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日本郵政 現場知らずの経営が招く「不正」 失敗学に学ぶ「失敗しないビジネス」(1)

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耐震強度偽装を招いた算出方法の難解さ

 現場無視の検査基準に私利私欲の悪意が絡んだケースが05年の耐震強度偽装事件だと飯野氏は話す。

 耐震強度偽装事件 一級建築士が国交相認定の構造計算ソフトウエアの結果を改ざんした偽装を指定確認検査機関が見抜けず承認した事件。国交省がマンション20棟、ホテル1棟の耐震構造計算書に偽装があったと発表した後も次々にこれら耐震偽装に関する事実が露呈され、関係者の国会喚問にまで発展した。

 建築設計の形骸化が露呈したこの事件で、一級建築士の資格を取り消された設計事務所は、発覚前は仕事が速く、 設計と施工のコストが低いと評判だったという。飯野氏は「構造計算に使用するツールのブラックボックス化が背景にある」と分析する。さらに難解な算出方法であるため、専門家でも簡単に判断できるものでは無かった。

 コンピュータプログラムは、年々複雑さを増していく。「建築設計図の複雑な形状をモデルにし、 想定入力に対する各部材での発生応力を計算によって予想するのは、高度な有限要素法などを使わなければならない」と飯野氏。合否の判定は、解析の入力条件を検証し、 あとは結果の数字をチェックしていただけだったようだ。

 現場を知るほかの設計事務所の人間や、施工業者は鉄筋の少なさに気付いていたという。飯野氏は「審査側がソフト計算の結果をみたときに、 施工のイメージを考えていたら、設計のやり直しをさせることができたかもしれない。しかし根本原因は審査基準の方法が難しすぎたことにある」と結論する。

 難解なブラックボックスの使用が避けられなくとも、不正が入り込めない仕組みを作ることは可能だと飯野氏は指摘する。検査機関が設計者と同じツールを持ち、設計者に入力条件を提出させて、結果は自分たちのツールがはじき出すものと検証する方法だ。入力条件のチェックは必要だが、偽装が入り込む余地はない。

 「失敗は成功の母」という。失敗から何を学んで社内教育や管理体制に生かしていくべきだろうか。しかし飯野氏は「失敗学は周知徹底・教育訓練・管理強化を3大無策としている」と厳しく否定する。目指しているのが精神論的解決策で根本的な解決にはならないからだという。周知徹底は、その時は効果があっても、慣れとともにいつの間にか大切な知識が抜け落ちてしまう人間の特性には何の対策もできていないという。教育訓練も、いざ現場に出て、ベテランに個々では違うよと聞かされたら、現場の慣習に従うのが人間だ。

 飯野氏は「管理強化は最悪の選択になる。管理の手順に従うことに気を取られ、作業が形骸化して職場が壊される」と言いきる。皆が好む「成功談」から学べるのは基本的な考え方やその時の信念だけ。今後に役立つ教訓はそれほど多くないという。一方、失敗からネガティブな概念をひっくり返して原因を探し求め、具体的・創造的な防止策に活用するのが失敗学だ。「日本の企業は過去20年のトラブルと他社の同じ過ちを繰り返しているケースが多い。冷静に研究すれば未然に防ぐことができる」と飯野氏は説く。

(松本治人)

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