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コロナ後の雇用・業績 テレワーカビリティが左右 みずほ総合研究所 理事 小野亮

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 新型コロナウイルスの感染拡大は企業の業績に打撃を与えるとともに、テレワークの普及など労働環境を大きく変えています。そうしなか、テレワークのしやすさを示すテレワーカビリティという指標に関心が高まっています。テレワーカビリティが高いほど、コロナ禍の影響が少ないといます。みずほ総合研究所の小野亮理事(調査研究担当)に寄稿してもらいました。(記事の最後に小野理事がテレワーカビリティを軸にマーケットを見通した解説動画があります)

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 新型コロナウイルス対策として導入されたロックダウンによって、世界経済は急激に悪化した。ロックダウン解除後も、回復の足取りは一様ではない。経済的ショック(コロナショック)を最も厳しく受けているのは、航空旅客サービス産業、観光・宿泊産業、文化・芸術・エンターテインメント産業、外食サービス産業などであり、米国や日本をはじめ、各国に共通してみられる現象である。

米では金融57%、情報53%、運輸14%、宿泊8%

 労働者の働き方に注目すると、コロナショックを受け易いのは「テレワーカビリティ」(tele-workability)の低い産業や職業である。

 米国労働省によれば 、テレワーカビリティ(以下の数字は同一セクター内に占める在宅勤務可能な就業者の割合)が高い産業は、金融(57.4%)や専門・企業サービス(53.4%)、情報サービス(53.3%)であり、テレワーカビリティが低い産業は余暇・宿泊サービス(8.8%)、農林水産(11.1%)、運輸・公益(14.0%)などである。また、職業別に見た場合には、テレワーカビリティが高い職業は経営・財務(60.1%)、専門職(42.5%)であり、テレワーカビリティが低いのは運搬(3.0%)、製造(4.4%)、保安サービス(6.0%)などである。(図表1)

<図表1 産業別・職業別テレワーカビリティ(%)>


 テレワーカビリティを産業別と職業別にみてみると、どのような産業であれ、テレワーカビリティが低い職業では、コロナショックにより雇用減に見舞われている。また、情報サービス産業のように産業としてのテレワーカビリティは高いものの、販売などテレワーカビリティが低い業務に従事する多くの労働者が、感染防止のために働くことができなくなった産業もある。産業全体としてテレワーカビリティが低いセクター(例えば余暇・宿泊サービス産業)では、事業所そのものを閉鎖せざるを得ず、職業に関わらず雇用減に直面している。

 労働者のテレワーカビリティを問う経済的ショックは、恐らくコロナショックが初めてである。実際、リーマン・ショック時の雇用調整圧力を計測しても、ショックがどこか一部の産業や職業に集中するという特徴も、テレワーカビリティとの高い関連性も確認することができない。(後知恵であるが、リーマン・ショックによる雇用調整圧力は、コロナショックと比べると軽微であった)

 政策当局者にとって警戒が必要なのは、コロナショックが、従来の経済的ショックに比して経済的・社会的格差(米国の場合には人種の問題が加わる)を深刻化させる傾向を持つ点である。米国労働省によれば、人種別ではヒスパニック系のテレワーカビリティが最も低く、学歴や所得水準が低いほどテレワーカビリティが低い。最近の実証研究によれば、在宅勤務できない労働者として、低学歴(大卒未満)、低所得、低流動性、賃貸世帯暮らし、非白人などの特徴があり、大卒労働者と比べた場合、大卒未満の学歴を有する労働者は、2020年3月時点で4%Ptほど雇用調整幅が大きかったという。また、職業別のテレワーカビリティと所得水準(時間当たり賃金の中央値)の間に正の相関があることも指摘されている。コロナショックは、テレワーカビリティを媒介として、低・中所得層の労働者がいる家計を直撃するということだ。

テレワーカビリティと休業者数は負の相関

 日本でも同じことが起きている。みずほ総合研究所が独自に試算した日本の産業別テレワーカビリティと、2020年4月時点の産業別休業者数には、負の相関が見て取れる(図表2)。テレワーカビリティが7%と産業内で最も低い宿泊・飲食業では、105万人もの就業者が休業を余儀なくされた。一方、テレワーカビリティが84%と最も高い金融・保険業の休業者数は12万人に留まった。

<図表2 産業別テレワーカビリティと産業別休業者数>

 また職業別テレワーカビリティと職業別大卒割合の関係には正の相関がみられる。大卒率の低い職業ほど在宅勤務ができないということであり、コロナショックは非大卒労働者、すなわち相対的に所得が低い労働者の収入減に直結することを示している。

 コロナショックは、対面での役務提供が不可欠なサービス部門に「需要蒸発」という形で集中し、当該セクターの企業には強いリストラ圧力が生じている。すでに、平時でさえ景気拡大の恩恵を受けにくい低所得労働者の生活を直撃しているが、企業のリストラが本格化すれば、その影響は労働市場全体に及ぶだろう。

 強力な医療・公衆衛生対策の実施は無論のこと、当面、政府に求められるのは、企業や家計に対する継続的な資金繰り支援である。米国は4~6月期に巨額の財政支援を圧倒的機動力によって実現した実績を持つが、すでに一部の財政支援が失効しており、追加支援の在り方を巡って党派対立が続くという信じがたい状況となっている。日本では、申請手続きの煩雑さとデジタル化の遅れが相まって、企業や家計に支援が届くまでにあきれるほどのラグが生じている。

 中期的には、米経済学者ジョゼフ・スティグリッツが指摘するように、コロナショックによって労働市場には「感染リスクのある人間から機械へのシフト」「労働集約型労働から技能集約型労働へのシフト」という構造変化圧力が生じる。デジタル化投資は、コロナショックの経験から着実に広がるだろう。しかし同時に、そうした生産性向上の裏側では、縮小を余儀なくされるセクターの所得減(所得効果)が、新たに生まれる需要の恩恵(代替効果)を相殺する力が働くおそれがあることも忘れてはならない。社会全体のデジタル化と、円滑な経済構造の変化を促すために、企業・労働者双方への充実した支援が欠かせない。

日経CNBC「Insight Plus」 筆者の小野亮理事が日本経済新聞の佐藤大和編集委員兼論説委員とテレワーカビリティを軸に米雇用、そしてマーケットを見通します(7月3日放送)

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小野亮(おの・まこと) みずほ総合研究所 理事(調査研究担当)
1990年富士総合研究所入社、2002年みずほ総合研究所転籍。ニューヨーク事務所勤務を経て、経済調査部、市場調査部、欧米調査部にて、米国経済見通し担当と欧米経済総括に従事。2020年7月より現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。「やっぱりアメリカ経済を学びなさい」(共著、東洋経済新報社、2013 年)等、著書多数。日経CNBC「夜エクスプレス 雇用統計ライブ」(毎月第1 金曜日)とラジオNIKKEI「日経新聞を読んで」(毎月第4 木曜日)でレギュラーコメンテーターを務める。

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