郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

かんぽ生命問題、信頼回復へ日本郵政が本当に目を向けるべきもの 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 報告書では、「保険募集人の中には、営業手当欲しさや選奨等の個人的利得等のために、顧客の利益を損なってでも、不適正な募集を行う者が一部に存在した」「各地の郵便局における管理者等の一部には、自局内の一部の保険募集人、特に高実績者によって不適正な募集が行われている可能性を認識しながらも、自局の営業目標を達成することを優先して、当該保険募集人に対して募集品質に関する実効的な指導を行わず、むしろそのような高実績者を厚遇したり、重用する傾向が見られた」(102~103頁)としている。

 このような、顧客の利益を損なってでも営業実績を上げようとする者にとって、日本郵政の「募集品質の向上に向けての総合対策」に対しては、顧客側からの苦情があっても法令違反等を自認しないことで、「不適正募集」による処分を免れつつ、高い実績を上げ続けることが可能だった。それが、全募集人の中の1割未満に過ぎない販売実績「優秀」者が、「違反疑い事案」の4分の1以上に関与している(報告書84頁)という、「優績者」中心の「不適正募集」が行われることにつながっていた。従来どおりの評価基準の前提にした「募集品質の向上」では、顧客の利益に反する保険募集が行われていることに対して、何の歯止めにもならなかった。

 日本郵政のこれまでの対応は、「法令遵守」と「(表面的には)顧客の意向に反していないこと」が言い訳として使われてきた。「顧客の利益に反する保険募集が行われている」との指摘に正面から向き合うのであれば、すべての契約の実態を把握することが不可欠であるのに、「法令遵守」への対応を強調することで、その抜本的な解決をなおざりにしてきたのである。

問題表面化後の対応も「法令遵守」に偏ったものだった

 報告書も指摘するように、「高金利環境にあっては、簡易生命保険やかんぽ生命保険における主力商品であるいわゆる貯蓄型保険は、支払保険料を上回る満期返戻金が得られるなどの事情から、問題が顕在化することがさほど多くはなかった。しかし、近年の低金利環境にあっては、保険料に比し満期返戻金は少なく、その点での顧客からの期待に応えることは困難」だった(報告書64頁)。高金利環境の下で契約に加入すること自体にはさほど不利益やリスクが考えられなかった時代に作られた「保険募集のルール」に違反していなくても保障性商品という、保険加入自体が大きな財産上のリスクを生じさせる保険中心の営業において、顧客の利益に反する営業が行われることを防止することはできない。保険事業をめぐる環境変化に伴いルールも変更されていったが、それは、顧客の利益に反する募集の防止のために十分なものではなかった。

 ところが、乗換契約等の問題で厳しい批判を受けた後も、実際に日本郵政が行っているのは、(1)顧客に不利益を与えていることが問題化した「乗換契約」に関連する事案を対象とする「特定事案調査」と、(2)過去5年間分の消滅契約を含む、全てのかんぽ生命保険商品の契約者に葉書を送付して、「顧客の意向に沿わず不利益を生じさせたものがないか」を質問する「全契約調査」だけである。

 (1)は、過去の契約データから、乗換後の契約状況が特定事案に合致する2019年3月以前の過去5年分で、約18.3万件の保険契約を対象に、「乗換契約の際の保険募集に係る法令違反等の疑いがある事象を発見するための調査」を行ったものであり、従来のような募集人が「法令違反」「社内規則違反」を自認することを要件に「不適正募集」を判定するという「法令遵守」的な手法による調査である。また、(2)は、顧客側に「意向に沿わず不利益を生じさせたもの」を漠然と質問しているだけで、それでは、顧客側は、何が問題なのかすら理解できないまま回答しているに過ぎない。そこから、顧客の利益に反する事例を抽出することができるとは思えない。

 旧来のルールやチェック体制のまま保険募集が行われてきた日本郵政の「『法令遵守』を言い訳にしたコンプライアンス」に根本的な問題があるのであり、今回の問題への対応も、従来のような「法令遵守」にこだわった「不適正募集」の判定基準で対応している限り、顧客の利益に反する契約の是正を十分に行うことはできないし、今後の日本郵政における保険事業が、本当の意味で顧客の利益に沿うものになっていくことも期待できない。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。