新型コロナに勝つ!中小企業の現場から

新型コロナで訪日客減、観光の魅力まず地域で 地方PR機構代表 殿村 美樹

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 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の対象が5月21日、大阪など関西3府県でも解除され、終息に向けて動き出そうとしている。これからは、ウィズコロナをキーワードに停滞が続いていた社会経済活動が徐々に再開されることになる。しかし、観光業については、しばらく我慢の日々が続きそうだ。今春に開業を控えていた新たな観光施設は当初の計画が大幅に狂い、その多くが先の見えない不安を抱えている。

 今年は、夏に本来、開催されるはずだった東京五輪・パラリンピックに向けて、全国各地で新たな観光施設が開業を目指していた、いわば「令和の観光元年」ともいえる年だった。それだけに地域の期待を背負って華々しく開業を予定していた施設が多い。増加が続いていた中国をはじめとした訪日外国人(インバウンド)客を見込んでいたこともある。しかし、いきなり襲ってきた新型コロナウイルスに、すべてが奪われた。この先どうすればいいのか。事業者の間では答えの出せない日々が続いている。

エゾシカ料理で観光振興

 北海道でエゾシカから生薬の素材原料を製造する北海道新ひだか町の北海道鹿美健(ろくびけん)。同社は、薬学博士で代表を務める鄭権(ていけん)さんが、エゾシカから日本で初めて薬効成分の抽出に成功し、2017年に設立したベンチャーだ。エゾシカは見た目がかわいく愛らしいが、地元ではやっかいものの存在だ。農作物を食べて荒らしたり、鉄道や道行く自動車と衝突し事故の原因となったりするなど、北海道では典型的な「獣害」の主役でもある。したがって、エゾシカは駆除の対象であり、その駆除したエゾシカを何とか活用できないかと、ジビエ料理などでさまざまな知恵を絞っている。

 同社は地域や自治体との連携を深め、社屋は地元で廃校になった中学校の校舎を活用している。さらに、東京五輪のマラソンが北海道・札幌で開催されると決まったころから、観光需要を敏感にくみ取り、エゾシカのジビエ料理をふるまおうと、自社の敷地に広がる元校庭にグランピングのできる観光施設をオープンする計画を進めていた。北海道の魅力はその広大な自然もあるが、食と観光の一大宝庫。ちなみに、グランピングとは、大自然のなかで、気軽に豪華で快適なキャンプ体験ができる遊びで、近年話題に上がっている。

 ところが、突然生じたコロナショックで先の見えない延期に追い込まれた。このまま手をこまぬいていては自社だけでなく、協力してくれた地域の士気も萎えてしまう。オープン前にできることを考えたいと、私のもとに相談に来られた。

問い: 開業するグランピング施設では当社が初めて開発した「ロクキョウ」というエゾシカの骨、皮、角を活用した素材をアピールする予定でした。しかし、いつになれば開業できるのかメドが立たない。今、できることはありますか。

答え:それならば。まず、生薬の素材としているエゾシカを原料とした薬膳の料理メニューを作ってはいかがでしょうか。観光施設がオープンできなくても、日本でも珍しい薬膳料理に焦点をあてれば、注目を集めることができます。クラウドファンティングで「オープン後の予約」を呼びかければ資金も得られるでしょう。

 この助言の要点は「薬膳」にある。薬効成分「ロクキョウ」は初めて聞くような言葉だが、「日本初の薬膳料理」となれば、薬膳料理を望むファンの注目を集めることができるだろう。さらに「ロクキョウ薬膳」の名称を通じ、新しく開業するグランピングだけで食べることができるという魅力は、施設の魅力を格段に高めていくことになる。同社の鄭権代表はこの意味を敏感に理解してくれた。すぐに薬膳料理を通販する可能性も検討し、観光施設のオープンまでに「ロクキョウ薬膳」を広める計画をつくり始めた。ファンが「薬膳」に夢中になる日は遠くなさそうだ。

観光の魅力はまず地元向けに発信を

 一方で、インバウンド需要に期待しすぎて方針転換を迫られる観光施設も多い。太平洋に面した古い港に設けられた市場の中に、東京五輪を機に施設を改装して新たな魚介類のグルメパークを整備したところがある。この施設も大型連休前に開業を控えていたのだが、いきなり東京五輪・パラリンピックが2021年7月に延期となり、新型コロナウイルス感染症の影響で外国人客の姿も消えた。途方に暮れて相談に来られた。

問い:地域では新鮮な魚が自慢です。東京五輪で外国人観光客が増えると見込んで、自慢の魚を世界各国の料理でふるまう準備を進めてきました。イタリア、フランス、インド、スペイン各国の料理のメニューを考えています。でも、この先、いつになればインバウンドが回復するのかわかりません。どうすればいいのですか。

答え:ターゲットを地域の人々に変えたらいかがですか?地域の人々にとって地元の魚は珍しくなくても、世界各国の料理は食べたいと思います。むしろ魚の食べ方のバリエーションが広がって、地域貢献になります。

 その後、この地域では緊急事態宣言が解除され、市場では少しずつ、地域の人々に向けて料理を振舞う準備を進めているそうだ。関係者の間では、外出自粛疲れにピッタリだと喜びの声が上がったらしい。地元のための施設なら、間もなく開業できるだろう。

 今、コロナショック下で観光の矛先を遠方から地元に変えたほうがいいと見る向きがある。世界各国が渡航を禁止したり見合わせたりしている現状から、簡単に訪日客が復活するとは思えない。この機を生かして、地元が喜ぶ観光のあり方を追求してほしいと切に思う。そもそも「観光」とは施設でなく、訪れた土地の文化に触れることだ。何より、地域の魅力を地域が再認識する。新しい施設をまず地域に溶け込ませて文化を育むことが未来の観光への近道だろう。

殿村美樹(とのむら・みき)
一般社団法人地方PR機構代表理事。1961年京都府生まれ。外国語大学を卒業後、広告代理店勤務を経て1989年にTMオフィスを創業。地方と文化のPR戦略に特化した事業展開で「今年の漢字」「佐世保バーガー」「ひこにゃん」「うどん県」などを発案・PRを手掛けた実績がある。2019年に地方PR機構を発足し、代表理事に就任。政府の「全世代型社会保障に関する広報の在り方会議委員」や公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会理事を務める。著書に「ブームをつくる人がみずから動く仕組み」(集英社新書)、「武将たちのPR戦略」(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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