に一気呵成(かせい)に進めることができるのです。
 健康に国境はありません。プラズマ乳酸菌を世界の食品企業などに供給する準備を進めており、複数社の交渉に入っています。誰もが生活の一部として、意識しない形でプラズマ乳酸菌を摂取してもらえるのが理想ですね。昨年、グループ入りしたファンケルは美と健康の分野で女性の消費者に近い存在なため期待しています。
 発酵、バイオなど生物の根幹の技術をキリンが重ねてきたからこそ、社会課題の解決の一助になれると確信しています。そのために会社を変えていきます。

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