アフターコロナの働き方

「役割さえ果たせばよい」テレワークで定着へ 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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 政府は5月14日、緊急事態宣言の対象都道府県について一部を解除する予定です。新型コロナウイルス禍は収束に向けて動き始めます。しかし、収束後の社会は従来とは違う形になりそうです。例えば、今回多くの企業で導入されたテレワークが定着すれば、人事評価や働く人の意識などから働き方は大きく変わります。アフターコロナの働き方はどうなるのか?承認欲求など個人に焦点をあてた組織論に詳しい同志社大学政策学部の太田肇教授が連載を始めます。

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 新型コロナウイルス対策でテレワークの導入に踏み切ったところ、思いのほか快適で仕事もはかどるという声があちこちから聞こえてくる。ところが他方には働く環境が大きく変わったため、上司と部下の双方が戸惑いを見せているケースもある。

「役割」と「行動」の切り離しがカギ

 意外にも両者を分けるのは仕事の性質などより、働き方やマネジメントのポリシーによるところが大きいようだ。それは一人ひとりが果たすべき「役割」と「行動」とを切り離しているかどうかである。

 組織は本来、役割の束であり、構成員がそれぞれの役割を果たすことで成り立っている。したがって極論すれば、一人ひとりが組織の一員、チームの一員としての役割を果たしている限り、行動はバラバラでもよいのだ。

 とはいえ仕事とモノとが一体化した工業社会では、役割と行動を切り離すことが困難だった。ホワイトカラーも同じで、オフィスにみんなが顔をそろえていないと仕事にならなかった。

 ところがITの普及により、技術的にはだんだんと役割と行動を切り離せるようになった。インターネットでテレビ会議やチャットなどの機能を使えば、自宅だろうと旅行先だろうと場所に関係なく自分の役割を果たすことができる。

日本企業の成功体験、発想転換の妨げに

 問題は一人ひとり、とりわけ管理職がそのことをどれだけ理解し、実践できているかである。わが国は工業社会で成長を遂げ、モノづくりにおいて世界をリードして歴史があるため、その成功体験が組織の文化、そしてマネジャーの頭のなかにまで染みこんでいる。それが新しい時代への適応をしばしば妨げているのだ。

 テレワークを導入した現場では、上司が部下に対して導入前よりも頻繁に報告を求めるようになったという話をしばしば聞かされる。部下が目の前にいないと不安になり、「役割」より「行動」を管理しようとするのである。

 工業社会の成功体験からなかなか脱却できない日本企業に比べ、ポスト工業社会へ一足先に踏み入れた欧米企業は、「役割」と「行動」の切り離しも早かった。

 「働きがいのある会社」として毎年世界の上位にランクされていたイーライリリーの本社がアメリカ・インディアナポリスにある。2008年にそこを訪ねたとき、チームで仕事をする部門でも、オフィスには人がまばらにしかいないのに驚いた。空席にはマイクロホンを兼ねたスピーカーが置かれ、在宅勤務している社員もまるで席にいるかのように会話しながら仕事をしている。彼らは数百キロも離れたフロリダやテキサスに住み、月に一度か半年に一度程度、顔合わせに出社してくるという。

 役割さえこなせばどこで仕事をしてもよいという考え方は、近年さらに徹底されている。シリコンバレーの某有名企業に勤める日本人の女性社員Aさんは、5つほどの役割をこなせばどこにいてもよいので、毎年2か月間ほど日本に帰国し、そのうち1か月は休み、1か月は働くという生活を送っている。またアメリカの大手製薬会社に日本の同業他社から転職してきたBさんは、日本では頻繁に仕事の報告を求められたが、こちらでは年に1回報告すればよいのでかえって責任を自覚するようになったと語っていた。

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