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中国 新常態の旅行はオンラインで ライブコマースとも連動 JTB総合研究所主任研究員 郭玲玲

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2.「ライブ配信観光」の現在の動き

「ライブ配信観光」は中国では「雲看展(クラウド上の展示会という意味)」と「雲看景(クラウド上の旅行)」の2種類に分類でき、そのほとんどが無料で参加できる。

 「雲看展」は博物館、科学技術館の展示物にフォーカスするライブ配信がメインだ。博物館などが、オンラインのプラットフォーム機能を持つ企業と連携し、一般の視聴者に広く配信するケース(BtoC形式)が多い。一方、「雲看景」は配信者および対象を限定することがない。観光事業者が一般の視聴者に向けて配信するケース(BtoC形式)、一般の視聴者同士が配信し合うケース(CtoC形式)のいずれもある。

 (1)「雲看展(クラウド上の展示会)」 現在も好調維持

「雲看展」の代表的な事例に、外出自粛期間中(2020年1月下旬~3月1週目前後)に、中国国内の8つの博物館が、中国最大級のオンラインショッピングモールであるタオバオと提携したライブ配信観光がある(表1)。「ライブ配信+アナウンサーによる紹介+歴史・文化のレクチャー+文創商品(歴史文化を踏まえたストーリー性、デザイン性の高い商品)のオンライン販売」といった組み合わせで、2月23日の10時から12時間に渡り配信された。参加は無料で、文化活動を支援する意味もあった。

 この「雲看展」は約1000万人の中国人が視聴したが、「いいね」の数は博物館ごとに明確に差がついた。例えば、西安碑林博物館は、「いいね」の数が500万人を超えた。理由は以下ではないかと考える。

 理由1:配信する時間帯が良い。西安碑林博物館は20時から配信を開始した。夕食終了後で、テレビを見たりネットサーフィンをしたりする時間帯だった。

 理由2:西安は昔の長安であり、都としての歴史が長く、関心が高い。また、2019年に「長安十二時辰」というドラマが中国国内で高い人気を呼んでいた。

 理由3:館内放送風とまではいかないが、アナウンサーの解説が面白く、視聴者と相互コミュニケーションを行う、オンライントークショーのような放映になっていた。

 美術館や博物館という、知的好奇心をくすぐる「雲看展」は、視聴者や観光関係者の中でも評価が高く、現在でもその需要は消えていない。9月現在で、解説者の顔が見えるラジオ配信のような「雲看展」も登場している。

表1 八大博物館の「ライブ配信観光」の比較

 (2)「雲看景(クラウド上の旅行)」 内容に差、リアル旅行が回復しても残るのか

 中国では早くにライブ配信観光が話題になったこともあり、筆者も「雲看景」を体験してみた。3月1日14時開始、「雲春游・第1回目ポタラ宮ライブ配信」だ。中国のチベット自治区にあるポタラ宮からのライブ配信が約1時間にわたって行われた。無料だった。

 ポタラ宮は、チベット自治区ラサ市内にある宮殿で、標高3700メートルのマルポリの丘に1300年前に建設された世界遺産である。海抜が高く放送電波が不安定のため、当日のライブ配信は数回止まってしまったが、最終的には視聴者数は92万人となり、「いいね」の数は88.03万、満足度は95%以上の高い評価を得た。その要因は3つあると考える。

 理由1:ポタラ宮の観光価値の高さ。中国人にとってポタラ宮は神秘的かつ神聖なシンボルであり、一生に一度は行きたい聖地である。

 理由2:自粛期間が長く続く中、「旅行の気分」を味わいたい気持ちが強くなっていた時期だった。

 理由3:海抜が高く旅行者が高山病になりやすいため、気軽には行けない場所と思われている。ライブ配信の電波状態が悪く、動画の画面が多少揺れるなどのトラブルが起きても、それを超える感動が生まれ伝わりやすい。

 ライブ配信中は妊婦や高齢者、障がいを持った方など、行動が不自由な方からも多くのコメントが集まり、高評価を得た。

 現在、「雲看景」は多くの観光地でプログラムがあるが、そのほとんどはライブ感あふれる疑似体験の観光というより、旅行商品の販売や物販に重きを置く傾向がある。そうなると、結局は商売が透けて見え、価格勝負に陥ることになり、視聴者の関心を長期的に得られず、一瞬のお祭りとなり終焉(しゅうえん)を迎えてしまう可能性が高いと感じた。

 中国では「雲看展」、「雲看景」共に、新規のマーケットとして未成熟である。この先、オンライン独自の、希少性の高いコンテンツが増え、市場が広がり、アクティブユーザーがある程度増加すれば、視聴費などを課金できるビジネスモデルに発展する可能性が高いと予想される。しかし、一方で、既に中国では国内旅行が回復傾向で、リアルな旅行者も増えている。その中で、オンライン観光が残るには、ユーザー接点としての情報源に留まらず、コンテンツや演出の特別感が必要ではないかと思う。

 日本はこの夏、新型コロナの感染が止まず、地域の観光事業者がオンライン観光を積極的に行っている。その後の動きを知るためにも、中国の動向には注目したい。

郭玲玲(かく・れいれい) JTB総合研究所主任研究員
2000年に初来日し、日本の大学で学ぶ。2006年、中国にて建築系日本企業中国法人に入社。通訳翻訳をはじめ、商材の仕入交渉、現地人事労務管理及び通関業務等生産・経営に関する全般業務を経験。2008年、再来日し、人材ビジネス会社に入社。新卒採用と外国人人材の派遣・人材紹介及び日本中小企業向けの中国進出コンサルタントを経験。2015年よりJTB総合研究所において、インバウンド調査、人材育成コンサルティングを数多く手掛ける。

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