長島聡の「和ノベーションで行こう!」

100年後見据えた地球環境づくりを本気で考え、MaaSに取り組む 第33回 MIRAI-LABO 平塚利男・代表取締役に聞く

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長島 技術系のベンチャーの創業者が、そもそも音楽家になろうとしていたことは驚きですが、音楽家から通信技術のエンジニアに転身する人もあまりいないのではないでしょうか。とはいえ、22年間、その会社の仕事を続けられたあと、独立をされました。そのときには、どのような想いがあったのでしょうか?

平塚 結婚して子供が生まれたころ、地元の環境問題に関心を持ったことがきっかけです。弊社のある東京・八王子は、私が生まれ育ったところで、家の近くに川が流れており、私が子供のころはそこで自由に遊ぶことができました。しかし、私に子供が生まれたころになると、川岸にフェンスがつくられ、川に入るなという注意書きが貼られていたのです。河原に缶ごみなどがたくさん捨てられ、川の水質が悪化していたためでした。

 それをなんとかしようと、私は地元の幼なじみ数人とともに、ごみ拾いを始めました。回数を重ねると、近所の小学生も参加するようになり、子供会の行事として定期的にごみ拾いを行うようになりました。私が子供のころにはホタルが自生していたので、その当時の環境に戻したいと考えましたが、川を流れる水まではきれいになりません。

長島 それには水質を変えなければなりませんよね。

平塚 そこで会社勤めの傍ら、土日などの休日に、バイオテクノロジーをはじめとする環境技術について勉強しました。海外の水質浄化技術を中心に調べていたのですが、あるときホタルの自生環境の再生を研究する東京・板橋区のホタル飼育施設の館長さんに出会い、環境問題に本気で取り組もうという想いに至りました。当時、板橋区は行政としてその研究に取り組んでいたのですが、事業として全国へ展開したいと考えるようになりました。

 それから微生物で水質を改善する土を活用する技術などについて約3年間勉強して、勤めていた会社の中で事業化を提案しましたが、なかなか形になりません。当時は、ほとんどの会社が環境問題に対しあまり積極的ではない時代でした。ならば、「自分がやろう」ということで独立を決心しました。

 会社は3人で始めました。ホタルの自生環境の再生事業は、多数の行政機関や企業が興味を持ってくれましたが、実際に予算を取ってもらうようになるには時間と手間がかかりました。最初の2~3案件ぐらいまではうまくいったのですが、そこから先が長かった。それでも振り返ってみると全国で100を超える展開を実現できました。それらは環境主義を理念とした弊社の礎となり、今後さらなる挑戦をする上で大きな財産になると考えています。

長島 すごいですね。ホタルの自生環境再生に対する強い想いがあったからこそ独立されたのでしょうが、大変だったと思います。

平塚 私以上に妻が大変だったと思います。22年間続けたサラリーマン生活を投げうつようなことをしました。また、会社を辞めるとき、10年間は競合する通信事業に参入しないという誓いも立てました。振り返ってみるとそうした制約を前提に事業を展開した10年間があったからこそ今の弊社の姿があると考えています。

長島 ホタルの自生環境の再生事業には社会的な意義があります。日本全体として大切なことだと思いますが、それを3人で事業にしようとは普通考えません。何がそこまで背中を押したのでしょうか。

「次は空気が売られるようになる」と本気で思った

平塚 若いころ、ショックを受けるような出来事がいくつかありました。まず、高校を卒業するころ、コンビニエンスストアで、普通の「水」がペットボトルで売られるようになったのを見て衝撃を受けました。また、そのとき「次は空気が売られるようになる」とも本気で思いました。そのときの想いを詩に書いたものが、弊社のホームページに記載されている社長の想いです。

 年月がたち、結婚して子供が生まれたとき、それが現実になりました。自宅に空気清浄機を売りに来たんですよ。おおげさに聞こえるかもしれませんが、「ああ、本当に思っていた通りになった。このままでは地球環境は維持できなくなる」と感じました。

 もちろん、地球環境の悪化は1人の力で止めることはできないでしょう。しかし、せめて悪化を遅らせるぐらいのことを自分がしないと、自分の子供の次の次、ひ孫の世代である100年後に人類は存在できないだろうというぐらいのことを、本気で考えました。

 そうした考えを、会社でいろいろな人に話しましたが、当時は「そんなことはあり得ない」という反応が普通でした。であれば、自分がC02削減を掲げ環境技術をコンセプトとした事業を始めることで、それが時代の変化の起爆剤になる、少なくとも時代の変化を促す啓蒙ができればよいというのが起業の動機です。

長島 起業には、先ほど話された板橋区のホタル飼育施設の館長さんとの出会いも後押しになっていると思います。そういう新事業の後押しをするような強い想いを持っている人との出会いは、それほど多くあるわけではありません。

平塚 おっしゃるように少ないですね。強い想いを持っている人と「すれ違う」ぐらいのことはたびたびありますが、「この人だ」と思って声をかけた瞬間に、相手からも賛同いただけるような出会いはかなり貴重で、すれ違いの何万分の1もありません。

長島 声をかけた人に支えられつつ、自らも声をかけて人を支えることで、互いに支え合うネットワークができるのですよね。

平塚 私の人生はそうした出会いの積み重ねでしかありません。これは本当で、地球環境に良い事業しかやらないという弊社が14期続いているのも、私が本気でお話ししたことを本気で聞いていただき、本気で意見をもらったり、本気で心配していただいたりした結果です。長島社長との出会いもその一つだと感じています。

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