水素エネルギー社会の実装とグローバル連携

供給網構築へ 力結集 グローバル連携とインフラ整備進む(下)

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■自治体講演

水素活用の先進都市・神戸

神戸市長 久元 喜造 氏

 神戸では海上に位置するポートアイランドで世界初となる2つの実証事業を行っている。日豪共同の水素サプライチェーン構築実証事業では、オーストラリアの未活用の褐炭を水素に変え現地で液化。液化水素運搬船で海上輸送し神戸に荷揚げして、液化水素をエネルギーとして利用する事業になる。水素エネルギー利用システム開発実証事業は、水素燃料100%で発電した電気と熱を病院やスポーツセンターなどに供給。発電効率や環境性能の向上、低コスト化を図る技術開発に向けて設備をリニューアルし、今年度は実証運転を行う予定である。

 2つの事業の成果を神戸市内で実装するために、ポートアイランド内にモデル地区を設定した。エネルギー消費量や時間帯別の電力負荷など実態を調査したデータを基に、2050年までにCO2 80%削減を目指す。

 グローバル展開としてはドイツのハンブルク市、スコットランドのアバディーン市と連携、ロバート・ゴードン大学と神戸大学との連携など、若い世代の相互派遣にも取り組んでいる。さらに19年には都市間でエネルギー業界の知識・ノウハウを共有する自治体のネットワーク「世界エネルギー都市間パートナーシップ」(WECP)に加盟した。我が国の自治体としては初めてとなる。グローバルな取り組みが各自治体に広がり連携が進むことを期待したい。

■寄稿

臨海部を核に水素戦略

川崎市長 福田 紀彦 氏

 川崎市の臨海部は京浜工業地帯の一角として発展し、健康・医療分野で世界最先端の研究開発拠点であるキングスカイフロントを擁するなど、わが国の成長戦略の一翼を担う重要なエリアだ。

 ここには、水素を製造・利活用する企業やFC関連企業も数多く集積している。水素社会の実現に向け、2013年に有識者や立地企業とともに川崎臨海部水素ネットワーク協議会を設立。15年に川崎水素戦略を策定した。水素供給システムの構築、多分野にわたる水素利用の拡大、社会認知度の向上の3点を基本戦略とし、現在8件のプロジェクトを進めている。

 直近では、太陽光発電で製造した水素を事業所内で利用する「CO2フリー水素充填・フォークリフト活用モデル」について、今年2月に充填施設が完成、実際にFCフォークリフトが工場内で稼働している。また、ブルネイで調達した水素を有機ケミカルハイドライド法で液体にし、常温・常圧で通常のコンテナ船で海上輸送、川崎臨海部の製油所内で発電利用する「サプライチェーン構築モデル」は、いよいよ世界初の国際間輸送による水素混焼発電の実証を行う段階になった。さらにFCで走行する鉄道車両についても21年度に試験走行を開始、実証を進める予定だ。

 今後も、水素関連企業・団体と連携し、川崎から新たな取り組みを生み出していく。

■パネルディスカッション 水素エネルギー社会の実装とグローバル連携

●パネリスト

国際大学 大学院国際経営学研究科 教授 橘川 武郎 氏

Principal, Nous Group  リチャード・ボルト 氏

佐薙 徳寿 氏

原田 英一 氏

笹津 浩司 氏

●コーディネーター

日経BP総合研究所 上席研究員/メガソーラービジネス編集長 金子 憲治 氏

水素インフラの整備が課題 橘川 氏
需要拡大には国際協力必須 ボルト 氏
鍵握る用途の拡大と事業化 佐薙 氏
大規模輸送でコスト低減を 原田 氏
環境意識の高まりが後押し 笹津 氏
多様な用途広く伝えるべき 金子 氏

脱炭素・再エネ本格化 水素ブームが到来

 金子 グローバルな視点で水素社会に向けた現状と課題を聞きたい。

 橘川 日本はFC先進国ではあるが水素インフラの整備は遅れており、水素社会の到来は道半ば。大規模水素発電に関しては日本の電力業界の今後の取り組みにかかっている。注目しているのは水素とCO2からメタンガスを作るメタネーションだ。オランダのマグナム発電所で水素発電を予定しており、日本製ガスタービンが使用される。欧州では既存の天然ガスパイプラインを水素用に転用する計画もあるが、日本は後れを取っている。

 ボルト オーストラリアでは複数の水素プロジェクトがあり、その多くに日本企業が関わっている。ビクトリア州では褐炭から水素を製造し液化して神戸へ輸送するプロジェクトが進行中だ。南部では100%再エネでアンモニアを製造するプロジェクト、西部では再エネ開発プロジェクトも予定している。水素の商用化には、石炭ガス化とCCSの組み合わせ、再エネによる水電解の選択肢がある。水素需要の創出と商用水素製造に投資を呼び込むには、規制や助成制度で関係国と業界による整合性のある政策介入が必要だ。

 金子 昨今の水素の盛り上がりは本物と考えるか。

 橘川 脱炭素の流れと、再エネが本格化した中での動きには必然性がある。

 佐薙 中国・欧州の再エネ活用の動きも活発だ。

 笹津 脱CO2の流れと国の戦略的後押しも大きい。

 ボルト 水素活用技術が整い、官民が試験的・商業的に取り組み始めている。

 原田 気候変動が表面化する中で脱炭素のうねりができ、技術も進歩した。ブームは本物だと考える。

 金子 コストと競争力について聞きたい。

 佐薙 再エネ水素の低コスト化は用途の拡大と事業化が鍵。既存のものと同等のコストを実現しないと勝ち残れない。

 ボルト 低コスト化には革新的技術と政府の後押しが必須。最終的には経済的対価を払ってでも脱炭素化を目指す必要がある。未成熟な地域への投資も必要。

 原田 大量輸送は低コスト化に向けた取り組み。現状の天然ガスと同等のコストには到達すると考える。

 橘川 水素は現時点では経済性が悪い。逆の特性を持つ石炭との組み合わせで変化が起こる可能性がある。

 笹津 化石燃料由来のCO2フリー水素利用を広げインフラ整備を進めたい。

 金子 FCVなどの水素利用をはじめ、水素の用途は広い。大規模水素サプライチェーンの可能性などを広く伝え、需要を拡大していく必要がある。普及戦略について聞きたい。

 笹津 例えばビクトリア州のガスパイプラインにCO2フリーの水素を混ぜればインフラのコスト削減、低炭素化につながる。

 橘川 日本での大規模需要の絵を描く必要がある。

 佐薙 工業材料としての使用にも注力している。

 原田 ハイドロジェン・カウンシルでも需要拡大策が議論された。神戸では海外から入ったCO2フリー水素を再エネや燃料電池等と組み合わせて需要拡大を図る取り組みを始める。

 ボルト 国際的政策介入による大規模な拡大と水素活用の働きかけが重要だ。

地域の特性に合わせ再エネ・水素を活用

 金子 地域での水素活用はどう考えるか。

 橘川 高価なFCVは、まず公共バスで使うなど、自治体の役割は大きい。

 佐薙 分散電源を離島で使うアプローチもある。

 笹津 地域の特性も生かしたい。地方では再エネ電気を使った水素利用もある。

 原田 小さな地域では設備費を公的な費用で賄えば運転費用は安くなる。地域に適したシステムはある。

 ボルト 電線を引けない地域などはクリーン水素発電のチャンスがある。組み合わせの最適化が重要だ。

 金子 今後のビジネスチャンスや技術開発の余地、課題について聞きたい。

 橘川 一般の発電やエネルギー転換部門ではカーボンプライシング(温暖化ガス排出課税)をやるべき。オーストラリアやノルウェーでは炭素規制が起点になった。

 佐薙 福島では製造コスト低減が課題。電力系統のシステム最適化も必要だ。

 笹津 信頼性を担保しながら低コスト化する課題がある。CO2の輸送・貯留は技術だけでなく社会的仕組みとも関係する。技術とビジネスモデル、仕組みが混在する分野で課題がある。

 金子 オーストラリアではCO2を地中に埋めるCCSの社会的合意は取れているのか。

 ボルト 大規模実証はこれからだが十分な討議と段階を踏めば理解は得られるはず。理想的には新たなカーボンプライシングを特定の技術やセクターに最適な形で展開し、規制・補助金・税制・排出量取引認可の面でも支える必要がある。

 原田 大規模輸送や液化技術は大幅に効率が上がる可能性がある。サプライチェーンでもコスト低減の技術課題がある。

 金子 政策提言についても聞きたい。

 橘川 水素は多様なエネルギーとつながるため、問題点も含めて徹底的に情報公開をしてほしい。

 佐薙 水素は幅が広く、産官学の協調が不可欠になる。福島の再エネの水素製造設備で期待に応えたい。

 笹津 国・自治体には規制に関する柔軟な対応を望む。例えば水素は高純度を求めるとコストが高くなるなどの問題がある。純度とコストの適正なバランスを探り、実装していくべきだ。

 ボルト 気候変動減少への実効ある解決に向け、緊密な国際協力を期待する。

 原田 水素エネルギー利用は後の世代に幸福をもたらすプロジェクトだ。官民で協力してエネルギーの最先端を走りたい。

主催:日本経済新聞社、日経BP

後援:東京都

メディアパートナー:FINANCIAL TIMES

協賛:J-POWER(電源開発)、清水建設、岩谷産業、川崎重工業、トヨタ自動車、東芝

特別協力:三菱地所

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