泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

ヤフーとLINEの経営統合、成功のカギ握るフィンテック事業 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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ヤフーやLINEがフィンテック事業をシナジーを生むために乗り越えるべきハードルとは

 ここで重要となるのが、「コンテンツ」と「オフライン」というキーワードだ。ここからは記者会見プレゼンテーション資料を見ていこう。

 記者会見プレゼンテーション資料の「シナジー:サービス」についてのスライドでは、サービスカテゴリが以下のように五つに分類されている[8]。

* メディア・広告

* コンテンツ

* コマース・O2O

* Fintech・金融

* AI

 セルサイドアナリストおよび機関投資家向け説明会資料に比べ、記者会見プレゼンテーション資料は数値の開示が少ないものの、「コンテンツ」と、O2Oにおける「オフライン」が切り出されている点に改めて注目することができる。

 前述したような幅広いフィンテック事業を狙う際、「スマホ決済サービスのアカウントで金融商品が買える」ようにするだけで、金融商品を買う人は少ないだろう。金融商品の多くは目に見えないうえに、生活に影響があるぐらいの金額を支払う必要がある。法律などの規制があるため、詳細な商品説明が不可欠な場合も多い。

 そのハードルを乗り越えるには、どのような金融商品が自分の資産運用や資産形成に向いているのかを説明する、さらには自分の毎月の資金繰り(キャッシュフロー)や現時点でのポートフォリオ(ストック)を踏まえて最適な金融商品を提案するといった「コンテンツ」が必要である。その「コンテンツ」があってこそ、利用者は金融商品に興味を示し、購入に至る。

 一例を挙げると、個人型確定拠出年金であるiDeCo(イデコ)が最近、注目されているが、これは年金制度の一部にあるにもかかわらず、個人が勤務先企業の年金制度にも影響されるなど、その複雑さなどから大きく普及するに至っていない。2019年10月時点で約140万人程度の利用にとどまっている。

 ならば、たとえば、iDeCoそのものの解説とともに、自分が勤務する会社の年金制度なども反映した「コンテンツ」とともに、iDeCoがこれまで以上にスムーズに利用できる金融サービスを提供すれば、利用者に、より意欲的に検討してもらうといったことが可能になるだろう。

 保険においては「オフライン」というキーワードが重要である。生命保険文化センターの「平成30年度 生命保険に関する実態調査」をみると、平成18年調査と平成30年調査を比べた際、直近加入契約(民保)の加入チャネルのうち、最も伸びているのは「保険代理店の窓口や営業職員」だった[9]。平成18年に7.0%であったのが、平成30年では17.8%となっている。一方、「通信販売」のうち、「インターネットを通じて」というチャネルは、1.8%から3.3%の増加だった。つまり、最も伸びたのは店舗におけるリアル販売のチャネル(オフライン)だ。

 生命保険は、投資信託や株式のように投資資金が手元にあればすぐ購入できる金融商品ではない。「告知」というプロセスがあり、過去の病歴などが保険加入の際に審査の基準となり、保険の保障内容も個人の収入などによって大きく違う。したがって、保険募集人と相談をしながら商品を検討することが重要で、オンラインのプレーヤーであったZHDやLINEはフィンテック事業の展開に当たり「オフライン」の価値を改めて見直したのではないか。

 記者会見プレゼンテーション資料には、そこまで詳しくは書かれていないが、フィンテック事業のシナジーを出すためには当然、検討されているはずである。

 「オフライン」というキーワードは、前述のように「経営統合に関する基本合意書の締結について」においても、「O2O」と「OMO」といった形で言及されている[1]。

 O2Oは「オンライン・ツゥ・オフライン」、OMOは「オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン」の略である。O2Oのオンラインからオフラインへの送客という一方向の概念から、OMOはデジタル空間とリアル空間から得られる情報をもとに分析し、さらにデジタル空間からリアルへその分析結果をフィードバックする動的な流れを言う。

 このようにオンラインとオフラインを区別するのではなく、それぞれが利用者のタッチポイントとなることでさらに顧客体験を向上させていくという発想が生まれるのもオフラインの価値を認めるが故である。

 こうしてみると、今回の経営統合が当局から認められ、新たなストラクチャーで事業が運営されたとき、何をもってその成功になるかを考えたとき、「(3) フィンテック事業におけるシナジー」には長期的に最も大きな期待があるといえる。

 短期的には、LINE事業がZHDの傘下に入ることで、広義のソフトバンクグループにおけるPayPayを中心とするスマホ決済事業は、ライバルLINE Payとの苛烈なシェア競争をある程度、緩和させることができるだろう。ZHDには新たに株式発行をしてLINE事業を抱えるという負担はあるが、施策次第ではこれまでよりはスマホ決済事業に関する資本流出を抑えることができるはずだ。

 長期的には、6000万人近い利用者をベースにしたフィンテック事業の拡大が期待できる。スマホ決済サービスを国内で圧倒的なポジションにまで持っていき、銀行、証券/FX、保険といった幅広い金融市場の首位企業のポジションをおびやかす可能性がある。

 ここまで見てきたようにオフラインが実はオンラインを強化する重要なポイントであるとすれば、オンラインプレーヤーであるヤフーやLINEが各金融業界におけるオフライン店舗の強化にどの程度注力できるかが、今回の経営統合が本当に成功するかどうかのカギを握るといえるのではないだろうか。

参考情報)

[1]『経営統合に関する基本合意書の締結について』(Zホールディングス、LINE)

[2] 『経営統合に関する最終合意の締結について』(Zホールディングス、LINE)

[3]『2019年12月期 第3四半期決算短信[IFRS](連結)』(LINE)

[4]『2020年3月期 第2四半期 SBIホールディングス株式会社 決算説明会』p.91(SBIホールディングス)リンク先はPDF

[5]『日本生命の現状 2019 本編[統合報告書]』p.27(日本生命)リンク先はPDF

[6] 拙著『銀行はこれからどうなるのか』p.145

[7]『「LINEほけん」苦戦でデジタル戦略がさまよう生保・損保のじり貧』(ダイヤモンドオンライン)

[8]『LINE(株)との経営統合に関して』(Zホールディングス)

[9]『平成30年度 生命保険に関する全国実態調査』p.92(生命保険文化センター)リンク先はPDF

※このほか『LINE(株)との経営統合に関して』で「記者会見プレゼンテーション資料PDF(6 MB) 」「セルサイドアナリストおよび機関投資家向け説明会」が提供されています。

泉田良輔 (いずみだ りょうすけ)
 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表。個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)編集長、および株1(カブワン)LIMO(リーモ)の監修も務める。それ以前はフィデリティ投信・調査部にて日本のテクノロジーセクターの証券アナリスト、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネジャーとして従事。慶応義塾大学大学院卒。著書に『銀行はこれからどうなるのか』『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』。東京工業大学大学院非常勤講師。産業技術大学院大学講師。
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キーワード:経営、企画、技術、製造、経営層、営業、管理職、プレーヤー、経営、イノベーション、国際情勢

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