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関電・第三者委報告書から読み解く「戦後最大の経済犯罪」の本質 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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 昨年11月に、本連載の記事「関電金品受領問題がコンプライアンス上、最低・最悪である理由」で取り上げた、関西電力(以下、関電)をめぐる問題について、「関西電力役職員らの金品受領問題」の第三者委員会(但木敬一委員長)の調査報告書が3月14日に公表され、併せて記者会見が行われた。

 上記記事では、第三者委員会が今回の調査によって解明すべき最大のポイントは、福井県高浜町の元助役 森山栄治氏(故人)から関電幹部に「還流」した多額の金品の原資と、関電の高浜原発に関連する発注が関係していること、この点について関電側の「不正行為」があった場合には、会社取締役・監査役等が「その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受した場合」等に成立する会社法967条の会社役員の収賄罪の適用の可能性もあり、コンプライアンス上の問題は、さらに重大かつ深刻なものとなることを指摘した。

 公表された調査報告書では、その森山氏が関係する企業に対して、関電の役員や社員が、工事を発注する前に工事の内容や発注予定額を伝えたうえで、約束に沿って競争によらない特定発注を行うなど特別な配慮をして便宜を図っていたことが認定されている。そして、森山氏が金品を提供したのは、その見返りとして、自らの要求したとおりに自分の関係する企業に関電から工事を発注させて経済的利益を得る、という構造・仕組みを維持することが主たる目的だったことが明らかにされた。

理由なき特命発注で「会社法上の犯罪」が成立する可能性

 そこで注目されたのが、この問題が、刑事事件に発展するかどうかだ。刑事事件としての見通しは、調査報告書には記載されなかったが、記者会見では、第三者委員会において唯一の刑事事件の専門家の立場で委員長の但木氏が質問に答え、「刑事責任追及は困難」との趣旨の説明をし、マスコミでも、そのように報じられた。しかし、但木氏の説明には、これまでの検察の実務・刑事事件の裁判例からすると疑問がある。

 具体的に問題になるのは、金品受領についての会社法の収賄罪の成否、森山関連企業への発注についての会社法の特別背任罪という、会社法上の犯罪の成否だ。

 会社法の収賄罪は、会社役員が「職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき」に成立する。但木氏は、金品授受の段階で、特定の工事についての便宜供与を依頼する趣旨でないと「請託」と認められないかのように説明したが、少なくともこれまでの検察の実務・刑事事件の裁判例での解釈はそうではない。これまでの実務では、贈収賄における「請託」は、かなり抽象的なものでも十分に認められてきた。少なくとも、客観的に、関電側が森山氏の関連企業への工事発注で便宜を図っていた事実があり、しかも、その便宜供与は、本来、競争的手続きによって発注を行わなければならないのに、正当な理由もなく、森山氏の関連企業に特命契約で発注するなどしていたということなのである。金品を受領した関電幹部の側、特に、原子力事業本部幹部の側は、金品供与が工事発注に関する便宜供与の対価であること、それが「不正なものであること」の認識は十分にあったはずである。「不正の請託」が立証できる可能性は十分にある。

 次に、会社法の特別背任罪は、会社の役員が「自己若しくは第三者の利益を図り又は組織に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該組織に財産上の損害を加えたとき」に成立する。但木氏は、今回の金品受領では「損失を加えた」ならびに「自己又は第三者の利益を図る目的」の要件に関して問題があり、刑事事件化が困難であるかのような言い方をしている。前者については、調査報告書によれば、確かに、関電から森山氏の関連企業への発注では、発注金額が価格査定基準に基づいて算定されており、実体のない水増しなどによって、金額を恣意的に増額した事実はない。

 しかし、本来、競争入札によって発注すべきところを、理由もなく特命契約で発注している以上、それ自体が価格の上昇を招くものであることは明らかだ。特に、警備業務などの人件費主体の業務の場合、公共調達の場合でも、競争によって予定価格を大幅に下回る価格となることが多い。特命契約で森山氏の関連企業に発注したのであれば、競争が行われた場合の価格を推計し、それと比較することで関電に損害が生じていることは立証可能だと考えられる。しかも、関電側に多額の金品が恒常的に還流していることを認識していた原子力事業本部の幹部は、関電からの発注によって森山氏の関連企業に相当な超過利潤が発生し、その分、公正な手続きで競争をさせた場合より関電にとって不利な価格であったことの認識も十分にあったはずなので、そのような発注によって「損害を加える」ことの立証も可能である。

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