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「山本五十六は避戦派」米で評価見直し機運 米中緊張も背景か

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抑止力の充実で対米戦の回避を目指す

 山本は、3カ国が海軍力を縮小して軍備平等を実現するプランや、共通最大限度を設定する方針などを提案した。日本の軍拡を危惧する米国からの声には「私は米国を潜在的な敵と見なしたことはありません。日本海軍の計画にも米国との戦争は含まれていません」と反論した。この時点では真実だったが、後に「笑顔の裏で戦争計画を練っていた卑怯者」と非難されることになった。結局、予備交渉は不調に終わった。

 山本が、近代的で強力な海軍を育てようと力を尽くしたのは間違いない。しかし著者のレイア教授は「山本は海軍を平和維持のための抑止力と見なしていたが、ほかの軍国主義者たちは米国を攻撃するための資産と考えた」と分析する。畑野氏も「米海軍の対日侵攻作戦の実施を不可能にするような程度の軍備が目標だった」と指摘する。実際、32年の第1次上海事変では抑止力の有効性が示されたという。畑野氏は「当時の米政府は日本に圧力をかけることを検討したが、とくに海軍の軍備が有利では無かったため放棄した」と説明する。

無用な事実誤認を是正し、対中制裁を強化?

 本書では前線視察を目的とした山本の搭乗機を撃墜する作戦に関しても、詳細な経緯を記述している。畑野氏は「米国では、これまでパイロットの誰が実際に撃墜したかを巡る論争がほとんどだった」と話す。しかし本書を通じて米海軍のニミッツ提督ら多くの将官らが関与し計画発動に踏み切ったことが分かったという。もっともルーズベルト米大統領やノックス海軍長官らが直接関わっていたかどうかは、まだ明らかになっていない。

 前線への視察は山本自身の強い希望だった。周囲からはいくつもの疑問や危惧の声が寄せられたが、根本的な計画変更は検討されなかったという。「前線部隊から敵情を積極的に聴取した形跡は見られず、前日の議論は、主に山本長官や随行者の服装についてだった」と畑野氏。海軍が気の緩みから重要人物を失ったという思いを禁じ得ないという。

 本書を畑野氏は「歴史の段階に入った山本機撃墜作戦の意味を問い直す試みだ」と結論する。さらに国際情勢の変化も影響しているかもしれない。米中冷戦だ。両国の対立は、太平洋を挟んでエスカレートするばかりで、米国にとって日本との同盟は効果的な対中制裁に欠かせない。日本に対する過去の無用な偏見や事実誤認は、客観的な視点から是正しておきたいという狙いも、本書からは読み取れそうだ。畑野氏は「山本長官は現在でも、米国でよく知られている日本人の1人だ。これからも時代の節目節目で取り上げられていくだろう」と予想している。

(松本治人)

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