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新型コロナは対テロ戦 リーダーシップは多国籍軍流で マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー 岩本仁

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危機下こそ制約を明示して権限委譲

 軍隊では危機下こそ部下への権限委譲を徹底する。元英国陸軍将校マーク・ノートンはかつてこのように言った。「地上戦で最悪の状況とは敵に包囲される事だ。その時、恐怖に駆られた隊長が本能に従うと、部下1人1人に細かく指示を出してしまう。全滅コースだ。1人の隊長が何十人分もの最適行動を瞬時に判断できるはずがない。生き残る隊長は、どこに血路を開くかという決断に集中し、個別の戦闘判断は部下に任せる」

 政府の休校要請に対応して、児童を教室で預かる学校や、給食の食材を安価に放出した会社がある。突然の事態に現場がチームで考えて行動した好例だ。ビジネスにおいても、危機下で求められるのはリーダーによる大局の決断と現場への権限委譲だ。部下は上司が思う以上にクリエイティブだ。

 権限委譲する際に重要なのは制約を明示することだ。元英国海兵隊総司令官サー・ロバート・フライの言葉を借りれば「多国籍軍の作戦行動では、投入可能な戦力や実行期限などの制約を明示する。制約が明確になると、その裏返しとして各部隊に与えられる自由が明確になる。自由度の中で柔軟な判断を任せることが予測不能なテロリストへの対応を可能にする」のだ。

 ミッションの明確化同様、制約の明確化は簡単ではない。しかし、例えば休校中に子どもを預かる際の制約として1部屋の人数、換気の頻度、マスク着用、入室時の手洗いの徹底などを明示すれば、「その中でベストの対応を考えよう!」という姿勢が出てくる。制約という概念がクリエイティビティを引き出す。

最悪を考える頭脳と未来を信じる心

 前英国海兵隊総司令官サー・ゴードン・メッセンジャーは言う。「私は、戦闘の前には必ず最悪の状況とそれらへの対応を考え抜く。ヘリコプターの墜落、ミサイルの誤射、現地警察の裏切り。自分が指揮官として何が起こっても動じないためだ」

 今、日本企業のリーダーに求められていることも同じだ。最悪の状況を考え抜いて、常に冷静な頭で対応する準備をしておく。

 一方で、信念を持って夢のある将来像を示すこともリーダーにしかできない。短期的な痛みは未来を創るための過程だ。リーダーの笑顔が社員に希望を与える。

 命のかかったテロリスト戦を通じて多国籍軍はミッションリーダーシップを確立し強くなった。現段階で新型コロナ対応の正解は誰にもわからない。自分が判断を間違えてもくじけない、他人が判断を間違えても責めない。レジリエンスだ。この試練を通じて日本企業のリーダーとチームは更に強くなると信じたい。

岩本 仁(いわもと じん)
マッキニーロジャーズ アジア太平洋代表パートナー
ブーズ・アレン&ハミルトンを経て、シック米国本社グローバルビジネスディレクター、シック・アジア太平洋担当VP 兼シックジャパン社長、MHD ディアジオ・モエ・ヘネシー社長兼CEO 等、15年に渡り経営最前線を指揮。2008年10月より現職。グローバル企業の組織変革のプロフェッショナルとして、特にM&A後、JV等、複雑な組織のマネジメントに精通。東京工業大学情報科学科卒業

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