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かんぽ生命問題、信頼回復へ日本郵政が本当に目を向けるべきもの 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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 かんぽ生命の不適切な保険の販売問題に関して、日本郵政が設置した特別調査委員会の報告書(以下、「報告書」)が昨年(2019年)12月18日に公表され、その後、同月27日、日本郵政の長門正貢社長、日本郵便の横山邦男社長、かんぽ生命の植平光彦社長のグループ3社のトップが記者会見し、引責辞任を表明した。日本郵政の後任の社長には、元総務大臣の増田寛也氏が就任し、日本郵便とかんぽ生命の後任の社長にも、いずれも旧郵政省出身者が、内部昇格で就任することになった。

 今後、日本郵政は、問題を解決し、組織の信頼を回復できるのだろうか。その点に関して、特別調査委員会は、第三者委員会として、今後の日本郵政の行うべきこと、進むべき方向性を示したものと言えるのだろうか。これらの点について、組織のコンプライアンスの視点から考えてみたい。

日本郵政は「法令遵守」にこだわり、「顧客の不利益」の実態に目を向けて来なかった

 今回の問題は、かんぽ生命の保険商品の約9割を販売する日本郵便の保険販売に関して、同種類の保険を一度解約して再契約する「乗換契約」において保険料の二重払いなど顧客にとって不利益となる事案が多数発見され、郵便局員が満額のインセンティブを得るために旧保険の解約時期を意図的に遅らせるなど不適切な行為が広く行われていたと指摘されたことに端を発する。顧客の利益に反する契約は、「乗換契約」に限らず、経済合理性の乏しい多数の保険契約を締結させる「多数契約募集」など様々な態様のものが指摘されている。

 本来、顧客の利益に反する保険契約が問題になっているのであるから、端的な対応は、個々の顧客について、顧客の利益に反する契約となっていないかどうかを顧客の立場に立って確認することだ。しかし、日本郵政のこれまでの対応は、そうではなかった。

 報告書でその詳細が明らかにされているが、従来、日本郵政は、「法令違反と認められた事案」を「不祥事件」と呼び、顧客からの苦情があった事案のうち「社内規則違反と認められた事案」は「不祥事故」として取り扱い、これらの「不適正募集」については募集人の処分の対象とするが、それ以外については、案件の内容・募集態様に照らし、契約内容の錯誤等を原因に「無効」にしたり、保険契約者との和解により保険契約を消滅させる「合意解除」を行って解決を図ったりするというものだった。

 そして、「不祥事件」「不祥事故」と認められるのは、募集人が、法令違反や社内規則違反を自認した場合であり、それ以外であれば、「不適正募集」の数として算定せず、顧客からの苦情の内容に応じて、「無効」「合意解約」で対応して解決してきたというのが、日本郵政の基本的対応であった。

 しかし、それでは、高齢者等の顧客が、利益に反する保険に加入させられていても、そのことに気付かなければ問題とならないし、顧客側からの苦情で調査が行われ、法令違反・社内規則違反が認められた場合にも、募集人が、違反を自認しなければ「不適正募集」にはならない。2017年12月から、かんぽ生命と日本郵便がとった「募集品質向上に向けた総合対策」においても、「点検・調査対象の拡大」「高齢者に対する意向確認の強化」などの対策はとられたが、「募集品質」についての基本的考え方は変わらず、2018年4月の「NHK クローズアップ現代+」で、高齢者を食い物にする不適正募集が問題にされた後も、同様だった。

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