アフターコロナの働き方

中高年の活躍阻む3つの壁 テレワークが崩す 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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 少子化にともなう長期的な労働力不足。それを補う役割を期待されているのが、意欲ある中高年たちだ。

 ところが実際に中高年が継続して働くうえでは、大きな壁が3つある。

通勤こそ最大のネックだった

 1つは能力の壁である。

 ちまたでは、中高年になると創造性や記憶力、判断力など知的能力が衰えると信じられている。創造性が決定的に重要な研究開発の現場では、30代の半ばに峠を越えるという「35歳限界説」まで存在する。

 しかし脳科学者によると、人間の脳は使い続けているかぎりいくつになっても発達するそうだ。実際に作家や芸術家のなかには70代、80代になっても独創的な作品を世に送り出している人が少なくない。定年退職後にパソコンを覚え、80代でゲームクリエーターとして活躍する女性もいる。

 中高年が働き続けるうえでネックのなるのは、むしろ肉体的な衰え、とりわけ毎日の通勤だろう。満員電車に揺られて毎日会社に通うのはかなりの重労働であり、中高年には厳しい。逆にいえばテレワークで自宅にいながら仕事ができるなら、能力的な限界は大幅に遠のくはずだ。

30代、40代で限界がくる日本、いくつになっても限界がこない欧米

 2つ目は制度の壁である。

 つぎの調査結果に注目してもらいたい。日本生産性本部は1988年から90年にかけて日本、アメリカ、イギリス、ドイツ4か国の大手企業の研究所で働く技術者を対象に調査を行った。そのなかで「あなたの周囲を見て技術者として第一線で活躍できるのは、平均的にみて何歳ぐらいまでとお考えですか」と聞いたところ、日本では「30歳台後半」「40歳台」が合わせて6割を占めた。いっぽう他の国では「年齢に関係ない」が7割以上を占め、それに次いで多いのが「50歳以上」だった。

 またアメリカの研究所で実態調査した石田英夫・慶應義塾大学名誉教授によれば、年齢による雇用制限が禁止されているアメリカでは70歳以上の研究者は珍しくなく、90歳以上の人もいるという。特許や論文などの研究成果を見ても、60歳以上の業績は40代、50代に比べ劣ってはいない(石田英夫編『研究開発人材のマネジメント』慶應義塾大学出版会、2002年)。

 要するに欧米では、年をとっても知的能力は低下しないと認識されているわけである。

 日本と欧米との間にあるこのように極端な違いは、いったいどこからくるのか?

中高年の能力低下は、加齢でなく「制度」が原因

 それは、ひと言でいうと制度の違いである。

 年功制が残るわが国では能力と無関係に50歳前後まで給与が上がり続け、60歳の定年まで大きく下がることはない。いっぽう中高年の知的能力は実際に低下しなくても、上昇する給与との間にはおのずと開きが出てくる。給与に見合った貢献ができなくなるのである。つまり絶対的な能力は低下していなくても、待遇との比較によって「能力の限界」とか「能力が衰えた」と見なされるのである。

 要するに能力そのものではなく、制度が限界をつくっていることを意味する。したがってわが国でも、かりに年功制を廃止すれば欧米の中高年と同じように、いつまでも第一線で活躍できるはずだ。

 テレワークはそれを後押しする。

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