長島聡の「和ノベーションで行こう!」

日本を再発見する世界一のブランドへ「魅力はもともとある」 第34回 ディスカバー・ジャパン 高橋俊宏 社長・統括編集長に聞く

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日本のいいものを持ちたい、いいところを知りたい読者に響く

長島 『Discover Japan』の最もコアになるミッションは何だと定義されていますか。

高橋 最もコアになるミッションは当時も今も「日本の魅力を再発見すること」です。「再発見」という表現にしたのは、日本の魅力はもともとあるためです。もともと存在する魅力を、今の人たちが「ああ、日本ってやはりいいね」と再発見することが、この本の一番のミッションであり、同時に株式会社ディスカバー・ジャパンとして独立して2018年11月に事業を開始した弊社のミッションでもあります。

長島 ただ、当時も雑誌を創刊するのは、大変だったのではないでしょうか?

高橋 出版不況のなか、テーマを日本に絞り込んだ雑誌を創刊するのは、当時の同僚にも無謀に見えたようで、「ネタがすぐ尽きないか?」と言われましたが、僕は「ネタは無数にあるから大丈夫」みたいな言葉を返していました。

長島 主な読者はどのような方々でしょうか?

高橋 インテリアやデザインの本を手掛けてきたこともあり、『Discover Japan』の読者も、それらに強い興味を持っています。知的好奇心が旺盛で本物志向の方々。「日本人だから、やはり日本のいいものを持ちたい、いいところを知りたい」と考える人がこの本を読んでくれていると思います。

長島 雑誌以外にもビジネスを広げたい、イベントなどと連携させて立体的に事業を展開したいといった想いも感じます。

高橋 最初から雑誌だけのビジネスにするつもりはありませんでした。創刊号がそもそも立体的な構成になっています。昔の音楽レコードには表のA面、裏のB面それぞれに曲が入っていました。それと同じように創刊号を表と裏の両方から読めるようにして、裏から読むほうの記事ではイベントを連携させています。創刊号を持ってきましたので見てください。

長島 表紙のA面から読むと、普通に記事を読むことができますね。

高橋 そして、裏表紙のB面を開くと、「Discover Izumozaki」という、新潟県・出雲崎町に関する16ページの記事を読むことができます。出雲崎は人口5000人に満たない小さな町ですが、記事を掲載するとともに、出雲崎町からいただいた木を使ったデザインコンペを企画・開催しました。

 この企画はひょんなことから生まれました。2007年に発生した新潟県中越沖地震では、柏崎刈羽原発が止まるなど、大きな被害が出ました。出雲崎でも被害が出たのですが、併せて地震直後に漁に行った漁船の網に大量の得体のしれない物体が入ってきました。僕は日本海側の旅先で、地方紙を見て知りました。その物体とは海底に埋まっていた、7000~8000年前の縄文時代の木(縄文海底古木)です。地震の影響で海底に沈んでいたそれら縄文時代の木が浮いて網に掛かった。全部で300トンぐらいある――という記事でした。

 記事には「廃棄を検討している」とありましたが、「これは捨ててはいけない」と思いました。僕は当時、仕事で多数の建築家やデザイナー、アーティストと知り合っていました。この縄文海底古木をその人たちに渡して、作品を作ってもらい、オークションにかけて得た収入を、被災したこの町に還元できないかと考えたのです。

 それから、出雲崎の役場に電話して、町長に自分の考えを話しました。「取りに来たら無料で差し上げます」という話になり、会社のワゴン車を借りて単身向かい、運べるだけの縄文海底古木を持って帰りました。

長島 地震の被害は大きく報道されていましたが、いくら大量だったとはいえ、地方紙が取り上げる程度の話題だった古い木によく着目されましたね。東京から出雲崎まで木を取りに行ったことも、すごい行動力です。

高橋 国の補助金で縄文海底古木を取り除いたので、作品のオークションのように利益が出る支援はできないという条件はついたのですが、協力者になってくれそうな人に声を掛けて、デザインコンペを行いました。参加者は予想以上の人数になり、著名デザイナーも集まりました。コンペの審査委員長には一線級のデザイナーである小泉誠さんに就任していただきました。

 このように、雑誌を発行しつつ、デザインコンペのようなイベントを仕掛けるなどで、ムーブメントをつくる――。さらに、そのムーブメントについて我々が発信することで幅広い人たちに広げていく――といった立体的な活動を創刊のときに行っていました。

行動的になることができる理由は考え方にもある

長島 ムーブメントは、メディアの仕事に携わる多くの人たちが起こそうとしていると思いますが、そんなに簡単ではありません。高橋さんのように「よし」と思い付いたときに、ワゴン車で単身乗り込むような行動力があればこそでしょう。世の中にはそうした最初の一歩や二歩が踏み出せない人が多いと思います。高橋さんがそこまで行動的になることができる理由はなんでしょうか。

高橋 それだけ強いパッションがあるからではありますが、考え方にも理由があると思います。大きいことに取り組む場合は、基本的に長い時間や大きな手間がかかります。思いついても、明日、すぐやろうという気持ちには、なかなかなりません。

 そこで僕は「今できることを、小さくていいから実行すること」を心がけています。もちろん長い目では、大きな目標を目指すのですが、小さくても何かができたら、一つの成功体験になり、それが次の成功につながります。「事例が事例を呼ぶようになる」と僕らはよく言っています。

長島 その通りですね。私も経験がありますが、おっしゃるように、事例が事例を呼びます。

高橋 あらゆることが、そうして積み重なっていく多数の事例の一つなのです。過去に小さなことを積み重ねてきたから、大きなことが今できるわけで、あとで全部つながります。

 もう一つは、一人あるいは一つのメディアでできることは限られているので、賛同者と協業していることです。創刊号ではデザインコンペでデザイナーの人たちを協力者として巻き込みましたが、協力を得るために全力で説得しました。

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