地方創生の視点から捉える 民泊の新たな可能性

五輪後見すえ戦略急務 治安面など課題も 地元との協力がカギ

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 インバウンド誘致拡大の好機となる東京オリンピック・パラリンピックを契機に、民泊の未来をどう広げるか――。日本経済新聞社は東京・大手町の日経ホールで日経地方創生フォーラム「地方創生の視点から捉える民泊の新たな可能性」を開催。産官学の識者らの講演・議論では、治安面などの課題を解消して地方活性化につなげるため、関係者と地元地域や自治体との協力拡充をはじめとする戦略確立を促す声が相次いだ。

■基調講演

需要に対応、「違法」は排除

観光庁 観光地域振興部長 村田 茂樹 氏

 近年、インターネットの普及を背景に、旅行者に個人宅や投資用マンションなどを貸し出すビジネスモデルが拡大した。2017年には「住宅宿泊事業法」が成立し、事業者は旅館業法の許可を取らなくとも都道府県知事に届け出れば宿泊料を取れることになった。

 この新法では家主不在型の民泊に「住宅宿泊管理業者」への委託義務が生じるほか、仲介の際には登録を受けた「住宅宿泊仲介業者」や旅行業者への委託が必要になるなど様々なルールが設けられている。国家戦略特区法に基づく旅館業法特例として民泊を認める制度も、現在8つの自治体で実施されている。

 民泊の届け出件数は今年1月の時点で約2万3000件。法施行時の10倍を超え、順調に増加している。利用者の比率は訪日外国人客が約4分の3で、平均宿泊日数が通常のホテルや旅館よりも長いため、インバウンド消費額の底上げが期待できる。様々な宿泊ニーズに対応するために、観光庁は今後も民泊制度を活用した宿泊の提供を推進する予定だ。最近では仲介業者が自治体と連携して魅力的なプログラムを提供するなど、民泊サービスを通じたまちづくりや観光振興を目指す動きも広がっている。

 違法民泊については、自治体や厚生労働省と情報共有して排除に努めている。仲介業者に削除を依頼するほか、物件情報の登録時に仲介業者が観光庁のデータベースと照合する新制度整備などを進め、民泊産業の健全な発展を促していく。

■基調講演

選手と地域の出合い期待

五輪メダリスト/メンタルトレーナー/IOC マーケティング委員 田中ウルヴェ 京 氏

 アスリートは海外遠征時に、ホームステイという形で各国の様々な地域の人々にお世話になる。スポーツの世界では出会えない人たちと出会い、交流を深めたり引退後のキャリアを考えたりできる機会は、本人にとって大きなメリットになる。

 私自身もそうだったが、オリンピアンは自分がアスリートだというアイデンティティーを強めるほど競技成績は上がりやすい。しかし、その反動で引退後には自分という人間が無価値であるかのように感じられてしまうという問題が、ここ20年で多く報告されるようになった。早い時期からセカンドキャリアを意識して自分の視野を少しずらし、新たな自分を作り上げることが大事だろう。

 その意味で、アスリートにとって民泊は自己整理の場として重要な存在だ。民泊を利用すると初めて出会う人々とスポーツ以外の経験を共有できて、自分を“多視点”かつ“他視点”で眺められるのだ。例えばホストとの交流の中で、「スポーツだけでなく、料理も上手なんですね」と言ってもらい、新たな自分を発見できたりする。一人の人間として自分自身の価値を見てもらえる場は大変ありがたい。

 今回の東京2020大会で、地域の人々が民泊を通じてオリンピアンと接すれば、その地道な努力やメンタルのしなやかさなど、メダル以外のスポーツの価値を感じることができるだろう。人種や競技種目などによる固定観念を持つことなく、一人の人間として選手を見ることができるはずだ。

■企業講演

自治体との連携拡大狙う

Airbnb Japan 代表取締役 田邉 泰之 氏

 当社は宿泊場所の提供サービスと、地域体験の提供サービスの2つを展開している。世界220以上の国・地域で宿泊場所を提供しており、物件数は700万以上、累計のゲスト数は5億人を超えた。2014年に日本法人を設立し、国内には9万室以上の物件がある。各地の企業や自治体と組んで様々な体験サービスも実施。なお、法令順守は非常に重要であり、観光庁や自治体と連携して取り組んでいる。

 東京2020大会ではワールドワイドオリンピックパートナーとして、アスリートによる体験という分野の事業を日本で開始する。アスリートが持つ知見やメンタルコントロールなど、様々な学びを得られる体験を提供したいと考えている。

 当社は創業後、新たな旅のスタイルを求める若い世代によって口コミが広がり、マーケティングを全くせずに事業を拡大した。東京2020大会も同じ伝播(でんぱ)力を生むような仕組みを作る。行事や宿泊体験で旅行者と地域をつなぐ新たな試み「イベントホームステイ」も増やしたい。既に千葉、和光両市や寒川町と連携しており、さらに新たな枠組みを発表する予定だ。

 昨年のラグビーワールドカップ開催時、全国のAirbnb宿泊数は約65万、開催12都市のホストの収入額は約49億円に達した。初期投資が低く、自分のペースで参加できる点も特徴だ。インバウンドだけでなく、日本人旅行者にも地域の魅力を伝え、伝統文化の継承に貢献していきたい。

■パネルディスカッション (1)

負のイメージ 払拭図る

◆ パネリスト

千葉市総合政策局 国家戦略特区担当局長 稲生 勝義 氏

熊本県商工観光労働部 観光物産課 課長補佐 清塘 文夫 氏

釜石市 総務企画部 オープンシティ推進室 室長/内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 石井 重成 氏

観光庁 観光産業課 民泊業務適正化指導室長 地主 純 氏

◆ コーディネーター

Airbnb Japan 執行役員 長田 英知 氏

 長田 おのおのの活動内容や取り組みを伺いたい。

 地主 民泊は宿泊施設の供給のほか、様々な体験や空間自体が楽しめるコンテンツとしての価値も高い。観光庁はイベント開催時に自治体の要請で旅館業法の許可なく宿泊サービスを提供できるイベントホームステイ(イベント民泊)にも注力している。昨年末に要件が緩和され、「地域の交流機会の創出」という観点からも実施可能になった。

 石井 釜石市はラグビーワールドカップ2019のホスト地域となり、日本で初めてAirbnbとパートナーシップを締結し、期間中23の家庭に63人が宿泊するイベントホームステイを実施した。受け入れ後は「楽しかった」などという声がほとんどで、現在も7軒が届け出を経てホームステイを受け入れている。今後もシェアリングエコノミー推進に取り組みたい。

 清塘 熊本県では昨年、祭りのイベントとラグビーワールドカップでイベントホームステイを実施した。自宅提供者は主に40代以上の年配層で、若年層が多いゲストの側からは年配層のもてなしを喜ぶ声が多かった。通常の観光目的で利用したゲストも多い。独立した子供部屋を提供するケースもあり、潜在的な民泊需要の高さを感じた。

 稲生 千葉市はシェアリングエコノミー推進事業を2018年度から3カ年で実施している。先般は東京2020大会での「1000人泊」の目標を掲げた。ホームシェアに関する説明会や研修も行い、19年は様々なイベントで市民の方々に実際のホームシェア経験をしていただいた。東京2020大会後は組織化して観光資源にしたい。

 長田 今後の展開や課題、アドバイスなどを伺いたい。

 地主 日本では民泊というと、家主不在型の民泊や、違法民泊のトラブルのイメージが強い。昨年末の改定でイベント民泊をイベントホームステイという呼び方にしたのは、より実態に即した言葉でイメージしてもらう狙いがある。

 稲生 民泊のネガティブなイメージのために、特区の中でもうまくいかないことがある。イベントホームステイで素晴らしい体験ができることを広く周知して、オリンピック・パラリンピックとセットで全庁的に進めていく考えだ。

 石井 釜石市にとってイベントホームステイは、まちづくりへの市民の参画手段だ。「私はイベントに関わった」と自信を持って市民が話せる機会として非常に有意義だと感じる。多様性を受け入れる土壌を作るうえでも意義深い。

 清塘 ホストの応募期間が短いほどマッチング期間も短くなる。迷っている自治体は、なるべく早く発令して着手するのが一番だ。口伝えで伝播することで「うちもやろう」という人も増えていくだろう。

■パネルディスカッション(2)

外部の人材起用 知見の共有を

◆ パネリスト

東洋大学 教授/慶応義塾大学 名誉教授 竹中 平蔵 氏

ラグビーワールドカップ2019 アンバサダー/HiRAKU 代表取締役 廣瀬 俊朗 氏

JTB 執行役員 経営戦略本部 副本部長 上田 泰志 氏

田邉 泰之 氏

◆ コーディネーター

みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部 連携事業担当部長 兼 コンサルティング第2部 担当部長/主席コンサルタント 松本 英之 氏

 松本 東京2020大会後、観光や民泊でどうビジネス展開していけばいいか。

 竹中 仕組みの変更にエネルギーを割く必要がある。借地借家法には1カ月以上という制限があるが、特区民泊では3日まで縮められているため、ぜひ特区にすべく首長に働きかけてほしい。地域でデータをシェアしてビジネスマーケティングを可能にするような仕組みづくりも必要だ。この2つが持続性を確保するための要件となる。

 上田 当社は新たな旅行体験市場の創出を推進し、体験ホストの育成やイベント民泊を通じた地方創生に取り組んできた。近年は交流や体験、感動が旅行目的としてクローズアップされている。これらがデータとして整備され、的確かつタイムリーに必要な人に届けられる仕組みができれば、日本の旅はもっと素晴らしいものになる。

 田邉 「地元をもっと知りたい」という新たな旅のスタイルが確立されつつある。当社のデータでは昨年1年間、インバウンドと同じ伸び率で国内ユーザーが伸びている。各地に異なる文化やおいしい食事がある日本はホームシェアリングや体験型の旅との相性が非常に良い。これが広まれば様々な周辺ビジネスも必要になる。

 廣瀬 地方で面白い取り組みをしている個人のノウハウを横展開して全国でシェアできればいいと思う。私は肩を組んで国歌を歌い、その国をおもてなしする「スクラムユニゾン」という活動をしているが、こうした取り組みを一つ、日本全体で行うことも継続性につながるのではないか。

 松本 2020年を機に地域課題をどう解決すべきか。

 竹中 新しいことをやるには、やはり外から投資と人材を引っ張ってくる必要がある。東京都もヤフーの前社長を副知事にした。他の自治体もそういうことをやるべきだ。今、シニアの人材は豊富で、自分の経験を生かして地方で暮らしたいと考える人も多い。そこにぜひ注目してほしい。

 廣瀬 海外ではスタジアムの横にショッピングモールがあり家族で過ごせるなど、日本がビジネスの参考にすべき点が多い。その地域の良さに地元の人が気付いていないことも多いので、外部がサポートすることも大事だと思う。

 上田 体験価値とは、受け取る側にどのように感じてもらうかが大事だ。このベースに立ち、交流人口や関係人口を増やすためにどうするか考え続けることがデスティネーション・エコシステムの観点で重要なことだと考えている。

 田邉 当社が目指すのは、地元の人々が活躍できるための場づくりだ。各地域のホストと会合を開き、共に協力して新たなエコシステムを作るサポートをしており、少しずつ成果が見えてきている。

日経地方創生フォーラム
主催:日本経済新聞社  後援:観光庁  特別協力:Airbnb Japan

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