アフターコロナの働き方

「仕事分けたら格差拡大」は誤解 任せて成長促す 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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 テレワークが成功するためのカギは仕事を「分ける」こと、すなわち一人ひとりの分担を明確にすることである。そして前回は「分ける」となぜ仕事の生産性が上がるかを説明した。

 しかし、いっぽうでは「分ける」ことにともなうさまざまな弊害を懸念する声も根強い。そこで、懸念される弊害について考えてみよう。

 代表的な懸念の一つが、「弱肉強食」あるいは「格差拡大」である。一人ひとりの分担を明確にすると実力のある人にとってはよいかもしれないが、能力の劣る人が置いてけぼりになりかねないというわけである。日本企業は集団で仕事をし、互いに助け合ってきたから脱落者を出さず、格差の拡大も防げたと理解している人は多い。

 たしかに集団的な執務体制のもとでは、一人ひとりの能力や貢献度の差は表面化しにくい。そのため正社員である以上、評価や報酬にも大差がつかない。

 しかし裏を返せば、同じ仕事をしていても正社員と非正社員の処遇には大きな格差が生じるわけである。それが「同一労働同一賃金」の原則に反することはいうまでもない。自社の正社員だけを平等に扱うことは、もはや社会的正義とはいえなくなっているのだ。

集団主義は「弱者」に優しいという誤解

 そして、そもそも集団主義は「弱者」に優しいといえるのだろうか?

 ある機械部品メーカーでは以前、数人単位で行っていた仕事を一人ひとりが独立して行う体制に切り替えた。すると格差が広がるのではないかという予想に反し、仕事の生産性に明らかな差は生じなかったそうだ。

 それには納得できる理由がある。集団的執務体制のもとでは、緊急を要する仕事やレベルの高い仕事は集団のなかで比較的優秀な人に集中する。ちなみに上司1000人を対象にした調査でも、60.4%の上司が「優秀な部下に優先して仕事を割り振っている」と回答している(「パーソル総合研究所・中原淳 長時間労働に関する実態調査」2017~2018年)。

 たしかに急ぎの仕事やレベルの高い仕事は優秀な人に、そうでない仕事は比較的能力の劣る人に回したほうが集団としては効率がよい。しかし、それでは優秀な人はますます能力が高まるいっぽう、劣る人はいつまでたっても能力が上がらない。そしてだんだんと集団内での能力格差は広がっていく。人の入れ替わりが乏しい職場では、内部に非公式な序列ができてしまうこともある。

リモート会議 若手が積極発言

 いっぽう単独で仕事を受けもつ場合には、職人と同じように自分で最初から最後までこなさなければならない。けれども自分のペースで、そして自分なりのやり方で仕事をこなすことができる。少々能力に差があってもそれぞれが上達し、結果的に極端な生産性の差がつかなくなるのである。

 たとえていうと、森林で大木の日陰に隠れて成長できなかった樹木が、伐採や森林火災で大木が消えたとき、陽光を浴びて一気に成長するようなものである。

 実はコロナ対策としてテレワークを導入した企業でも、似たような話が聞かれる。

 それまで上司や先輩に遠慮して会議でほとんど発言しなかった若手社員が、リモート会議でどんどん発言するようになったとか、おとなしくて存在感の薄かった社員がしっかり仕事をしていることがわかり、評価が高まったという事例が少なくないのだ。

 反対に声が大きく存在感のあった社員が、実際はほとんど貢献していなかったり、ごまかしがきかなくなったりするケースもあるという。

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