アフターコロナの働き方

ワイガヤ効果に錯覚 仕事を個人に「分けた」ら生産性3倍 同志社大学政策学部教授 太田 肇

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 集団主義が根強く残る日本企業では個人が組織に溶け込み、一人ひとりの仕事は明確に分けられていない。それが強みだと信じている人はいまだに多い。

 しかし、そうした信念に反するような事例をしばしば見聞きする。

 試作モデルを製作しているある会社では、社員を独立自営に切り替え、個人の業績に応じて自動的に収入が決まる制度を導入した。すると従業員1人あたりの生産性がなんと3倍に上がった。従業員の仕事に対する姿勢も目に見えて変化し、「もう年だから」と新しい機械の操作を諦めていた中高年たちが、制度を導入したらあっという間に操作を覚え、使いこなすようになったという。

 別のメーカー(中小企業)では、社員が毎日8時くらいまで残業する現状をあらためるため、一人ひとりの分担を明確にして、自分の仕事を終えたら何時に帰ってもよいことにした。すると社員たちは午前中に仕事を終えて風呂に入り、3時には帰ってしまったそうだ。

 生産性向上は仕事の「質」にもあらわれる。オフィスワークや接客の仕事では、一人ひとりの仕事の分担を明確に決めたところ、ミスが大幅に減ったという話がしばしば聞かれる。

「分ける」とモチベーションが上がる

 このように生産性が飛躍的に高まった主な原因は、モチベーションすなわちやる気の向上だ。それは、つぎの単純な理論で説明できる。

 モチベーションの期待理論によれば、モチベーションの大きさは、努力すれば目標や報酬が手に入るだろうという「期待」(見込み)と、目標や報酬の「魅力」を掛け合わせた値によって決まる。したがって目標や報酬が自分にとって魅力的なほど、また同じ目標や報酬でも努力すれば手に入る(逆にいえば努力しないと手に入らない)と思うほど、モチベーションは大きくなるわけである。

 仕事を一人ひとりに分けたら、まず「期待」が大きくなる。

 かりに営業スタッフ5人で一緒に仕事をして、その成績で特別賞与が手に入る制度が取り入れられていたとする。そこでは自分がいくらがんばっても5分の1の影響力しかない(「期待」値は0.2)。それに対し一人ひとりの分担が明確で、個人の業績によって特別賞与が得られるなら、その獲得は自分次第、すなわち「期待」が最大値の1になる。

ムダを減らし、効率的に働くようになる

 もちろん報酬は金銭にかぎらない。人によっては金銭的な報酬より時間、たとえば残業せずに帰れたり、休暇をめいっぱい取れたりすることを重視する。その場合にも分担が不明確なら、いくら仕事を要領よく片付けてもほかの人が遅ければ自分だけ先に帰るわけにいかない。そして手が遅い人の仕事を手伝わなければならない。すると、どうせ早く帰れないのならがんばったら損だと思い、力を出し惜しみするようになるだろう。

 それどころか、つぎのような理由からわざと非効率な働き方をしたり、ムダを残したりする方向に動機づけられる可能性がある。仕事の分担が不明確な職場では、一人ひとりのアウトプットである成果や貢献度を把握できないので、インプットすなわちがんばりで評価せざるをえない。そのため非効率でムダな仕事を残しておいたほうが残業してがんばる姿をアピールできるし、おまけに超過勤務手当も稼げる。

 その点でも分担が明確でアウトプットで評価されるなら、一人ひとりがムダを減らし、仕事を効率的に片付けようとする。また他人のベースに左右されないので、この仕事を4時までに終えて残務整理をすれば5時には帰られる、というように計画が立てられる。

 冒頭に紹介した生産性向上の例は、こうした一人ひとりの行動変容がもたらした結果だと考えられる。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。