泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

ヤフーとLINEの経営統合、成功のカギ握るフィンテック事業 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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 インターネット広告収入については経営統合によって、シェアの向上が期待される。2018年の国内インターネット広告市場では、ヤフーが22%、LINEが8%。経営統合後は1社で3割を占め、広告主に対してはより大きな交渉力を持つはずだ。

 eコマースについて、ZHDはこれまで「Yahoo!ショッピング」や「ヤフオク!」に力を入れてきたが、ZOZOの株式を50.1%保有し子会社化する(2019年11月に買収完了)とともに、Yahoo!ショッピングの上位版ともいえる「PayPayモール」を2019年10月に開設するなど、積極展開している。ZHDが提供するそうしたeコマース事業へ、LINEの月間利用者8200万人から送客ができれば成長率の増大が期待できるのは確かだろう。

 統合シナジーには「(4)新規事業/システム開発のおけるシナジー」もあげられている。これについては、ZHD、LINEそれぞれの人材やシステム基盤を有効活用することで、統合効果を出すことができるだろう。

フィンテック事業のシナジーとして何を見込んでいるのか

 そうなると、今回の経営統合における最大の焦点は、成長率は大きいものの、収益化に時間がかかりそうな「(3) フィンテック事業におけるシナジー」をどう生み出すかにかかってくる。

 ZHDのPayPayをはじめとしたフィンテック事業は引き続き投資フェーズにある。前述したZHDの四半期報告書には「「PayPay」への積極的な投資の結果103億円の持分法投資損失を計上したこと」が記載されている。またLINEにおいても「LINE Pay」などのフィンテックを含む戦略事業で前述した損失を抱えている。これら損失が継続的に発生すれば、(1)(2)(4)のシナジーは、「焼け石に水」ということになりかねない。

 そうした視点で、スマホ決済事業の現状をみると、将来、この2社のどちらが、国内のスマホ決済市場における覇権を握るかといった派手な争いを終わらせることが、「フィンテック事業におけるシナジー」の一つであるとも考えたくなるが、どうだろうか。

 そこで次は、経営統合を発表した際の「セルサイドアナリストおよび機関投資家向け説明会資料」と、「記者会見プレゼンテーション資料」を総合的にみていきたい。それぞれにおいて、フィンテックと金融についての説明は多少トーンが異なるものの、予想以上に広い金融事業を展開しようとしていることがわかる。

 まず、セルサイドアナリストおよび機関投資家向け説明会資料を見ていこう。この資料の中では、フィンテック事業を大きく、銀行、証券/FX、保険、クレジットカードに分類している。その基盤としては、PayPayの累計登録者数2000万人(2019年11月17日時点)とLINE Payの累計登録者数3690万人(2019年9月末時点)を挙げた。

 この図は、スマホ決済事業の利用者をベースに、金融事業を区分したものだが、どのような金融市場を狙っているかを示す図としても読むことができる。

 たとえば、証券口座は、国内最大手の野村證券が2019年9月時点で532.6万口座、SBI証券が495.2万口座である[4]。それに対してPayPayやLINE Payの利用者数は合計で5690万人に及ぶ。つまりZHDとLINE統合後のフィンテック事業は、取り組み次第であっと言う間にライバル大手を抜き去る可能性がある。スマホ決済サービスの利用者が、証券口座を円滑に開設できるようにして、株式の取引をスマホで簡単にできるようにすることが第一歩となろう。

 生命保険も同様である。国内最大手である日本生命の顧客は1188万人(2019年3月末)[5]。野村証券の口座数よりも倍以上多いが、この日本生命の顧客数ですら、PayPayやLINE Payといったスマホ決済サービスの利用者数が軽く上回る。

 銀行については国内最大手である三菱UFJ銀行の口座数が約4000万口座といわれる[6]。これはLINE Pay単体では追い付いていないが、PayPayの利用者と合わせれば、よい勝負ができるといえる。

 もちろん、LINEは既に、「LINE証券」や「LINEほけん」を展開しており、LINE Bank設立準備株式会社の発表も行ってきた。ここまで見てきたように、戦略的な投資が先行している状況であるが、苦戦も伝えられる[7]。斬新な金融商品と「オンライン(ネット)」の組み合わせだけでは、本格的に市場を開拓するためには「何か」が足りないのである。

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