サラリーマン人生100本ノック

サラリーマン人生「転職すると給与が下がるのは当たり前ですか」 東京工業大学大学院特任教授 北澤 孝太郎

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 もう一つの一貫性は、あなたが今までどんな「思い」を持ち、それを実現するためにどんなキャリアを積んできたか、その過程でどんなスキルを磨いてきたか、それらをもとにさらなる「思い」をどう描いているか、そして、その「思い」を実現するために考えたうえでこの会社を選んだという筋道を確認します。そこにブレがないかどうか、どこかで思い立ってやり直しているとしても、この順番で積み上げているかを確認しているのです。

 そこに一貫性があれば、きっとこの会社である程度長期間、しかも落ち着いて仕事に取り組んでもらえると判断します。本当の転職の理由が、給与を上げることや、人間関係を清算したいという理由であったとしても、この自分の選んだ会社が、自分の「思い」を実現する会社であるという正当な理由づけ、意味づけがなければ、相手は選んでくれません。不満や不安は、転職のきっかけであってもいいのですが、相手から見たときには理由にはなりません。その不満や不安を、前向きな「思い」に変えて、チャレンジしようとしているかどうかが相手からみれば大切なのです。でないと同じ理由で辞めることにつながりはしないか、今度は企業側が不安になってしまいます。

 それができたら、今度は、現在価値と将来価値の整理です。現在価値には、今まで積み上げてきたキャリアの集積も含みます。将来価値は、自分がこの企業で何がしたいか、できるのかということと同時に、先ほどの筋道のようにどうしてここに入りたいのかという動機を含ませてください。動機が正当で、それが強ければ、将来において力を発揮してくれるに違いないというイメージが沸きやすいことになります。

キャリアの棚卸しで現在価値と将来価値を考える

 これらを整理しやすくする方法としてよく用いられるのが、キャリアの棚卸しという作業です。まず、自分のキャリアを並べてみたときに、目的に応じてどういう位置づけであったか、つまり、こんな人生を歩んでいきたいと思っているという目的に向かって並ぶキャリアが、自分にとって黎明期(苦労を重ねながらひたすらスキルをため込んだ時期)、充実期(ため込んだスキルを思い切り発揮してパフォーマンスを出している時期)、転換期(自分の価値をつくり直さないといけないと感じ次の行動を起こすまでの時期)にどう分類されるのか考えてみましょう。もちろん複数のサイクルがあっても構いません。

 次に、それらの時期にやった仕事内容、成功・失敗・修羅場経験、身についたこと、上司部下との関係性を具体的に文字にしてみます。そして、それらを重ね合わせて、こんな時期にこんなことをしていて、こんなことがあった、こんなことができるようになった、みんなはこんな評価をしてくれたと分析します。それぞれの時期にどんなことが身についたのか、また上司や部下の評価から現在価値を割り出します。また、黎明期にはなぜうまくいかず、充実期にはうまくいったのか、理想の状態は何かといったことを考えることから、あなたが最もやりたいこと、将来において価値を発揮できる状態、将来価値を考えます。

 それができたら、自分が行きたいと思った企業が目指す方向と、それらを結びつけることを考えましょう。例えば、その企業が、今の商品構成で近いうちに海外に営業展開をしていきたいと思っているなら、それまでに築いてきた近い商品構成での営業経験やずっと勉強してきた英語のスキルが現在価値になりますし、今まで新しいことにどんどんチャレンジしてきた姿勢や人に負けることが大嫌いでどこまでもやり抜く性格は将来価値ということにつながります。

 企業は、この人材を採れば、どんな活躍をしてくれるだろうかをイメージし、それにつながる理由を探し、その理由に正当性があればさらにそのイメージを濃くし、その会社の基準に照らし合わせて、それを超えていれば採用します。この作業を通じて、自分は、その企業にぴったり合う人材であるということをアピールしなくてはなりません。

 条件交渉は、ここまできてからで遅くないと思います。もちろん、最初から条件の上限が決まっている会社は厳しいかもしれませんが、企業はその人材がどうしてもほしいと思ったら、ある程度は条件交渉に応じる姿勢があるものです。もし、どうしても給与を上げたいと思うならば、まずはほしい人材と思われること。条件交渉を相手の企業がしたくなるくらいにまで、そう思われることです。企業にとっても、交渉に応じる意味づけが必要なのです。

北澤 孝太郎 著 『サラリーマン人生100本ノック』(日本経済新聞出版社、2020年)、「6 転職するときの決断」から
北澤 孝太郎(きたざわ・こうたろう)
東京工業大学大学院特任教授 レジェンダ・コーポレーション取締役1962年京都市生まれ。1985年、神戸大学経営学部卒業後、リクルートに入社。20年にわたり営業の最前線で活躍。2005年、日本テレコム(現ソフトバンク)に転身。執行役員法人営業本部長、音声事業本部長などを歴任。その後、モバイルコンビニ社長、丸善執行役員などを経て、現職。東京工業大学ではMBA科目の「営業戦略・組織」を担当。著書に『営業力100本ノック』『マンガ 営業力100本ノック』(いずれも日本経済新聞出版社)、『営業部はバカなのか』『「場当たり的」が会社を潰す』(いずれも新潮社)、『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)、『人材が育つ営業現場の共通点』(PHP研究所)、『まんがでわかる営業部はバカなのか』(ゴマブックス)がある。これまでの著作の内容に基づいた講演や、営業リーダーの研修なども行っている(ご興味のある方の問い合わせ先 http://kotaro-gosodan.com
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キーワード:経営・企画、人事・経理、営業、技術、製造、経営層、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修

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