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福知山線・笹子トンネル…ヒヤリハット軽視で大事故に 失敗学に学ぶ「失敗しないビジネス」(4)

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「ハインリッヒの法則」応用には広いアンテナを

 企業の保守・安全担当者ならば誰でも知っている基本に「ハインリッヒの法則」がある。1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというものだ。「ハインリッヒの法則を応用するには、どんな異常があるのか、自社をチェックするだけなく広くアンテナを張っておきたい」と飯野氏。それを見逃したことが、12年の笹子トンネル天井板の崩落事故につながったという。

 笹子トンネル事故 12年に山梨県大月市の中央自動車道上り線「笹子トンネル」で、天井板のコンクリート板が約130メートルの区間で落下し、走行中の車複数台が巻き込まれて9人が死亡した事故。重いコンクリート板が約270枚、V字型に折り重なるように崩れ落ちた。トンネル内で火災が発生し内部に高温の煙が充満した。翌年に国土交通省がまとめた報告書では、施工時からアンカーボルトの強度が不足していたことや、ボルトを固定していた接着剤が劣化したことなど、複合的な要因が事故につながったとしている。

 飯野氏は06年に米国で起きた「ボストン・トンネル天井板落下事故」との類似性を指摘している。ボストン市の都心部を走り、レーガン国際空港方面入り口付近に位置する高速道路のトンネルの手前で、高さ約12メートルの天井のコンクリートパネルを支える鋼プレートが折れてコンクリートパネルが崩落、走行中の車1台が押しつぶされ1人が死亡した事故だ。

 笹子トンネルと同じように、ボルト穴にネジを上向きに差し込んだ上にエポキシ樹脂接着剤で固定して、コンクリートパネルをつり下げる構造だった。アンカーボルトが20本抜け落ち、つられていた鋼プレートと1枚2トンを超えるコンクリートパネルが落下した。米国の運輸安全委員会は翌年の事故報告書で、アンカーボルトが天井板の重みに耐えられず次第に抜けたことが原因であるとして、施工不良や点検不備を指摘した。

 飯野氏は「誰でも笹子トンネルと似ていると感じるだろう」と話す。しかし笹子トンネルでは長期にわたって何もなかったので目視だけというおざなりな検査が常態化していたという。

 他所で起きた失敗を探求すれば貴重な教訓を得ることができる。しかし数ある失敗事例に関する細かい情報を頭の中に入れることは不可能だ。飯野氏は「どんなとき、どんな条件で失敗するかエッセンスを抽出することが重要だ」と説く、失敗の知識を抽象化することでさらに違ったケースとの共通性が見いだせるとしている。

 特に気をつけるべきなのは「見えない劣化」だ。機械部品も電子部品も、いつまでも機能を100%の状態で保ち続けることはできない。ヒトも同じ。操縦員の適切な判断や作業に頼ったシステムは、担当者が大きなストレスに見舞われた場合に安全性が脅かされる。飯野氏は「ヒトは間違える、部品は壊れるという前提を意識したシステム作りが求められる」と説いている。

(松本治人)

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