アフターコロナの働き方

テレワーク阻む 管理職の承認欲求 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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 政府は5月25日、首都圏・北海道でも緊急事態宣言を解除する見通しだ。実現すれば全47都道府県が解除となる。しかし、感染拡大の第2波を防ぐ目的から、今後もテレワークを継続する企業は少なくない。「通勤地獄から解放される」「家事や育児と両立しやすくなる」「束縛感がなく自由に働ける」など、社員にはおおむね好評なようだ。しかし、在宅勤務では仕事の意欲がわかない、やはりオフィスで働きたいといった声も聞かれる。

 さまざまな分野でデジタル化が進み、テレワークの環境が整ったいま、仕事をするだけなら在宅でも大きな支障はない。ミーティングや飲み会もオンラインでこなせるし、ネット上で気軽にチャットもできる。それでも満たされない何かがあると感じはじめたのだ。

 その正体は「承認欲求」ではないだろうか。

「目の前の部下」が満たしてきた管理職の承認欲求

 承認欲求は近年、不適切動画のネット投稿やSNS中毒などで話題になり、「承認欲求はよくないものだから捨てるべきだ」と説く人もいる。しかし承認欲求そのものは、他人から認められたい、そして自分が価値ある存在であると認めたいという人間の正常な欲求である。そもそも「欲求」である以上、食欲や性欲などと同じように捨てることはできない。むしろ抑圧することが過度なストレスにつながったり、屈折した形で満たされたりすることのほうが危険だ。

 承認欲求のあらわれ方には文化や国民性などによる差があり、日本人の場合、とくに日常的な人間関係のなかにおける承認を重視する傾向がある。そのため仕事だけでなく、仕事モードに入るまでの動作や、仕事中の何げない雑談やしぐさ、あうんの呼吸、場の空気なども重要な役割を果たしている。それらはパソコンの画面上だけでは十分に伝わらない。だから満足感が得られにくいのだ。

 いっそう深刻な影響を受けているのは管理職である。

 日本企業のオフィスは大部屋でデスクに仕切りがなく、管理職も部下たちと同じ部屋で仕事をする。そのため管理職の一挙一動は部下からつねに注目され、管理職の発するひと言ひと言が部下の反応を呼ぶ。こうして無意識のうちに承認欲求が満たされているわけである。

「頻繁に報告」「必要性薄いのに出社」……部下、管理職に不満

 ところがテレワークをするようになると、目の前に認めてくれる部下がいない。自分のがんばっている姿を評価してくれる上司もいない。認めてくれる人は家族だけだ。その家族にさえ、毎日一緒にいるとうっとうしがられる。

 以前、研修でテレワークの導入について非管理職と管理職それぞれに話し合ってもらったことがある。すると意見がはっきり分かれ、非管理職には賛成派が多かったのに対し、管理職は反対派が多数を占めた。それも仕事上の不都合より、職場の一体感が薄れるとか、部下が周りにいないと不安になるといった理由をあげる管理職が少なくなかった。

 今回のテレワーク導入に際しても、上司が「頻繁に報告を求めてくる」「必要性が薄いのに出社を促される」「オンラインになってからミーティングがダラダラと続く」などと不満を口にする部下がいる。もしかすると管理職の承認欲求が、テレワーク活用の障害になっているかもしれないのだ。

 では、管理職が自分自身の心のなかに潜む承認欲求とうまくつき合うには、どうすればよいのか?

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