経営層のためのグローバル・マーケティング

資生堂をV字回復させたアッパー・マーケティング 明治大学経営学部教授 大石芳裕

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 マーケティングはアッパー・マーケティングとロウワー・マーケティングに分けられる。アッパー・マーケティングとは高職位(トップマネジメント)の経営層が担うべきマーケティングであり、ロウワー・マーケティングは低職位(現場・実務部門)が担うべきマーケティングである。この2つを便宜上、内部での活動と外部での活動に分けている。内部活動とは組織内部でほぼ決定・実施できるものであり、外部活動とは基本的に外部に向けての活動であったり外部との関わりの中で行ったりする活動である。内部・外部は、あくまで便宜上区分けしたもので、厳密なものではない。

 マーケティングの典型とされる4P(マーケティング・ミックス)はロウワー・マーケティングの内部活動である。もちろん、マーケティングは他の経営機能と比較してより外部(市場)に向けられた機能ではあるが、4Pは基本的に組織内部の意思決定として実践される。これに対して、右側に位置する市場調査や環境分析、生活者インサイトの探索、Web&SNS等の双方向コミュニケーションはそもそも外部を対象とした活動である。実は、これらの内部・外部のロウワー・マーケティングを「マーケティング」と認識してきたために「マーケティングの矮小化」が生じたと考えられる。

経営層は組織構築やブランド管理を

 これに対して、経営層のマーケティングであるアッパー・マーケティングは、内部的には資源配分や組織構築、さまざまな拠点の配置と調整、人材育成などの諸機能を含む。これらは一般に経営の他機能と考えられているが、ここではマーケティングに関わる資源配分や組織構築を念頭においている。外部的には対象市場設定や複合化(世界標準化と現地適合化のいいとこ取り)決定、ブランド管理、M&Aなどが含まれる。これらはあくまで例示であるが、内部・外部のアッパー・マーケティングが弱いところが日本企業の課題である。もし経営層がマーケティングをロウワー・マーケティングとして、あるいは低職位の業務と認識しているならば早急に改めていただきたい。マーケティングは経営層のマーケティングでなければ本来の力を発揮しないのである。

 「経営イコールマーケティング」と力説する魚谷雅彦氏が資生堂の社長に就任したのは2014年4月1日である。それまで、資生堂は長らく売上高7000億円の壁を超えられず、営業利益も400~500億円で低迷していた。2013年度(4-3月決算)は営業利益が260億円で純利益・損失は146億円の赤字になってしまった。それが2014-15年度を助走期にして、2016年度(1-12月決算)から業績が急回復している。魚谷氏は2014-17年度を再構築期に設定していたのだが、想定より早く回復した。

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