サラリーマン人生100本ノック

サラリーマン人生「この歳になると転職先が見つかりません」 東京工業大学大学院特任教授 北澤 孝太郎

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自分の能力を広げて考える

 同業種・同職種にこだわりすぎるというケースは、自分の能力をこれからも固定的なものと考えてしまうことから起こります。今までがんばってきてポジションを得てきた、しかし今の企業ではどうしてか閉塞感を感じるからこその転職活動かもしれませんが、では、中高年以降は進化も成長もしないとお考えでしょうか。これからも今までの価値だけで、ずっと生きていけるとお思いでしょうか。「いやいや、そうは考えていないが、転職先からすぐに業績を出すことを求められるに違いないので、それならば今までの環境に最も近い方が有利じゃないか」「確かに、新しいことに挑戦してみたい気持ちもあるが、これまで積み上げてきた経験は私の財産だ。それをみすみす手放すようなことはしたくない」と考えるのも自然なことかもしれません。

 しかし、採用する側からすると、新卒から二十年近くがんばってもポジションを得られなかった人がいる中で、同じ業界からある程度のポジションに就ける採用をするなら、業界を揺るがすような実績がなければ、採用し難いはずです。しかも、ピラミッドの上の方に行けば行くほど、その傾向は強まるでしょう。要するに、そんな求人はそもそも少ないのです。

 自分が積み上げてきた経験が思わぬところで転用できる可能性にも目を向けることは考えられませんか。また、その経験を発展させることで、今までと違う世界で活躍する自分は想像できないでしょうか。

 人材を扱う会社の世界では、専門能力の他に、「人との関わり方」「仕事の仕方・進め方」をポータブルスキルと呼んでいます。「人との関わり方」は、主にコミュニケーション力に左右されますが、パフォーマンスとして発揮されるのは、上司や経営層の意を汲みそれを実現できる力、部下や同僚のマネジメントやリーダーシップ、人材育成力、また顧客やパートナーとの関係を築く力です。「仕事の仕方・進め方」は、課題をつかみ、その解決する力に集約されます。それを、しっかり持っている方なら、違う業種、職種でも活躍できる可能性は十分にあります。現に、今四十歳以上の方の転職で、多くの方が、このポータブルスキルを活かして異業種、異職種で活躍されています。

 さらに困った傾向は、企業や業界に対する先入観による排除志向です。多くの方が陥ってしまいます。「外資系は業績に厳しい企業ばかりだ」「規模の小さな会社は、福利厚生が悪い」「〇〇業界は、すべてブラック企業だ」「××業界は、これからリストラが始まるので将来性がない」など、そんな人は、キーワードをすべて同じように考えてしまうのです。

 企業風土や歴史、社長の人格、一緒に働く人もまったく違うのにすべて同じように見えてしまうのでしょうか。最初は、そう思ってなくても、何か自分に不利益な情報が耳に入ると、自分に都合のよい情報だけを集めて、先入観を強化し始めます。こうなると自分の可能性を狭め、身動きが取れなくなってしまいます。これはだめだと決めてしまうより、自分にとって重視する項目は何かと考える発想の転換が望まれます。

 結局、中高年になってからの転職は、自分の視点から、雇う側の視点にどれだけ立てるかにかかっていると言えるでしょう。誤解してほしくないのは、やりたいことを曲げろと言っているわけではありません。もちろんやりたいことは貫いてほしいと思いますが、それができる環境選びは、雇われる側の気持ちになって条件や振る舞いを変えるべきだと言っているのです。

 表面は、平身低頭ですが、心根は、ここまで降りてきたんだから、俺を雇わなければ損するぞ、くらいに雇う側に交渉できるか。つまり、この会社に必ず貢献できそうだ、儲けさせることができるという目算があるくらいが、その会社に行っても活き活きと働けるということなのでしょう。経済原理を考えても、雇う方からしたら、雇う人材がある程度年齢がいっており、しかも転職してこようというのなら、この人材にいくらまでなら投資できるかとそろばんをはじいてもおかしくないわけですから。

 さらに私からお伝えしたいこととしては、中高年になっての転職であれば、そろそろ世の中にお返しできることはないのか、自分のためだけに生きていくことも大事だが、次の人を育てることも考えてほしいと思います。自分が技術者なら技術者を、商人なら商人を育てる。たとえ年収は抑え気味になろうとも、次の世代を育て上げることは、大きな意義があります。そう考えると選択肢の幅が、また大きく変わります。

北澤 孝太郎 著 『サラリーマン人生100本ノック』(日本経済新聞出版社、2020年)、「6 転職するときの決断」から
北澤 孝太郎(きたざわ・こうたろう)
東京工業大学大学院特任教授 レジェンダ・コーポレーション取締役1962年京都市生まれ。1985年、神戸大学経営学部卒業後、リクルートに入社。20年にわたり営業の最前線で活躍。2005年、日本テレコム(現ソフトバンク)に転身。執行役員法人営業本部長、音声事業本部長などを歴任。その後、モバイルコンビニ社長、丸善執行役員などを経て、現職。東京工業大学ではMBA科目の「営業戦略・組織」を担当。著書に『営業力100本ノック』『マンガ 営業力100本ノック』(いずれも日本経済新聞出版社)、『営業部はバカなのか』『「場当たり的」が会社を潰す』(いずれも新潮社)、『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)、『人材が育つ営業現場の共通点』(PHP研究所)、『まんがでわかる営業部はバカなのか』(ゴマブックス)がある。これまでの著作の内容に基づいた講演や、営業リーダーの研修なども行っている(ご興味のある方の問い合わせ先 http://kotaro-gosodan.com
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キーワード:経営・企画、人事・経理、営業、技術、製造、経営層、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修

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