プロフェッショナル経営参謀

対談 課題設定力を磨き、「他の視点から見た光景」を示す JTIシニア・バイス・プレジデント 筒井岳彦氏×BCG日本代表 杉田浩章氏

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 新型コロナウイルス感染の収束にメドが立たないなど、先を見通すことが極めて難しい経営環境が続くなか、経営参謀の役割はますます重要度を増しています。歴史を振り返っても、参謀は平時より乱世において重用されてきました。ボストン コンサルティング グループ(BCG) 日本代表の杉田浩章氏は著書「プロフェッショナル経営参謀」のなかで、「参謀とは意思決定者を正しく動かす役割を負い、それを実現するために最適な仕事をデザインする人物」と定義したうえで、経営参謀として求められる能力を明らかにし、成長へのヒントを示しています。この連載では、同書に収められた2人の名参謀と杉田代表の対談を紹介することで、優れた参謀がどのように「仕事」をしてきたかに迫ります。2回目はJTインターナショナル(JTI) シニア・バイス・プレジデントの筒井岳彦氏です。

「もっと良くしたい」がドライバーに

杉田 筒井さんにぜひ伺いたいのは、JTという舵取りが難しい企業において、経営参謀としてどのような役割を果たして来られたのかです。

 中核事業のたばこは長期的にはダウントレンドであり、社会的な受容性の難しさが高まっている。一方で、現実的には今もたばこ事業が会社の主力として大きな利益を上げていて、しかも新興国においてはまだ成長の余地もある。この状況下で、企業としてどのように社会的な存在意義を再定義していくかというテーマに取り組むのは、そう簡単なことではないとお察しします。

 その役割を果たすために、経営参謀としてどのような信念やスタイルを大事にされていますか。

筒井 私にとって最も大きなドライバーは、「もっと良くしたい」という思いです。少し漠然とした言い方に聞こえるかもしれませんが、これは自分が入社したばかりの頃の原体験に基づいています。

 最初に配属されたのは、たばこ工場でした。そこで生産管理を任されて効率化や機械化に取り組んだのですが、工場という現場は小さなことでも工夫すれば結果が出やすいのがいいところです。もちろん最初は失敗続きでしたが、それでも「もっと良くしたい」と思って前へ進んでいくと、少しずつ結果も見えてきます。

 その後、経営企画部に移り、さらに海外事業へ異動しましたが、この新人時代の気持ちが今も私の根っこにあるのだと思います。

杉田 それはつまり、目の前の状況に対して常に課題を発見してきたということでもありますね。

筒井 おそらく私は”現状不満足型”なんでしょうね。今の状況に対していつも満足していない。

 何かを変化させようとしているときはその努力に没頭できるのですが、それが終わると目の前のことはまた「現状」になってしまう。すると「今思うと、ここはもうちょっと良くできたんじゃないか」と思い始めるわけです。それでまた前へ進み始める。それが私の推進力になってきました。

アジェンダを設定しない議論の場を作る

杉田 先ほど話したように、貴社は非常に難しい舵取りを迫られています。その中で、経営参謀としてどのようにアジェンダを設定してこられたのですか。

筒井 こんな時代だからこそ、まずは「アジェンダを設定しない議論の場」を作ることが大切だと考えています。

 過去の課題は非常に明確でした。例えば、「日本専売公社から民営化へのプロセスをどう推進していくか」といったものです。ところが現在は、解決法よりも前に、「課題そのものをどう設定するか」が非常に難しくなっています。

 では課題を設定する場をどう作るかと考えてみると、「皆さんは何が課題だと思いますか?」というぼやっとした投げかけをして、参加者が何を言ってもよさそうだと思える場をセットすることが重要ではないでしょうか。

 経営陣はそれぞれに担当領域がありますし、「これは言っても仕方ないな」「こんなことを言うと元も子もない」と思って口に出さないことも多い。だからこそ、あえてアジェンダを設定せず、「皆さんの中にある課題を何でも言ってください」という場を作る必要があるのです。

杉田 ただ、明確なアジェンダを設定しない場を作ること自体が、非常に難しいのでは? 経営者によっては、「何を意思決定するかもはっきりしないようなことに、なぜ時間を使わなくてはいけないんだ」とか「それを考えるのが参謀の仕事だろう」といった反論が出てくることもあるでしょう。

 その中で、どうやって参加者たちが本気で議論に挑む場をセットするのですか。

筒井 これは組織の特性によって異なるかもしれませんが、弊社の場合は、社長のリーダーシップで進めることが不可欠です。まずは社長が「ぜひやりましょう」と言って社内の雰囲気を醸成し、経営陣に「とにかく1日だけ付き合ってくれ」と働きかけてくれないと、なかなか実現しません。

杉田 すると次にお聞きしたいのは、「トップをどうやってその気にさせるか」ですね。

筒井 私が実践しているのは、社長との日常的なコミュニケーションの中で、雑談のようなフランクな会話をしつつ、「こんな議論も必要ではありませんか」という働きかけをあの手この手ですることです。

 「最近は『不確実性の時代』とか『ディスラプション』といったキーワードをよく耳にしますが、これは自分たちにとってどう関わりがあるんでしょう」「JTにも影響があるとしたら、これから私たちはどうやってレバレッジをかけていけばいいのでしょうね」といったことを常日頃から会話の中に出す。そして「こうしたテーマは経営計画を立てるための議論では出にくいので、何でも言い合える場を一度作りませんか」と提案する。これを繰り返し続けています。

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