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コロナ時代、経営の羅針盤に「サステナベーション」 藤原遠・NTTデータ副社長に聞く

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 攻めるか守るか、日本企業の迷いが消えない。新型コロナウイルスの感染リスクは続いており、正常に戻りつつある経済活動を、どう維持していくかが大きな課題だ。ウィズコロナ時代の攻守を兼ね備えた、新たな経営の羅針盤として、NTTデータの藤原遠副社長は「サステナベーション」を唱える。サステナビリティー(持続可能性)とイノベーションを掛け合わせた新語だ。

変わらぬ日常を支えるイノベーション

 サステナベーションの中心には、サステナブルな社会の実現にはテクノロジー、特にITを活用したイノベーションが欠かせないという考え方がある。新型コロナへの対策も、新ワクチン開発には医療分野のイノベーションが必要になる。各国の市民に有益なウイルス情報を提供するにも、最新のITシステムがなければならない。

 藤原副社長は「サステナビリティーは静的なものでなく、常に変化し続けることで永続性が確保できる。持続可能な社会を実現するためには、企業がイノベーションを起こし続けていくことが求められている」と説く。実際、事業の持続性を念頭にSDGs(国連が推進する持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・統治)を経営方針に取り込むケースが急速に増えている。藤原氏はNTTデータで欧米市場といったグローバルマーケティングなどを担当した経験がある。海外の経営者や技術トップらと交流を深める中で、サステナビリティーとイノベーションを表裏一体で捉える発想に至ったという。

<関連動画>NTTデータ副社長が提言 日本企業の新指針(日経CNBC「Insight」9月15日放送)
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サステナビリティーを超えた「共生」を

 藤原氏は、サステナベーションを「テクノロジーによるイノベーションで経済活動の基盤であるトラスト(信頼)を構築し、あらゆる人々が持続可能に共生できる社会の実現を目指すこと」と規定する。これまでの新技術が人々の生活に何らかのプラスの貢献をしてきた一方、社会、環境、経済がお互いに共存しあえる理想的な均衡点に到達するには、長い時間が必要だと藤原氏は指摘する。サステナベーションを実践するポイントのひとつは、持続性を超えた「共生」を目指すことだという。

 藤原氏は「歴史的に『共生社会』に取り組んできた日本企業こそサステナベーションを取り入れて世界的に活躍できる」と説く。典型的なケースが江戸時代の近江商人の「三方良し」だ。「買い手良し、売り手良し、世間良し」の精神は、多くのステークホルダーを満足させ、さまざまな社会問題を解決することで利益を生み出す経営理念だと藤原氏は分析する。明治期に近代経済・産業の礎を築いた渋沢栄一の「道徳経済合一論」にもSDGsの精神が刻まれていると指摘している。

新渡戸稲造が裁いた国際関係の「3方1両損」

 さらに江戸時代における「大岡裁き」に見るような痛み分けの姿勢も、サステナベーションを実践する上で必要だと藤原氏。近代史で実際に行ってみせたのが、国際連盟の事務次長に就いた1920年の新渡戸稲造だ。フィンランドとスウェーデンの中間に位置するオーランド諸島の領有権争いの裁定に関わった。結果は、スウェーデンはオーランド諸島の統治権を得られず、同諸島も希望したスウェーデンへの帰属はかなわなかった。フィンランドも同諸島に独立国のような自治権を認めざるを得なかった。3者とも損したかに見える裁きだったが結局は地域の安定につながったという。藤原氏は「サステナベーションを実現していくにはステークホルダー同士がある程度我慢しながらも結果的に『ウィンウィン』の結論を得るようにするのが重要だ」とみている。

 国内におけるサステナベーションの一例が、鹿島建設と気象情報サービスのハレックス(東京・品川)との熱中症対策システム。当日の気象情報から熱中症の発生危険度を現場ごとに予測・提示するシステムを、鹿島は関東支店管内の全現場に導入した。作業者の熱中症リスクを把握することで工期の安定などにもつなげたという。

サステナベーションの種を提供する米の研究所

 昨年米国シリコンバレーに設立した「NTTリサーチ」は、量子計算科学、暗号情報、生体情報処理の3分野でオープンイノベーションや世界的な研究者とのコラボレーションを進めている。量子計算科学研究では「コヒーレントイジングマシン」という独自手法のコンピューター開発で米航空宇宙局(NASA)や米スタンフォード大と連携。創薬における候補特質の探索応用範囲を広げられるとしている。暗号処理ではブロックチェーンの安全性理論。生体情報処理では精密医療につながる人工知能などを活用した分析技術や、ナノサイズの治療機器開発に取り組むという。藤原氏は「このような最先端の技術に加え、日本企業の技術的な蓄積とサステナビリティーを大切にする歴史的な素地が、世界市場でのビジネス機会の拡大につながる可能性がある」とみている。

(松本治人)

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