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「偶然」を味方につける 50代からのキャリアの重ね方 トレノケート シニア人材教育コンサルタント 田中淳子

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 ただ、もし「まだまだ自分には可能性があるんじゃないか」「今のままでいいのかな、まだまだ人生は長いぞ」とほんの少しでも心に引っかかるものがあれば、「価値観型」と「偶発性」の考え方を生かした、50代なりのキャリアの積み方を考えてみるのも悪くない。

偶発性を生かすことで50代なりのキャリアが見つかる

 私の友人に、有賀薫さんという女性がいる。「スープ作家」という新しい肩書を作り、名乗っている。スープのレシピ本を出しては大ヒット、今やTVやラジオに引っ張りだこである。私と同年代の薫さん。実は、料理研究家でも栄養士でもない。

 始まりは、2011年。アラフィフだった彼女は、大学受験を控える息子が朝時間通り起きるためにはどうしたらいいか?と考え、息子のためにスープを作り始める。せっかくだからとそれをSNS(交流サイト)に投稿もしていた。それが100日、300日、500日と続いていく。新しいスープレシピを工夫し、美しく盛りつけた1皿のスープの写真は、やがて多くの人の目に留まり始める。

 スープにまつわる様々な研究もスタートした。スープに関する本もたくさん読んだそうだ。SNSに投稿していたスープ写真をまとめて展示する「スープの展覧会」も自前で行った。

 ほかにも「昆布研究会」「コンソメ研究会」「野菜の切り方研究会」などを手弁当で開催し、SNSで参加募集しては、研究成果を見てもらうという活動もした。

 周囲の友人たちは、「本になるといいね」と応援したし、彼女自身、出版社に企画を持ち込んだが、最初は色よい返事はもらえなかったようだ。

 「スープだけっていうのがねぇ」と渋い反応。それでもスープを作り続け、やがて様々な努力が実となり、2016年、1冊目のスープの本が出版された。スープ作りを始めて5年目のことである。

 さらに少しずつファンは広がり、彼女自身の努力もあって、第二弾、第三弾を出版。スープにまつわる出版記念セミナーを開催するなど、できることは何でも楽しそうに挑戦していた。

 そして2019年に出版した五冊目の本が大ヒット、そこからはTVやラジオにもよく出演するようになっていった。すべてほぼ50代になってからの話である。

 薫さんも価値観型のキャリアだと思う。

 あるとき、聴いてみたことがある。「薫さんは、何を目指しているの?」「うーん、私もわからないの。でも、スープだけは楽しいし、続くの」「続くっていいね」

 初めから何かを目指していたわけではなく、スープ作りが楽しくて続けているうちに、スープ作家となったのだ。

 彼女は、もともとフリーのライターで自分の名前の出ない記事を書く仕事をしてきた。そして、家族の食卓を守る「主婦なのよ」とも自称する。趣味で絵を習っていたりもする(とても素敵な絵を描くのだ)。

 スープのレシピ本を作るにあたり、長年のライターとしての文章修行が役立って、レシピ本にご自分の分かりやすい文章と自筆のイラストや絵を掲載している。50歳を過ぎて、これまでやってきたことのすべてが統合したという印象だ。

 彼女のこれまでを見ていると、まず「好奇心」がある。ある時、我が家にお招きした際、「私はここで」と食事会を中座したのだが、どこへ行くのかと思えば、「今から鹿児島の枕崎に鰹節の取材に行くの!」という。その鰹節の研究もスープに生かしている。

 「持続性」もある。2011年にスタートした毎日のスープ作りは3000日に及ぶという。

 レシピ本を作成するにあたり、長年の主婦的感覚でどうしても詳しい手順にしたくなるものを、今の忙しい世代に合わせてシンプルなステップのレシピに作り替えたと聞く。若い編集者と組んでそういうイマドキのレシピに挑戦するのは、「柔軟性」だ。

 レシピ本を出版しようと、出版社を巡ってはNGだった頃を知っている私は、「冒険心」「楽観性」もその行動に見て取れると思っている。

 まさに偶発性理論を体現している。

 キャリア開発支援をしていると、「もう年齢的に人生は峠を越した」と話す人もいるのだが、薫さんの活躍を見ていると、年齢なんか関係ないなと思わされる。何年も先に大きく目指すものがなくても、今好きなこと、自分らしくいられることをひたすら続けていくことが次の何かにつながることもあるのだ。

 ただし、これにはコツがある。単に待っているだけでは、何も起こらない。偶然を引き起こすのは、自分のちょっとした行動である。誰かに会いに行く、やってみたことないことをやってみる。自分の考えを誰かに話してみる。そういうほんの少しの行動が、自分にとって意味ある偶然を引き起こしてくれる。

 私も数々の偶然によってキャリアを積んでいる。「シニアをテーマにしたコラムを」という相談をいただいたとき、国家資格キャリアコンサルタントは取得していたし、既に50歳を過ぎてはいたので、「ちょうどよい」とは思いながらも、書いたことのない分野であり、しかも1回の寄稿ではなく、連載。果たしてできるだろうか?と数秒考えたが、「やります!」と即答した。

 この連載を進めながら、「50代以上のキャリア」に関する本を20冊ほど読み、世の中でどんなことが言われているか、国は何を推進しようとしているか、どういうキャリア理論があるのか、シニアにまつわるどんな現場事例があるのかを常にウォッチしていた。これが私にとっての「好奇心」「楽観性」「冒険心」である。40代前半から20年近く様々なメディアで文筆の仕事をしてきたことは「持続性」だ。

 この2年間、50代についてうんと考えて来たことが、キャリア開発支援の仕事にもつながり始めた。

 「チャンスの神様は前髪しかない」とも言う。やりたいことやできること、人から請われたことなど、「あとで」「いつか」などと先送りせず、その前髪をつかみ、今やってみることだ。

 これで全24回のコラムはひとまず終了である。

 「50歳以上の方を応援する」目的で書いて来たものだが、このコラムたちが、年齢を問わず、どなたかの心に残り、これからの人生に、ほんの少しでも役に立つことがあるならば、これ以上嬉しいことはない。

 2年間お読みいただき、ありがとうございました。人生100年時代、健康に留意し、ワクワクと働き、楽しく幸せを感じられる人生を歩んでいきましょう。

シニアを部下に持つ管理職へのメッセージ

 「50代が厄介だ」と思う年下上司は多いかもしれない。さまざまな企業で、年上部下について、「頑固なんですよねぇ」「変ろうとしないんですよ」「指摘しにくくて」という愚痴を度々耳にする。

 「自分では気を付けているつもりだけど、若い人から見たら、既に老害かも、と時々恐くなる」とある50代の方がおっしゃっていた。

 若い人に迷惑を掛けようと思っているわけではないが、知らず知らずのうちに年齢というポジションパワーを発揮してしまうのがシニアだ。

 何か気になることがあれば、相手がシニアであろうと、遠慮なく伝えてほしい。気づかぬうちに「裸の王様」ならぬ、「裸のシニア」になっているのも困る。

 そして、今は若い皆さんもいずれ50代になる。

 だから、よくも悪くも50代をよく観察し、自分が理想とする50代を迎えていただければと思う。

 最後に。

 いろいろ問題もあろうけれど、何歳でもほめられると嬉しい。年上部下のことをたまには言葉に出してほめてください。頑張ると思いますよ。
田中淳子(たなか・じゅんこ)
1963年生まれ。トレノケート株式会社 シニア人材教育コンサルタント、産業カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント。1986年日本DECに入社、技術教育に従事。1996年より現職。新入社員からシニア層まで幅広く人材開発の支援に携わっている。著書『ITマネジャーのための現場で実践!部下を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『はじめての後輩指導』(経団連出版)など多数。ブログは「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」。フェイスブックページ“TanakaJunko”。
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キーワード:人事、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修、働き方改革

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