楽しい職場学

オンライン会議 笑いをノイズにするな 西武文理大学サービス経営学部専任講師 瀬沼文彰

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 新型コロナウイルスは、流行初期の段階から、長期化するのではないかと言われていた。現在、日本政府は、感染を抑えながら経済も両立させる政策をとっている。

 コロナ禍で、個人差はあるものの、私たちの働き方改革は一気に進み、テレワークも定着してきた。個人的には、早く元の生活に…とも思うが、今後も終息の見込みが定かではないため、私たちの方が変化していくほかないのだろう。

 本連載「楽しい職場」では、私自身が研究してきたユーモアや笑いをどのように組織に活用していくかを論じてきた。新型コロナ感染やそれに伴う病気の恐ろしさは、むろん、笑う対象ではない。また、その影響で経済が傾くことも笑えない。とはいえ、感染抑制と経済の両立という難しい課題を抱え、私たちは、日々、働き、コミュニケーションを行う必要がある。

今こそ職場に必要な笑い

 その際、現状の深刻さをふまえて、皆が真顔で厳しい顔をしてコミュニケーションをしていることは健全ではないと思う。世界の笑い研究を参考にすれば、ユーモアを用いることで、私たちは、少なくとも短期的にはネガティブな気持ちを抑え、ポジティブな気持ちになることができる。組織内では、笑うことで気持ちが前向きになることもあるだろうし、ときには、楽しく笑うことで社内の人たちとのつながりを感じることもできるし、一体感も作れるはずだ。笑うことで張り詰めている緊張感を緩和することもできる。一度どっと笑うことで、リセットのような効果が発揮され、別の展開に話が進み新しいアイデアにつながっていくことだってあるはずだ。さらには、笑いそのものが未来への希望へとつながることもあるはずだ。こうした意味では、辛いときにこそ、笑いは必要である。

 とはいえ、対面では、マスクを着用しているため笑う顔は見えにくい。楽しくても興奮して話したり、大声をあげたり、爆笑をしたりしてしまうと飛沫感染のリスクが増してしまう。笑いは、家族のように生活を共にするごくごく限られた関係性のものになってしまったのかもしれない。そのため、職場での笑いは減った可能性もある。だが、マスク越しでも、私たちは、笑い声を聴くことができるし、相手の表情もつかむことにだいぶ慣れ始めてきた。さらに、コミュニケーションの機会は、オンライン上を含めればコロナ禍前よりも増えたようにも思える。

オンラインの笑い、センスより技術?

 新型コロナの感染者が増加していくなか、職場や学校では、ZOOMやGoogle Meet、Microsoft TEAMSなどのオンライン会議ツールを用い頻繁にコミュニケーションが行われはじめ、私たちもそれらの扱いにだいぶ慣れてきた。では、オンライン会議の笑いはどうなっているのだろうか。

 対面のコミュニケーションであれば、誰かを笑わせる際には、職場のなかでは、笑わせるテクニックの引き出しのある人やそれに慣れている人、コミュニケーションに遊び心のある人などのユーモアセンスを持つ人が笑いの中心であったことだろう。

 オンラインでもそれらの笑わせ方は有効だ。だが、ZOOMなどのオンライン会議で笑いをつくる際には、対面とは異なり、前述したような笑いのセンスよりも、マイクの調子、カメラの解像度やネットの回線速度の問題のほうが、まずは前提になってしまうという現象が起きた。どんなに実力のあるお笑い芸人でもマイクにノイズが入っていたり、回線が悪く声がとぎれとぎれてしまったら、面白みがまったくなくなってしまうというわけだ。

「新しい笑い」模索を

 また、4人から5人以上のコミュニケーションでは、皆で同時に笑うことができない。なぜなら、同時に笑うと、各自の笑い声が途切れ、全体には心地よいとは言えない音が伝わってしまう。あるいは、ネット環境かマイクの音量が大きい人の笑い声が全員の笑いを奪い去り、不気味に響き渡る。私自身、笑いの研究者として非常に驚いたが、複数人の笑いは、現状のビデオ会議での性能では、ノイズのひとつとなってしまった。

 笑いを通じて得られていた一体感は、今後どのようにして獲得すればいいのだろうか。ニコニコ動画的な弾幕のように、盛り上がるタイミングで、(笑)を意味する「wwwww」をチャットで送り合えばいいのだろうか。LINEなどのチャットで即時性の高い双方向のコミュニケーションに慣れている世代であればそれでも一体感や面白さの評価を相互的に受け取れそうだ。

 あるいは、話す人以外は全員ミュートで、オーバーな表情などのノンバーバル(非言語)コミュニケーションで、笑いや楽しさを伝えたり、対面以上に画面に映る範囲内で手をたたいたりすればいいのだろうか。複数で会議を行う際には、これまでの笑いに変わる「新しい笑い」を作り出す必要がありそうだが、この問題はずいぶん難しい。

 これまでどおりの感覚で笑い合うのであれば3人まで。それ以上は声の重なりの問題を先に解決する必要がある。今後のテクノロジーの進化や5Gの本格導入で激変することに期待したい。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。