プロフェッショナル経営参謀

対談 経営参謀はCEOのカウンターパートである リクルートHD顧問 池内省五氏×BCG日本代表 杉田浩章氏

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狼少年と言われても「ネットが来る」と伝え続けた

杉田 先ほど話に出た「インターネットの脅威」についてどうすれば経営層に本気で議論してもらえるか、経営参謀として池内さんが粘り強く取り組み続けた姿を私もコンサルタントとして間近で見てきました。

 池内さんは経営層に繰り返し伝えましたよね。「ネットの時代が来る、紙はダメになる」と。でも実際にネットの時代が来るまでにはタイムラグがあって、その間はリクルートの収益の大部分を既存の紙媒体事業が生み出す状況が続きました。

池内 だから私は社内で「狼少年」と呼ばれていた(笑)。来るぞ、来るぞと言っているのに、全然来ないじゃないかと。

 インターネットの到来によって既存ビジネスの収益性がどれくらい失われるかを分析し、取締役会に提案したこともあります。その分析シミュレーションでは、当時の営業利益が5年後には10分の1になるという数字が出たのですが、経営層の大半は「さすがにそんなことにはならないだろう」という反応でした。

杉田 そこから経営層を本気で議論させるに至ったブレークスルーはあったのですか。

池内 ある人から私の経営層に対するスイッチの押し方が下手だと指摘されたことが、自分をドライブする大きなきっかけになりました。当時ボストン コンサルティング グループの日本代表だった内田和成さんに言われたんです。「あなたって”桜散る”の美学だよね」と。

 どういう意味かというと、「これが正しいに決まっているじゃないですか」と正論を正論のままぶつけて、それが受け入れられないと「理解できない相手が悪い」と相手を責めながら玉砕する。「それって昔の青年将校みたいだよね」と内田さんに言われました。

 例えば上司と意見が合わないときに、正論を振りかざして「AだからB、BだからC、よって結論はDに決まっている」なんて言ったら、相当に相手の感情を逆なですることになる。「あなたは自分がそういうコミュニケーションをしていることに気づいていますか」とはっきり指摘されました。

杉田 確かにそんな伝え方をすれば、「そんなこともわからないなんて、あなたは頭が悪いんじゃないですか」と言っているようなものですね。

池内 続けて内田さんは、「そんなに強い思いがあるなら、それを明確に目的として設定し、他はすべて手段として割り切りなさい。今のあなたにはその覚悟が足りないから、経営層を動かすことができないのだ」とおっしゃいました。

 その言葉に、私は心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けました。経営層も私が正しいことを言っているのは理解している。ただし、それだけでは賛同者になってもらえない。人はどんなときに動くのか、どうしたら相手の共感を得られるのか。それを考え、目的を達成するために自分自身を道具として使うくらいの覚悟を持たなければ、最終的な成果には結びつかないのだ。そう思い知らされた一言でした。

杉田 思いを実現することが目的なのであれば、自分がやるべきことはすべてそれを達成するための手段なのだと割り切ることも必要ということですね。

池内 それからは、相手が言っていることの筋が悪いと思っても、いきなりそれを指摘したりせず、まずは最後まで話を聞いて共感を示すように意識しました。

 例えば、相手の意見をいったん受け止めた上で、「おっしゃる通りですが、確認したいことがあるので3つ質問してもよろしいですか?」といった切り返しをして、自分の意見や考えとのすり合わせをしていく。そうしたことを少しは心がけるようになったのは大きな変化でした。

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