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地方創生はイノベーションで再起動できる 官民連携の深化が契機に 牧瀬稔・関東学院大学法学部地域創生学科准教授に聞く

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初めて行う政策なら企業の先行者利益に相当する大きな成果

 ではどうするのか。牧瀬氏は「地方創生においてもイノベーションが改めて重要になっている。新しい政策を能動的に企画・実行して、行政の質的な変化を促さなければならない」という。

 同氏は地方創生におけるイノベーションを「地方自治体が、従前と違う初めてのことを実施していく。あるいは他自治体と違う初めてのことに取り組んでいく」と定義して提唱してきた。

 現実には、少なくない自治体の政策が、前例踏襲型や他の自治体との横並び型になりがちな状況がある。政府は、地方創生に自治体が取り組みやすいよう、ひな型となる政策パターンやモデルケースを用意してきた。その狙い自体は良いのだが、ほかがやっているからといった理由で似たような政策が行われ、結果として満足な成果が出ない場合が増えているという。

 「たとえば、インバウンド(外国人旅行客)需要の取り込みのため、多くの自治体が、日本版DMO(観光地経営組織)の設置に取り組んでいる。しかし、ほかの自治体が作ったからといって、自分の自治体にも作る必要があるのかどうか、冷静に考える必要がある」(牧瀬氏)

 イノベーションに取り組む理由は「政策の成果が格段に上がる」ことだ。牧瀬氏は、いくつか事例を挙げた。

人口増に向けて近隣からの流入促す、ネット広告も活用

 埼玉県戸田市は、人口増に向けて、2年間にわたる調査研究を経て、2011年にシティーセールス(都市や地域の売り込み)戦略を策定・実施した。移動元として近隣の東京・板橋区、北区を想定。インターネットメディアやSNS(交流サイト)などを活用した転入促進を持続的に行った。2014年にはスマホアプリを開発して市民同士の交流を図るなどの政策も実施。多様な長期間にわたる政策によって、人口増加を持続させている。

 「近隣からの転入を促すという政策は人口10万人台の自治体としては当時初めて。賛否両論はあったが、東京都に隣接するという地域特性を踏まえたもので、実際に転入者を増やした。政策の実施にあたってネット企業と連携して、ウェブ広告を活用したことも自治体としては初めてではないか」

 こうしたイノベーションを実現し続けることができる背景には、戸田市政策研究所という自治体シンクタンクの存在がある。2008年4月に設立された組織で、調査・研究、政策の企画などを行う。

 「自治体シンクタンクはいま、全国に40ぐらいある。すべてが成功しているわけではないが、自治体がイノベーションを実現するためのカギになっている」と牧瀬氏は指摘する。

「住みたい」まちづくりにICT活用、教育レベルも向上

 ICTの活用もイノベーションを生み出すために重要になっている。

 四国の愛媛県にある人口約11万人の西条市は、産業の振興などとともにICTの活用を推進。若い世代が「住みたい」「住み続けたい」と思えるまちづくりを含めた政策によって、近隣地域からの転入を促す取り組みを行っている。ICTの活用は「スマートシティ西条」と総称されており、全国ICT教育首長協議会が審査する「2018 日本ICT教育アワード」を受賞するほど先進的だ。

 たとえば、ICTを活用した教育については、市内小中学校の全教室へ、電子黒板、ならびにデジタル教科書を配備したほか、教育系システムのクラウド化・テレワーク化といった他に例のないICT化を進めることで、校務の効率化、遠隔合同授業を実現した。

 遠隔合同授業では、市内の離れた学校の教室をウェブ会議システムで接続して、臨場感のある合同授業を行う。教室に大型スクリーンを立体的に配置し、離れた教室の様子を高精細カメラで接続。板書するホワイトボードもカメラを通して離れた教室と共有される。

官民連携の深化などが地方創生でイノベーションを実現するポイントに

 牧瀬氏は自治体がイノベーションを実現していくためのポイントをいくつか挙げた。

 まず、失敗を恐れすぎないことだ。

 牧瀬氏は「アドバイザーとして政策を提案すると、『それはどこの自治体で行っていますか、どのような成果が出ていますか』と聞かれることが多い。税金を使って政策を行うので、失敗ができないのは理解できるが、これではイノベーションは難しい」という。

 また、首長がリーダーシップを発揮することが重要だ。初めてのこと、他で実施していないことを企画部門が提案しても、実行部隊はなかなか動かない。議員や住民などの反対も生まれがちだ。そうした、庁内外の調整をスピード感を持って進めるためのカギとなるのは選挙で選ばれた首長の行動力である。

 さらに、官民連携は、自治体と企業の双方にメリットがある点を理解して、イノベーションを起こす際、積極的に活用することだという。いわば官民連携の「深化」だ。

 「行政側は基本的にゼネラリストの集団で、専門的な知識や技能が不足しているため、専門性の高い人材を持つ企業を巻き込むことが不可欠。一方、企業側は、自治体の協力のもと、新製品や新サービスのテストマーケティングができる。結果を共有して、良かった場合はパッケージ化して横展開する、悪かった場合は改良するなどの対応ができるほか、自治体と協業したという実績が信用力の向上につながる」(牧瀬氏)

 もちろん、企業と自治体の悪い意味での癒着は避けなければならない。それには官民連携に関するルールの一層の明確化・透明化、ならびにルールに違反した場合の罰則の一層の強化といった対策を併せて進めるべきという。

 西条市の場合、総務省の「地域おこし企業人交流プログラム」という公の制度を活用してICT企業の社員が市に出向することで官民連携の深化が進められている。2018年4月(平成30年度)より3年間、主として教育の情報化施策の推進のために西条市教育委員会に出向し、ICTに関する幅広い業務を行っている。愛媛県内では初という。

 「地域おこし企業人交流プログラム」は、地方公共団体が、三大都市圏に所在する民間企業などの社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かし、地域独自の魅力や価値の向上等につながる業務に従事してもらうプログラムである。活動期間や活動地域などの条件が決まっており、2014年度から活用が始まっている。

 官民連携に関するルールの一層の明確化・透明化は、自治体の連携相手となる企業にとっても重要だ。一度できた官民連携体制が、首長が選挙で替わった、担当者が人事異動で替わったなどで崩れるリスクを最小化することができる。

 大阪府大東市は、企業との連携に関する条例「大東市公民連携に関する条例」を作り、2018年4月に施行した。同市が目指す「公民連携」の定義を明確にして、全庁的な検討体制を整え、併せて民間提案を受け付ける体制を作り、事業化に向けた手続きを明確化した。

 新型コロナの感染拡大をはじめとする経済環境の急激な変化に対応するには、こうした官民連携の一段の深化などをテコに、地方創生に対する自治体の取り組みをイノベーションで再起動することが必要である。

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