官民連携と地域連携で実現する地方創生

地方都市再生の実現に向けて 人々の交流促進、まちを活性化

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 高齢化や人口減少など地方の抱える課題は深刻さを増している。その解決には何が必要か。日本経済新聞社とUR都市機構は2月17日、東京・大手町の日経ホールで日経地方創生フォーラム「官民連携と地域連携で実現する地方創生」を開催。「地方都市再生の実現に向けて」をテーマに産官学の識者が講演・議論した。

■基調講演 地方創生とまちづくりの行き先

交流事業が再生のカギに

青森県むつ市長 宮下 宗一郎 氏

 青森県むつ市の面積は東京23区の1.4倍。恐山などの名所や海の幸、2635匹もいるニホンザルなど自然豊かな市である。一方で人口は減少し人口動態は年間死者数819人に対し出生数は341人。人口減少や高齢化は課題ではなく時代の流れと考えているが、国土交通省のコンパクトシティモデル地域になり、全国で唯一の居住調整地域指定やウォーカブル都市を目指すなどまちづくりにも取り組んでいる。

 さらに先を見すえコミュニケーションインフラという新しい概念を掲げた。これからは交流事業が地方創生のカギになる。例えば特定空き家をコミュニケーションインフラという発想で活用を考え、立地の良い空き家を下北最大級の田名部まつりの拠点にして子供たちの休憩場所にする。ほかにも代官山公園を市民が自由に表現する場として開放。病院も建て替えて公園マルシェなどの交流拠点にするなど、公園や病院、学校など既存のものをコミュニケーションインフラとして整備したい。高齢化や都市構造の高度化がもたらす孤人化から脱却し、地域を家族と考えるまちづくりを目指す。集い、語らい、思い出をつくれる場所を提供したい。

 むつ市の子供たちのスマートフォン所有率は全国と変わらない。「スマホを置いてまちに出よう」と呼びかけ、新しい地方創生のモデルとして取り組んでいく。コミュニケーションインフラという概念がつくり出す新しいまちづくりの未来を楽しみにしてほしい。

■基調講演 “にぎやかそ”にぎやかな過疎の町 美波町をめざして

IoTで災害に強いまちへ

徳島県美波町長 影治 信良 氏

 美波町は徳島県南東部にあり人口は約6600人、高齢化率は47%。人口減少に対しては薬王寺の門前町の商店街再生、人形浄瑠璃の赤松座100年ぶりの復活など歴史文化をテーマに掲げ取り組んでいる。サテライトオフィスの誘致プロジェクトはサイファー・テックの申し出からスタートし現在は20の企業がある。

 南海トラフ巨大地震には、徳島県で最大の被害想定となっているため強い危機感がある。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」技術を持つ企業から提案があったのは、大災害でも止まらない通信網の整備だ。総務省のIoTサービス創出支援事業、経済産業省の地方版IoT推進ラボを取得し、産官学コンソーシアムを組み、止まらない通信網を活用した減災推進事業が始まった。実証実験区域に微弱な電波を出す中継器を50カ所設置。住民にはタグをぶら下げてもらい、災害時にはタグで位置確認ができる仕組みだ。四国4県4大学14市町で構成の「災害に強いまちづくり検討会」に美波町は最初から参加。助かる命を助けるために避難路や避難階段等を設置。木造住宅の耐震改修、耐震シェルター設置にも取り組む。町営の美波病院を免振構造にして高台に移転。浸水予想地域にある医療保健センターは高床式を採用。こども園や防災公園の高台移転も実施中だ。

 2018年にはUR都市機構と協定を結び連携して災害に強いまちづくりを目指す。にぎやかな過疎を意味する「にぎやかそ」のまちづくりに取り組んでいく。

■共催者挨拶

地方都市の課題解決に尽力

UR都市機構 理事長 中島 正弘

 昨年に続き「地方都市」というテーマでフォーラムを開催した。UR都市機構は前身組織が1955年に発足後、その時々の社会が抱える都市問題、住宅問題に対してミッションを与えられ、実施してきた。都市再生、賃貸住宅、災害復興というどちらかというと大都市での実績が多い組織だ。東日本大震災の復興に全力投球という時代が長く続いたが、地方都市再生にも力を入れ始めている。

 今の日本では人口減少は避けられない。市町村の人口が減る中で、今後どのようなまちづくりをしていくかは大きな課題であり、それに対してURも取り組まなければ、まちづくりのプロとは言えない。地方都市の課題については我々も日々勉強中であり、行政や民間企業のプレーヤーと連携し、これからの時代はどのようなことがまちづくりにつながるのか。さらに住んでいる人の満足感や幸せにつながるのかということを一緒に考えていきたい。敷居の高い組織と思われるかもしれないが、URは様々なネットワークを張り、現場に近いところで相談にのってもらえる組織にしたいと考えている。これからも多くの機会を捉えてURに相談をしてほしい。

■パネルディスカッション 人を呼び込む地域・まちづくり ~関係人口を増やす取り組み~
●パネリスト
 サイファー・テック 代表取締役/あわえ 代表取締役 吉田 基晴 氏
 全国まちなか広場研究会 理事/ひと・ネットワーククリエイター 山下 裕子 氏
 UR都市機構 理事長 中島 正弘

●コーディネーター
 和歌山大学 経済学部教授 副学長 足立 基浩 氏

地域の魅力伝えて関係人口増やす

 足立 関係人口とは一時的な訪問者でも長く移住する人でもなく中長期的なスパンで地域を訪れるファンのことをいう。まちの活性化には地域への愛着=センチメンタル価値も大事だ。関係人口には地域内と地域外の2種類がある。倒産した和歌山県の百貨店の愛着の価値を計算したところ、地域内の愛着が2億5000万円にも上った。そこで地元企業が支援に動き百貨店が再生した。これは地域内の関係人口の愛着のたまものだろう。関係人口を増やす取り組みについて聞きたい。

地域への愛着が人を動かす 足立 氏

 吉田 東京と徳島県美波町の2拠点居住でIT(情報通信)企業と地方振興の会社「あわえ」に携わっている。人口減少社会では1人が複数の役割を持つことが重要だ。自治体は住民票や本社移転・現地雇用の有無を問わず、能力や熱量のある人材を地域に招くことが大事。日本初の小・中学生の多拠点就学「デュアルスクール」は住民票の有無にかかわらず転校ができる仕組みだ。美波町では古民家を改築した店舗が増えた。関係人口増加によりすてきな副作用が起こり、この取り組みは映画にもなった。

 山下 2007年開業の広場グランドプラザ(富山市)をきっかけに地域の核となる場が人の居場所としてかなうよう広場化する際の伴走役を担っている。関係人口を紡ぐには地域のロビーとなる広場づくりも大切。この広場は市全域から公共交通でアクセスしやすく、24時間誰でもが座れる。人が居るシーンの定着化は肝でありマーケット等の定期開催はそれを具現化する。その場に行けば誰かが居ることが交流機会や地域内経済活動を促し、でかける期待感を醸成し持続させる。個人的には山口県長門市の恩湯と塩田に営みの原点を感じ、年に何回も通うほどファンに。地域の個性を棚卸しし、表現して伝えることが関係人口増加につながる。

地域で役割持つこと重要 吉田 氏

 中島 URはまちづくりを専門とする独立行政法人だ。5カ年計画の中に地方都市におけるコンパクトシティの実現を掲げた。国と連携した例では、地方再生のモデル都市のうち13都市を中心に支援し、技術・ソフト両面で自治体にアドバイスしている。広島県福山市では古いビルの底地を取得し地元企業と連携してリノベーションして宿泊施設に変えた。長野県では市町村がまちづくりに取り組むためのプラットフォームにも取り組んでいる。社会的ニーズが変われば仕事も変わる。地方都市再生は社会にとって大事なことだ。

まち広場は交流機会促す 山下 氏

 足立 和歌山県白浜町はIT企業が集積し、ワーケーションという仕事と休暇を両立できる場所として注目されている。関係人口創出には何が必要か。

 吉田 地域の課題や悩みを具体的に伝え、関係人口がその地域で役割を持てることがカギ。美波町では企業が学校でITやデザインの授業をしている。大都市では得られない役割に意気を感じれば良い循環が生まれる。

 山下 交通弱者でも行ける場にでかけたいと感じる空気感の醸成が大切。富山市の広場では開業時スタッフ自身が座り集うところから始めた。少しでも人通りのある場を広場化し知人と偶然会えることは価値である。機能のない広場がそれを担う。

官民連携で新しい価値創造 中島

 中島 URは自治体のサポートが入り口になるため、地域の課題の整理が不可欠だ。美波町とは、南海トラフ巨大地震で発生する津波被害を事前に低減させる防災の取り組みとして、こども園等の高台移転で関わっている。URの支援は地域の課題の整理のみを実施する場合でも、丁寧に取り組んでいる。暫定的に土地を取得したり、人材の交流にも取り組んでいる。

まちの再設計に官民連携が不可欠

 足立 官民連携、地域連携についてはどう考えるか。

 山下 仕組みづくりは民間だけではできない。初動期にはマンパワー面で行政協力が必要だ。広場は自治体内の複数セクションに関わってくる。最近はエリアに特化した課の設置も増えている。

 吉田 関係人口予備軍は地域との接点を求めているが、自治体側で提供できない場合がある。人は接しないと始まらないという原点に戻る必要がある。

 中島 自治体がまちづくりを円滑に進めるにあたり、入札制度や人事異動の多さなど、課題は多い。こうした課題を持つ自治体同士の連携や相談できるプラットフォームも必要だ。大規模団地の中ににぎわいをつくる仕事は地方都市の商店街再生と似ている。例えば大都市の団地の住民と地方の住民との交流も方法の一つだ。官と民、そして地方と大都市との接着剤のような役割を果たしたい。

 足立 URに期待することは。

 吉田 縮小社会のまちづくりにおける再設計のプロとして期待している。

 山下 UR団地内を特区的に捉え敷地内でのみ乗れるパーソナルモビリティーの開発および実証実験等の取り組みに期待したい。

 中島 URには72万戸の団地があり、それは日本の縮図になっている。団地をオープンイノベーションの場にするなど官民連携で新しい価値を創ってまいりたい。

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