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改めて注目される「EQ」 なぜビジネスを成功に導く能力なのか? EQ 取締役会長 高山 直

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人間と動物の感情表現を研究したダーウィン

 怒り、楽しみ、嫌悪、悲しみ、怖れ、愛おしさ、信頼、喜びと様々な感情を人類は持っています。この感情の起源を考察したのがチャールズ・ダーウィンです。

 ダーウィンは自然選択説による進化論で有名です。人類が神によってつくられたのではなく、猿から類人猿に、類人猿から人類へと進化して誕生したという進化論は『種の起源(On the Origin of Species)』(1859年刊)で発表され、西洋文化に衝撃を与えました。

 日本で進化論は科学的真理と信じられていますが、聖書の記述を信じるキリスト教の宗派は多く、アメリカでは進化論を信じないキリスト教信者はかなり多いのだそうです。

 ダーウィンは『人及び動物の表情について(The Expression of the Emotions in Man and Animals)』(1872年刊)で人間と動物の感情表現を分析し、ある種の感情が人間と動物で共通することを明らかにしました。わたしたちがイヌやネコ、その他のペットに感情を移入できるのはそのためです。

 またダーウィンは、文化の違いに関わりなく感情を示す表情が人種共通であることも指摘しています。その証明のためにダーウィンが用いたのは写真です。いろんな表情写真を世界各地に送って、表情が示す感情を質問したのです。その結果は人種、部族、地域、文化を問わず表情が人類共通であることがわかったのです。

失敗の原因は感情(怒り)にある

 「人間は感情の動物である」と言われます。昔から感情、特に怒りは失敗の原因になることが多く、多くの哲人が「感情に気を付ける」ことの重要性を語っています。古代ギリシアのストア学者であるパブリアス・サイラスは「汝が感情に支配されないように、汝が感情を支配せよ」と言っています。

 孔子は「君子は争うところなし」(きちんとした人間は滅多に喧嘩しない)、「怒りには難を思え」(怒ったあとの面倒を考えよ)と弟子に教え、仏陀も「怒りを捨てよ。慢心を除き去れ」と説いています。

 今日でも怒りを抑えて平静を保つ「アンガーコントロール(アンガーマネジメントとも言います)」はコミュニケーションスキルの基本です。具体的なテクニックとして怒りのピークである6秒間をやり過ごす「シックスセカンズ(Six Seconds)」などが上げられます。

 このように感情が人にとって重要であることは古くから理解されていました。心理学では、感情とは何かという定義に関する考察や実証分析など、様々な研究が行われてきました。しかし「感情そのものをうまく利用することは能力である」という視点からのアプローチはほとんど存在しておらず、かつ「EQは感情と思考(IQ)を統合する」働きがあるというサロベイ、メイヤー両博士のEQ理論はまったく新しい考え方として世界の心理学界に驚きを持って迎えられ、社会に浸透していきました。

EIからEQに変わった名称

 サロベイ、メイヤー両博士が最初に発表した論文のタイトルは「Emotional Intelligence」でした。またEQが一気に広まった契機は、1995年、当時ジャーナリストだったダニエル・ゴールマン氏が出版して世界的ベストラーになった『Emotional Intelligence』です。この段階までは「EI」であり、「EQ」ではありませんでした。

 「IQに対するEQ」というわかりやすい図式にしたのは、1995年10月9日号のTIME誌「WHAT ’S YOUR EQ?」という特集です。「人生で成功できるかどうかを決めるのはIQではなくEQの高さ」というセンセーショナルな特集はたいへんな話題を呼びました。

 TIMEだけでなくフォーチュンという有名なビジネス誌も「ビジネスの成功には、20%のIQと80%のEQが必要である」というサロベイ、メイヤー両博士の研究成果を大きく紹介しました。

 このようにしてEQという言葉がアメリカ社会で認知され、その翌年に日本やヨーロッパで翻訳出版されたゴールマン氏の著作によってEQが世界で認知されます。日本では邦訳タイトルは『EQ こころの知能指数』(1996年)であり、日本でもこれを機にEQブームが起きました。

EQブームと現在

 1990年代半ばからEQは大きなブームとなり、企業人事関係者、特に人材育成や研修部門担当者の間で認知され、今日では1500社を超える企業でEQが導入され、ビジネスパーソンに不可欠な能力として認知されて高い知名度を獲得しています。

 現在のEQは、人間の能力開発や組織風土改善のための手法として確立しています。人材育成のみならず、採用、選抜、配置、組織開発と様々な場面で一般的に活用される時代になりました。その後、EQは学校など教育関係機関にも広がりをみせています。また最近では医療分野でもEQが注目されており、糖尿病予防や生活改善にEQトレーニングの効果も証明されています。

 新しい動きとしては、EQ検査の結果データを活用して、様々な分野の個人データとEQデータを統合させて新しい知見を得るという応用も始まっています。その一つがAIとEQの融合です。AIは膨大なデータをディープラーニングという手法で学習しますが、EQデータと融合させることで、人材育成などの組織課題だけでなく、ドライブ・レコーダー情報による運転スキル、健康診断の代謝情報による健康管理、いじめや自殺防止などの社会課題に有効であることもわかってきています。

(つづく)

高山直 著 『EQトレーニング』(日本経済新聞出版社、2019年)、第2章 「EQの発展と今」から
高山 直(たかやま・なお)
(株)EQ 取締役会長。1957 年広島県生まれ。1997年、(株)イー・キュー・ジャパンを設立し、日本で初のEQ 事業をスタートさせる。2015 年より現職。主な著書に『EQ こころの鍛え方』『EQ 「感じる力」の磨き方』(以上、東洋経済新報社)などがある。
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キーワード:経営・企画、人事・経理、営業、技術、製造、経営層、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修

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