郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

関電・第三者委報告書から読み解く「戦後最大の経済犯罪」の本質 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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原発の工事・業務として品質に問題はないのか

 もう一つ重要なこととして、工事や業務の「品質」の問題という、原発に関連する発注であるゆえに無視できない極めて重大な問題がある。

 本来、公共的な工事・業務の発注に関しては、発注者側が適切な品質チェックを行うことが必要だ。受注価格が合理的なもので、それ自体が超過利潤を生じさせるようなものだとすると、受注業者側が、工事等の「手抜き」によってコストを削減して利潤を増加させようとし、それによって工事・業務の品質が低下することがないようにすることは、発注者側の重要な責務である。

 調査報告書では、「本件取引先に対する発注金額を水増ししていたなどの事実は認められず、本件取引先に対する発注金額が不合理であると認めるまでには至らなかった」としているが、一方で、森山氏の関連企業に、多額の金品が還流してくるほどの超過利潤が生じているのであるから、それが、「手抜き工事」によるもので、工事や業務に品質上の問題が発生している可能性がないとは言い切れない。しかも関電幹部は、恫喝・威迫されることをおそれ、受領した金品を返却することもできなかったというのである。関電側が森山氏の関連企業が行った工事・業務の品質を厳しくチェックし、問題を指摘したりすれば、森山氏の逆鱗に触れる可能性があり、この点に関しても「触らぬ神に祟りなし」という態度がとられていた可能性も否定できない。それによって、原発に関連する工事や業務に、品質上の問題が生じていた可能性はないと言い切れるのだろうか。この点は、原発の安全・安心に関わる極めて重大な問題である。

「電力会社のコンプライアンス問題」としての本件の本質

 東日本大震災における福島原発事故後に、電力会社が原発に関連する不祥事で設置した第三者委員会としては、同事故直後の2011年にできた九州電力の「やらせメール問題」第三者委員会があり、今回の第三者委員会は、それ以来の設置となる。

 私は、2006年に検事を退官して、コンプライアンスを専門とする弁護士の活動を本格化させて以降、電力会社のコンプライアンスにも様々な形で取り組んでいた。全国の電力会社のほとんどで講演を行い、2010年には、今回の問題で会長・社長をそれぞれ辞任した八木誠氏・岩根茂樹氏も含む関電役員会での講演も行い、「社会的要請への適応」としてのコンプライアンス論を説いた。そして、上記の件で九電の第三者委員会の委員長に就任した際には、「原発事故後の電力会社のコンプライアンス」の観点から問題の本質に迫るべく、調査・原因分析・報告書作成に全力で取り組んだ。その結果、私が問題の本質ととらえたのが、「原発をめぐる事業活動の不透明性」であった。

 福島原発事故の発生により、日本の多くの国民は、電力会社が行う発電事業のうち原発がいかに大きな危険をはらむものであり、一度事故が起きれば、多くの市民・国民の生活を破壊し、社会にも壊滅的な影響を与えるものであることを痛感し、電力会社の事業活動、とりわけ原発の運営に対して重大な関心を持つようになった。

 それ以降、原発施設の安全対策が客観的に十分なものと言えるのかに加えて、原発事業を運営する電力会社が、いかなる事態が発生しても安全を確保するための万全の措置をとり得る能力を有しているのか、信頼できる存在なのかが、社会の大きな関心事となった。

 そのような環境の激変に伴って、電力各社は、事業活動の透明性を、以前とは比較にならないほど強く求められるに至ったのである。

 「やらせメール問題」は、このような原発事業をめぐる環境の激変に適応し、事業活動の透明性を格段に高めなければならなかった九電が、その変化に適応することができず、企業としての行動や対応が多くの面で不透明であったところに問題の本質があると言うべきである。

 当時、九電の第三者委員会報告書では、このように問題の本質をとらえた上、原発事故後の再稼働に関する討論会や過去のプルサーマル導入をめぐる討論会において、佐賀県知事が不透明な形での世論形成に関わっていた事実を指摘したのに対して、九電経営幹部が反発し、報告書の一部を除外して経産省に報告するなどしたため、委員会メンバーと九電との間の対立が表面化した。詳細は、拙著「第三者委員会は企業を変えられるか~九州電力「やらせメール問題の深層」」(毎日新聞社:2012年)にまとめている。

 私は、それ以降も、様々な業界の企業・団体での講演等のコンプライアンス関連業務を行い、著書の公刊、その他で、企業不祥事の本質を明らかにする発信を継続してきた。全体として、講演等での私のコンプライアンス論への共感や理解は、一層深まっている実感があるが、九電第三者委員会の後、電力会社からの私への業務の依頼は全くない。

 第三者委員会での九電との対立が、電力会社相互間の「横並び体質」ゆえに私を敬遠することにつながったものと思っていたが、今回の金品受領問題で明らかになった関電という電力会社の内実からすると、それだけの問題ではなかったのかもしれない。

 関電も、「原発事業をめぐる不透明性」をめぐって深刻な問題を抱えていた。九電の問題が、原発立地自治体の首長という「点」を中心に「原発を肯定する歪んだ世論が形成されていたこと」の“不透明性”だったのに対して、関電の問題は、原発立地地域の有力者だった「一老人」に電力会社の原発関連部門の組織が丸ごと支配され、不透明な金品の授受やその見返りとしての不正な工事・業務の発注が行われていたという“不透明性”だった(調査報告書でも、原因分析の中で「透明性を欠く誤った『地元重視』が問題行動を正当化していたこと」を指摘している)。しかし関電経営陣には、その「不透明性」を自ら是正する意思は、全くなかった。

 日本の電力会社にとって原発事業をめぐる「不透明性」は、それだけ根深い問題だと言うべきだろう。

「戦後最大の経済犯罪」の実体を解明し「解体的出直し」を

 関電の金品受領問題は、原発事業に関連して不正な手続きによって行われた発注の金額においても、その見返りに関電幹部に還流していた不正な金品の金額においても、また、公益企業である電力会社の信頼失墜の程度、そして、それが社会に与えた影響においても、「戦後最大の経済犯罪」というべきである。

 深い「闇」をかかえながら原発事業を行ってきた関電には、刑事事件としての実体解明を前提とする「解体的出直し」が必要なのであり、刑事事件化を想定しない第三者委員会が示す「コンプライアンス憲章を設けること」「経営陣に社外の人材を登用すること」などの弥縫策(びほうさく)では関電の再生は全く期待できない。

郷原 信郎(ごうはら のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2003年から桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。2004年法務省法務総合研究所総括研究官兼教官。2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授、コンプライアンス研究センター長。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2014年関西大学客員教授。現在、公職として、国土交通省公正入札調査会議委員、横浜市コンプライアンス顧問を務めている。
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キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営

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