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新型コロナ、ピンチをチャンスに 新ビジネスの契機 明治大学経営学部教授 大石芳裕

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在宅勤務やオンライン医療普及のきっかけに

 新型コロナがビジネスに与える影響はこれだけに留まらないが、筆者は下記のような日本の現状にも注目している。

 1つ目は、マスクやトイレットペーパーの品切れ騒動である。「トイレットペーパー騒動」と聞くと年配の人は1973年の第一次「石油ショック」を思い出すことだろう。原油価格の高騰で「紙がなくなる」という噂が飛び交い、トイレットペーパーの買い占め騒動になったものだ。人々の不安感が集団心理を増強し、全国的なパニックに発展した。英語ではcrisis(危機)と呼ばれたものがshockと表現されるところに、日本のろうばいぶりが表れていた。このことは、人間が過去の歴史からいかに学ぶことが少ないかを示している。自国第一主義も1930年代のブロック経済の反省があればとても容認できないものだが、人間はさほど賢くない。今回は米国や欧州でもマスク・トイレットペーパーを巡り騒動が起きているので日本だけではないが、筆者は今回のことで日本ブランドが毀損したと見ている。東日本大震災の後、福島の風評被害を除けば、総じて日本賛美が強かったものだが、凋落(ちょうらく)気味の日本ブランドに拍車をかけてしまった。

 2つ目は、在宅勤務の増大である。電通や資生堂などが数千人規模の在宅勤務を実施したことで注目されたが、首都圏では以前から満員電車による「痛勤」を緩和するため在宅勤務が推奨されていた。しかしながら、「仕事とは会社に来るものだ」とか「会議はやはり顔を見て話さなければ」とかの合理的根拠のない慣習に縛られてなかなか実現しなかった。それが新型コロナの感染拡大で在宅勤務を余儀なくされた。やってみると「なんだ、できるじゃないか」ということに多くの人が気づいた。営業だって「メールと電話だけで失礼な」と言われていたものが、それで十分だという例も数多く出てきた。ワークライフ・バランスだって在宅勤務で実現できる。要するに、従来は経営者の危機感や切迫感がなく進まなかった在宅勤務が、新型コロナによって強制され動き出したのだ。これは継続して欲しい。

 3つ目は、医師によるオンライン診療や薬剤師によるオンライン服薬指導に道を開きつつあることだ。米国では1993年にアメリカ遠隔医療学会が創設され、遠隔診療を行うネットワークも施設も数多くある。州間規制や保険適用の課題はあるが、国土の広さを反映してオンライン診療が早くから発達した。欧州も2008年に「患者・医療制度・社会の利益のための遠隔医療に関する通達」を出し、2010年代に遠隔医療サービスの充実を図ってきた。先進国ばかりでない。インドのベンガルールに本社を置くエムファインは患者がチャットやビデオ通信で医師の診断を受けられるサービスを提供しており、すでに30万人の利用者がいる。シンガポールや中国もオンライン診療に取り組んでいる。日本でもようやく2015年8月にオンライン診療が事実上解禁され2018年4月の診療報酬改定で「オンライン診療科」と「オンライン医学管理科」が新設されたものの、診療報酬の算定要件が厳し過ぎて実際には自費診療だけが進んでいた。そもそも日本では「初診は対面診察」などの制約がありオンライン診療が進展しなかったが、新型コロナのまん延で慢性疾患患者と新型コロナに感染の疑いがある人に限定されるもののオンライン診療を厚生労働省が認めた。これを契機にオンライン診療の進展を進めて欲しい。

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