水素エネルギー社会の実装とグローバル連携

供給網構築へ 力結集 グローバル連携とインフラ整備進む(上)

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 脱炭素化への切り札と目される水素エネルギー。日本では世界に先駆けて、広く社会に実装するためのインフラ整備とグローバル連携が進む。いまや水素システムは、安定的なビジネスモデルを構築していく新たな段階へ移りつつある。5月15日に無観客で開催した日経社会イノベーションフォーラム「水素エネルギー社会の実装とグローバル連携」で交わされた、産学官キーパーソンの議論を採録する。

※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、リモート登壇やビデオ講演に寄稿を加えて構成した。

■寄稿

行動指針共有し各国と連携

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長 松山 泰浩 氏

 社会の持続的な発展と脱炭素化を実現するには、水素エネルギーの活用が大きな鍵となる。経済産業省では昨年、水素・燃料電池(FC)戦略ロードマップを改定し、取り組みを進めている。この1年間で、世界初の液化水素運搬船が進水し、世界最大級の水電解装置を備えた「福島水素エネルギー研究フィールド」が開所。そのほか、FCトラックの民間共同開発やFCハイブリッド鉄道車両の走行実証の決定など、取り組みが多方面で加速している。

 グローバルな連携も極めて重要だ。昨年9月には35の国・地域と国際機関などが参加する水素閣僚会議を開催し、行動指針として「グローバル・アクション・アジェンダ」を発表した。コロナで停滞した経済への景気刺激策として、水素や蓄電技術への投資喚起の機運も世界で醸成されている。この勢いを増すべく引き続き取り組んでいく。

■基調講演

日本主導で水素社会実現

日本水素戦略イニシアチブ 東京工業大学 特命教授・名誉教授 柏木 孝夫 氏

 風水害や地震などの災害が多くなっている現在、エネルギーの強靭(じん)化は大きな課題だ。2018年の第5次エネルギー計画では、再生可能エネルギー(再エネ)を主力電源化して社会に実装すると明記している。ただし再エネは非常に不安定で、安定的なエネルギー需給構造を形成するには水素が重要になる。

 水素社会の実現には、制度が大きく影響を及ぼす。経済産業省は電気事業法の改正に踏み切り、エネルギー供給強靭化法案をまとめた。配電事業やVPP(仮想発電所)に関する法整備によって地域のエネルギー需給を支えるデジタル化が可能になり、強靭なエネルギーネットワークを構築できるはずだ。また、家庭用FC(エネファーム)においては、このたび新築はZEH+R(ゼッチアール)補助金対象の一つにカウントできるようになった。これを呼び水として急激に普及が進み、政府目標「30年にエネファーム導入台数530万台」に近づいていくだろう。

 水素戦略に関して、日本は世界のイニシアチブを取り続けてきた。今年経産省は、エネルギー・環境技術開発を加速する革新的環境イノベーション戦略を立案するなど積極的な動きを見せている。今後も大規模な国際ネットワークを作ることで経済性を保ち、水素のコスト低減につなげられる。産官学が志を一つに進んでいくと期待したい。

■寄稿

ゼロエミッション東京目指す

東京都 環境局長 吉村 憲彦 氏

 東京都では昨年12月、気候危機に立ち向かい都民の生命と財産を守るため、2050年に世界の二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京戦略」を策定した。その実現には化石燃料から脱炭素エネルギーへの転換が不可欠で、再エネ由来CO2フリー水素を脱炭素社会の柱の一つと位置付けた。

 都は現在、同戦略に基づき、燃料電池自動車(FCV)の普及に先立ち水素ステーションの設置を促進、21カ所まで整備が進んでいる。また、水素需要が大きいFCバスの導入などを支援。都営バスでは今年度中に70台、民間バスを含めると100台以上の導入を目指している。業務・産業用FCについても、本格的な普及を目指して後押ししている。

 CO2フリー水素の普及に向けては、国や関係団体と連携し、東京2020大会開催時に福島県産CO2フリー水素の活用を目指す。さらに官民連携による「Tokyoスイソ推進チーム」や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などと連携し、水素エネルギーの普及促進に向けた共感と行動を呼びかけていく。

 今後も、ポストコロナのエネルギー消費構造、人の移動や物流などの生活様式の変化を捉えて、水素エネルギー普及拡大施策のバージョンアップを図り、ゼロエミッション東京を実現していく。

■企業講演 燃料電池自動車普及に向けた水素ステーション整備の加速

ステーション整備を加速

日本水素ステーションネットワーク 社長 菅原 英喜 氏

 燃料電池自動車(FCV)の本格普及は近くまで来ている。今年末には大量生産可能なトヨタの次期MIRAIが月1000台ペースで市場に登場する。現代やメルセデスも新商品を開発し日本市場をにらんでおり、普及が進むと予感させる。

 水素ステーションの設置数は日本がトップランナーであり、2030年には900カ所の設置目標を掲げている。現在はオフサイト型で5億円、オンサイト型でプラス1億円の初期費用がかかるため、コストダウンが今後の課題だ。

 われわれJHyM(ジェイハイム)は一昨年2月に設立され、現在25社で構成。水素ステーションビジネスの自立化を目標に掲げ、10年後をめどに達成する。事業内容は「戦略的な水素ステーションの整備」「今あるステーションの効率的な運営への貢献」で、22年3月末までに新たに合計80基を設置する予定だ。

 現状の課題は(1)FCVの台数増(2)ステーションに関わる費用の低減(3)水素コスト低減の3つだ。これらを最大限に行うには、民間の力だけでは足りない。現在国は水素関連技術の開発やステーション事業への投資を積極的に支えている。JHyMでは国や自治体、関係団体などと連携してコスト低減、規制緩和など、ステーション事業の自立化に向けた取り組みを加速。新規参入への障壁を低くし、事業者の裾野を広げる。

■企業講演 水素エネルギーへの転換を促すためのイノベーションとグローバルコラボレーション

米国での事業展開拡大

岩谷産業 執行役員 米国総代表(米国岩谷会社 会長兼CEO) ジョー・カペロ 氏

 近年、水素エネルギーへの転換は勢いを増している。拡大するエネルギー需要に応えながら二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減するには、水素の活用が不可欠だ。

 米国ではカリフォルニア州が気候変動への取り組みに重要なコミットメントをしている。同州では水素ステーション建設投資を奨励するための助成金プログラムを提供しており、現在までに水素ステーション41カ所を建設、FCV8285台、FCバス42台が走っている。

 当社は昨年複数の水素ステーションを買収し、米国での事業展開を拡大している。今後数年間で水素ステーションを20カ所建設する予定だ。同州と米国エネルギー省は、日本および日本企業との協力に強い意欲を示している。

 水素エネルギーへの転換をさらに拡大するには水素製造のコスト削減が鍵だ。米国の水素ステーションで充填される水素コストは今後10年間で約50%減少し、FCVの所有コストは従来のガソリン車と同等になるといわれている。水素コストが下がるにつれ、水素エネルギーによる車両や設備の新たなアプリケーションが増えるだろう。

 当社は将来的には、米国内でのCO2フリー水素の製造も検討していく予定だ。製造から利用まで、水素サプライチェーン構築を目指し、水素エネルギー時代の最先端をリードしていきたい。

■企業講演 再エネ導入を促進する東芝の水素ソリューション

再エネ+水素で電力安定化

東芝エネルギーシステムズ 水素エネルギー事業統括部 事業統括部長 佐薙 徳寿 氏

 再生可能エネルギー(再エネ)の余剰電力を水素に変換すれば再エネ+水素で安定的・使いやすいエネルギーにできる。水素は長期間貯蔵が可能など用途が広い。東芝では自立型水素エネルギー供給システムの普及、水素サプライチェーン構築による再エネ水素および燃料電池(FC)の普及を目指している。

 パワー・トゥー・ガス(P2G)は電力を水素に転換する技術で、水素の多目的活用や再エネの最大限導入が可能だ。3月に開所した福島県浪江町の水素エネルギー研究フィールドは年間900トンの水素製造能力があり、7月から実証を開始する。水素製造・貯蔵・供給、電力需給のバランス調整機能を検証していく。

 水素分散電源として活用可能なH2Oneは、水素を電力で貯蔵し自立的かつ長期的に安定供給できる。再エネが不安定な時には蓄電池で補うほか、冬季には貯蔵している水素でFCの発電も可能なハイブリッドシステムになる。JR東日本や楽天生命パーク宮城などに導入している。再エネ水素ステーション機能を追加したH2Oneマルチステーションでは商用機並みの急速充電が可能だ。水素FCのH2Rexは高効率で、約10年の耐久性などの特徴があり、福島県あづま総合運動公園などに納入した実績がある。移動型水素FCシステムにも取り組み、大容量化とコンパクト化を目指す。

■企業講演 国際水素サプライチェーンの実現に向けた取り組み

大量製造・輸送・活用へ

川崎重工業 執行役員 技術開発本部副本部長兼HySTRA 理事長 原田 英一 氏

 環境と経済の好循環をもたらす水素に世界が注目している。民間組織ハイドロジェン・カウンシルには世界81社が参加し、水素を利用した新エネルギーへの移行に向けた共同ビジョンと長期的な目標を提唱している。

 当社は日豪共同の水素サプライチェーン構築の実証事業に取り組んでいる。オーストラリアのラトローブバレーに大量に存在する褐炭を利用して水素を製造し、液化水素にして神戸に大量輸送する。世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」は昨年12月に進水式を行い、この3月に液化水素タンクを船に積装した。基地は神戸空港島に建設中で工事の最終段階にある。2018年度からは神戸のポートアイランド地区で水素ガスタービンのコージェネレーションの実証試験を開始。市街地での水素100%を燃料としたガスタービンによる熱電併給は世界初になる。パイロット実証に続いて25年ごろに商用化実証、30年には本格的な商用化を目指す。現在は22年を目標に、液化水素運搬船や水素タンクの大型化の技術開発に取り組んでいる。

 CO2フリー水素チェーンで脱炭素化を進めていければ、エネルギーの供給安定性、環境性、日本の産業競争力の向上が期待できる。インフラ整備後、徐々に再エネ発電に移行することで、SDGs(持続可能な開発目標)の実現にも貢献していく。

■企業講演 再エネ水素の建物・街区での利活用に向けた開発と実証

大量・長期貯蔵に優位性

清水建設 LCV事業本部上席マネージャー 沼田 茂夫 氏

 建物・街区のエネルギーマネジメントでは、蓄電池などのエネルギー貯蔵設備が重要だ。将来は再エネ導入の増加で余剰電力の発生が予想されており、余剰電力からCO2フリーの水素を製造して貯蔵する取り組みが始まっている。

 当社では産業技術総合研究所と共同で、水素エネルギー利用システム「Hydro Q―Bic」に取り組んでいる。開発のポイントは水素吸蔵合金、水素貯蔵タンク、エネルギー最適制御だ。福島県郡山市の総合地方卸売市場に同システムを接続し、建物から排出されるCO2の削減量と維持管理費の定量評価によるコストを検討。再エネ水素の利用でCO2排出40%削減を目標に実証を行っている。

 2021年2月に完成予定の当社の北陸支店新社屋にも同システムを導入。140キロワットの太陽光発電を装備し、休日の余剰電力を水素に変換・貯蔵して平日の消費にあてる計画だ。2000キロワット時に相当する大容量の水素貯蔵は災害や停電時にも稼働できる。大量かつ長期のエネルギー貯蔵は蓄電池よりも水素に優位性があると考えている。

 30年代の脱炭素まちづくりでは、都市近郊のメガソーラー発電所などの再エネ余剰資源から水素を製造して街に輸送する構想もある。水素を活用したネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の実現を目指す。

■企業講演 J―POWERの水素の取り組みについて

石炭ガス化技術で水素製造

J―POWER(電源開発)常務執行役員 笹津 浩司 氏

 SDGsの7番(エネルギー対策)や13番(気候変動対策)には低・脱CO2化の取り組みが必要だが、中長期的に化石資源は使い続けられ簡単には代替できない状況だ。そこで生まれたのが化石資源から水素を取り出す技術。当社では石炭ガス化技術に着目している。石炭を高温高圧下で酸素とともに蒸し焼き状態にし、高濃度の一酸化炭素と水素を主成分とする合成ガスを製造する方法になる。

 パイロット試験ではEAGLE酸素吹ガス化炉で世界最高レベルの石炭ガス化効率を達成。大崎クールジェンプロジェクトでCCS(CO2分離・回収)技術と組み合わせた試験を実施している。同技術は多彩な用途へ展開でき、回収したCO 2の貯留や、化成品、合成燃料の製造も検討している。これにより、CO2ゼロエミッション化を目指していく。

 参画する日豪褐炭水素サプライチェーン構築実証事業では、オーストラリア・ラトローブバレーの未利用褐炭をガス化、水素を製造するまでを当社が担当している。現在、最終の建設工事を実施中だ。同地の炭鉱近くにはCO2貯留サイトが立地しており、将来的には安価で安定したCO2フリー水素供給の実現を目指したい。商用化に向けCO2を安全・確実に閉じ込める技術や、資源として活用する(カーボンリサイクル)技術が重要な鍵を握るだろう。

主催:日本経済新聞社、日経BP

後援:東京都

メディアパートナー:FINANCIAL TIMES

協賛:J-POWER(電源開発)、清水建設、岩谷産業、川崎重工業、トヨタ自動車、東芝

特別協力:三菱地所

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