■「正しいマニュアルはいつまでも優秀なマニュアルでは無い」
11年の東京ドームシティにおけるジェットコースター事故も、勝手な「カイゼン」が事故を引き起こしたケースだ。
遊園地の教育訓練では、手で押して安全バーのロックを確認するように指導されていたという。しかし現場では、いつの間にか目視でよいことに変わっていた。飯野氏は「手で安全バーを押す際に前列の乗客の身体に触れることへのクレームがあったようだ」と説明する。クレームを避けるための目視容認が、人身事故につながった。しかも運営会社は、センサーを使った安全ロックの確認など、根本的な解決策にも気付いていた。「経営幹部がマニュアルの手順と理由を理解していても、現場にきちんと伝わらなければ目先の手順にとらわれて重要な情報が忘れられてしまう」と飯野氏。
最初は愚直にマニュアル通りにこなすうちに、「マニュアルの手順ではなく、その一段上に立った上位概念から仕事の目的と期待される成果が分かるようになる」と飯野氏。そのケースが、18年の草津白根山の噴火における避難活動だと指摘する。
飯野氏は「想定外の場所からの噴火だったにもかかわらず、草津町が1980年代から火山防災の対策を積み重ねていて、うまく機能した」と語る。その一方で、スピードの激しい技術革新にも適応していくことが重要だと強調する。「正しいマニュアルがいつまでも優秀なマニュアルではない。固定するのではなく、常に柔軟に変更していかなければならない」(飯野氏)と説いている。
(松本治人)