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新型コロナ、ピンチをチャンスに 新ビジネスの契機 明治大学経営学部教授 大石芳裕

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 2019年12月、中国湖北省・武漢で発生したとされる新型コロナウイルス(COVID-19、以下、新型コロナと略称)が世界中に広がっている。2020年3月7日にWHO(世界保健機関)の発表では、すでに感染者が10万人を超えている。中国がそのうちの8割を占めるが、それ以外では韓国、イタリア、イランがとくに感染者数および死者数が多い。ただし、日本や米国を含め、今や5大陸すべてで感染者が報告されている。

 新聞やテレビは毎日のように新型コロナについて報道しており、大幅な人的移動制限や学校閉鎖、大型イベントの自粛要請、マスクやトイレットペーパーの品切れなど、ビジネスを超えて人々の生活そのものを脅かしている。本稿では、そのような社会生活の困窮を気にしながら、新型コロナがビジネスに与える影響を整理してみたい。

サプライチェーン寸断・需要減少・移動制限…

 第1に、サプライチェーン(供給連鎖)の寸断である。米中貿易摩擦に代表されるような自国第一主義が興隆しサプライチェーンが大きな痛手を被っている時に、「泣き面に蜂」とばかりに新型コロナがまん延してしまった。とりわけ世界の工場である中国、その中でも重要な位置を占める湖北省・武漢が大きな被害を受けたことにより、自動車、パソコン、携帯電話、電子機器、家具、衣服など多くの産業のサプライチェーンが深手を負っている。完成品・部品・部材の供給元が、とりわけ労働力を確保できないために生産をフルに行うことができず、その後の川下に大きな影響をもたらしているのである。中国からの輸出は、2020年1-2月に17%減になったが、2月だけとればもっと大幅な減少率だったに違いない。UNCTAD(国連貿易開発会議)は2020年の中国の輸出額は500億ドル(約5兆4000億円)減少するとの見通しを出している。

 第2に、需要の縮減である。「人が大勢集まることが困難」な状況では、生産も停滞するが、需要も大幅に減少する。ある国の部品・部材を入手できないことで、その後の完成品生産がストップし、完成品メーカーへ他の部品・部材を供給しているサプライヤーも納品できない。完成品メーカーも、たとえ生産が可能になったとしても、最終需要が縮減している状態では十全に販売することができない。それらの企業で働く従業員は給料も支払わられず、場合によっては解雇の憂き目に遭う。所得総額が縮減するのだから、最終需要も縮減する。中国市場自体の需要減も深刻で、自動車の新車販売は2020年1月で前年同月比18.7%減となった。これも2月はもっと悪化するだろう。中国だけではなく、世界中が需要減で苦しんでいる。新型コロナの影響が大きいアジアのIT企業105社は2020年の営業利益を1兆円強減らすであろうとゴールドマン・サックス証券は試算している。もちろん減益はアジアだけにとどまらない。米国は3月3日に政策金利を0.5%引き下げて景気の下支えを図ろうとしている。主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議も「(景気下支えのため)あらゆる手段を講じる」という緊急声明を発表した。

 第3に、人の移動やイベントの中止は、観光業界や運輸業界、エンターテイメント業界、小売業界などを直撃している。まず、多くの国が中国からの入国を禁止したり14日間(平均的潜伏期間と推測されている期間)の隔離をしたりの措置を取ったあと、韓国、イタリア、イランからの入国も大幅に制限した。いまや日本も入国制限国に含まれている。その日本も3月9日から入国制限を強化した。中韓からの入国者(第三国経由を含む)に対して自宅やホテルでの2週間待機を求めるものだ。このため、日本人在留者の駆け込み帰国が8日までに急増した。イタリアでは3月8日、とりわけ感染者が多い北部ロンバルディア州を含む5つの州で州外への移動制限が発令された。ファッションビジネスの聖地でもあり観光の名所であるミラノもこの中に含まれる。3月10日には移動制限がイタリア全土に拡大された。英国では欧州最大級の地域航空会社フライビーが、3月5日、経営破綻した。乗客の大幅減少で、体力のない航空企業は厳しい淘汰の波にさらされている。実際、企業の信用力に基づいて売買されるCDC(クレジット・デフォルト・スワップ)取引で航空企業のCDC保証料が急上昇している。自動車産業や観光産業も高い。日本の観光大手HISも2020年10月期通期の連結最終損益がマイナス11億円になるとの見通しを発表している。従来予想を121億円下回り、2002年の上場以来初の赤字決算となるという。

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