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コロナ長期戦 社員のメンタルヘルスにどう向き合うか 経営層のための新型コロナ対策(6) 健康企業代表・医師 亀田高志

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従業員に公私のストレス

 筆者は仕事柄、企業や各自治体で経営幹部や管理職層を対象にメンタルヘルスに関する研修や講演を実施してきた。主な話題の一つは日本特有ともいえる“ライン・ケア”と呼ばれる、従業員や部下のストレスやメンタルヘルスの状況に関する責任についての解説である。

 日本独特とも考えられるが、それを司法も行政も支持している。近年の働き方改革と相まって、過重労働対策やパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントへの対策も加わり、新型コロナ流行前から経営幹部としてメンタルヘルスの話題は避けて通れなくなっていた。

 言うまでもなく、人間は優れた知性よりも、本能的ともいえる感情に縛られる生き物である。目に見えない新型コロナウイルスへの恐怖による、感染した人や治療を担っている医療従事者への酷い仕打ちもそうした特徴の裏返しでもある。

 在宅勤務への働き方の急激な変化、外出自粛要請でも電車やバスで通勤しなければならない不安、プレッシャーの強い目標の未達、顕在化した家庭不和や家族間のトラブル、在宅で目立つアルコールやネット依存まで、様々なストレス要因によって、メンタルな不調を抱え、行動上の問題を起こす働く人が増加する懸念がある。

 現代的な言い方では「心が折れる」という表現でメンタルな不調やそれに陥りそうな状態が表現されるが、経営幹部としては、それが人材面の損失であり、事業運営におけるリスクとなり得ることを意識して頂きたい。

 これまでの自社のメンタルヘルスに関する取り組みがどうであったか。緊急事態宣言が解除される見込みの5月後半から6月以降に向けて、改めて見直す必要があるのではないか。

 具体的には不調の早期発見と早期対応のための産業医や保健師等による相談窓口を拡充し周知すること、不調となった従業員を治療につなぐことや休業・休職から職場復帰までの支援を行うことが求められる。

 労働安全衛生法令や厚生労働省の指針等に従い、これらのルールや啓発、衛生委員会等での話し合いを、自社の担当部署の関係者と確認することをお勧めする。

雇用確保など社会的な健康面が重要

 人間は安全と健康が守られないと落ち着いて目の前のことに集中ができない。そうした条件が確保されないとメンタルの不調につながることが少なくない。それには働く人の社会的な要因が影響する。

 人間の健康は主に3つの側面で規定されるが、精神的な健康と身体的な健康に加えて、社会的な健康が密接に関係している。この社会的な健康が損なわれると精神的な健康が容易く損なわれる。

 孤独は心身の健康に影響する大きなファクターであり、失業は自殺のリスクの一つであることが医学的に知られている。バブル崩壊以降の自殺者の増加はその傾向を示している可能性がある。

 ほとんどの企業では想定外の売り上げ減に見舞われている可能性があると思うが、安易な人員整理はその後の影響が甚大である。

 人件費負担を減らすためにこれまで雇用の非正規化を進めてきた企業が多いと思うが、その点を改めて経営幹部として考える必要があるのではないか。

 欧米における職場のメンタルヘルスの分野では、最大の職場ストレスの一つに経営者や経営幹部が“説明を尽くさない”ことが注目されてきた。

 新型コロナの流行前から実は有名大手企業でも大幅ないわゆるリストラが行われている。その中で、事業売却や人員整理が社内への説明の前に報道によって従業員が知ってしまう、という事態が起きる。しかるべき立場の人がこれを当事者となる従業員にしっかりと説明しない、という例もある。

 これらは極端なケースだという印象を持つ方も少なくない、とも想像するが、多くの働く人は売り上げ減だったり、消費が蒸発してしまったりといった問題を現場で感じているのではないか。雇用や先行きに不安を覚えるのは自然な反応であろう。

 そうした状況を踏まえて、経営幹部として、5月後半から6月のなるべく早い時期に、少なくとも管掌している部門の従業員に対して、ご自分の言葉で自社の状況と今後の見通しをお話しいただきたいと思う。

 出来うるならば、雇用を確保し、不安を感じる必要がないことを、数カ月ごとの自粛と緩和のサイクルの連続、最終的な終息時期のめどと共に説明して頂ければと考える。そのことは従業員のメンタルヘルスに必ず良い影響を及ぼすからである。

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