楽しい職場学

お手本はよしもと新喜劇 笑いの共創が生む組織活性化 西武文理大学サービス経営学部専任講師 瀬沼文彰

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笑うことも芸人の仕事

 では、笑いのプロである芸人はこれらの点についてどのように考えているのだろうか。元芸人の立場から結論を先に述べてしまえば、芸人たちは、笑わせることに対する研究はもちろん、面白さを探すこと、気づくこと、覚えておくことなどに対していつでもアンテナを張っている。舞台上に複数の芸人が立ち、誰かが笑いを含まないまじめな発言をしたとしても、他の芸人がその発言のどこかに面白さを見いだしてツッコミを入れて笑いを作る。あるいは、営業先の舞台であれば、舞台から目に入る世界のどこかに面白いものを探し出し笑いを作る。他の芸人のエピソードもよく覚えておき、同じ舞台に上がったらそれを語って客席の笑いを誘う。さらに、笑うところに気づいたら積極的に笑い自ら楽しむ。

 バナナマンの日村勇紀は、AmazonPrimeにて配信された『ドキュメンタル2』のなかで「笑うこともお笑いでは大切」だと主張した。バラエティー番組にて、第一線で活躍する芸人であっても、笑わせることだけが仕事ではなく、笑うことも重要だと考えていることは興味深い。日村の意見を掘り下げるのなら、笑うこと、つまり、他の芸人の面白さに気づいていくこと、面白さを発見することも芸人の仕事だということになりそうだ。笑わせる/笑う関係から見えてくるのはチームプレイである。

よしもと新喜劇、「協力した笑い」重視

 日本最古で最大規模の芸能プロダクションである吉本興業は、1959年、よしもと新喜劇の前身にあたる『吉本ヴァラエティ』(NBS)の放送開始以来、面白さを最優先するために、誰かが1つギャグを言うと、それに応じて全員がひっくり返るというような「協力した笑い作り」を心がけることを重視した。この考えの系譜は、現在のバラエティー番組にも引き継がれている。例えば、『アメトーーク』や『ロンドンハーツ』を手掛けるテレビプロデューサーの加地倫三は、担当する番組で「スベった笑いもイジってあげるので、現場は『スべってもかまわない』という空気になる」ことを取り上げ、番組の司会者のフォローの技術を高く評価している。だからなのだろうか、私が芸人をしているときも、舞台で複数の芸人が登場したら、皆で協力して笑いを作っていくことは、言わずと知れていることで、誰もが心がけていることであった。

「俺もそれ、わかった!」今田耕司の司会術

 司会に定評のある今田耕司は、雑誌『DIME2013年6月号』のなかで、フォローについて以下のように述べた。

 「100人おったら、100通りおもしろいツボがありますから。それを共感できたほうがうれしい、楽しいじゃないですか。『それおもしろくない』って言ってしまったらおしまいだけど、僕は『俺もそれ、わかった!』って感じたいですからね。その方が自分の幅も広がるような気がしますしね」

 今田に限らず、多くの芸人は、面白さの共感を重視していると思う。コミュニケーションが重視される社会のなかで、お笑い芸人たちは、リスペクトされる存在となった。視聴者が、すごいと思うのは、いつでも、芸人たちのネタやトーク技術だ。しかし、これまで論じてきたように、何を笑うのか、どのように笑うポイントを見つけているのか、どんな話を覚えているのかなどの点に注目してバラエティー番組を見てみると、これまでとは異なったコミュニケーションの教育番組としてバラエティー番組を視聴することができ、組織に生かすことができるコミュニケーションや笑いの技術を学ぶことができるのではないだろうか。

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