泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

ヤフーとLINEの経営統合、成功のカギ握るフィンテック事業 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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 一見すると複雑だが、ソフトバンクとネイバーが、非上場化したLINEを通じて「対等経営統合」を安定的に実現することをアピールするストラクチャーといえる。統合を発表した11月18日の時点でソフトバンクは、ZHDにおける、持ち株比率44.6%の筆頭株主だが、その状態を活用して移行できる。

 なお、ヤフーは2019年10月1日付でZHDによる持ち株会社体制へ移行している。このとき、旧ヤフーは社名を「Zホールディングス」に変更し、その傘下に、ヤフー事業を継承する「ヤフー株式会社」を100%子会社として設立した。今回の統合では、そのZHDの傘下に新たにLINE承継会社を抱えることで、なおさら「対等さ」を醸し出している。

 もっとも、今回の経営統合は、上記にようにプロセスが複雑で、公正取引委員会による独占禁止法上の審査もある。2020年10月を目標とする経営統合の実現までに、不確実な要素があるのは確かだ。

 また、LINEは2019年10月30日発表の第3四半期(Q3)の累計決算で275億円の営業損失があることを明らかにした。ヤフーを傘下に持つZHDと、LINEが計画通り新たなストラクチャーへ移行しても、短期的には収益上のプラス要因になるとは言えない。

統合でうたう四つのシナジー効果、その中で何が大事なのか

 それでは長期的にどのような成果が期待されるだろう。両社は経営統合によるシナジーとして以下の四つをあげている[2]。

(1) マーケティング事業におけるシナジー

(2) 集客におけるシナジー

(3) フィンテック事業におけるシナジー

(4) 新規事業/システム開発におけるシナジー

 「(1)マーケティング事業におけるシナジー」は、ヤフーとLINEが持つビッグデータを統合的に活用し、顧客のマーケティング活動を支援することだ。ZHDでは「メディア事業」における広告関連サービス、LINEについては「コア事業」における広告サービスにおける効果が大きいと思われる。発表資料では「より効果的なマーケティング活動を行うことができるようになり、広告単価の向上、ならびに、両社の広告商品をクロスセルすることによる売上高の向上が可能と考え」ているという。

 また、発表資料では、新たな広告事業領域として、O2O(オンラインからオフラインへの誘導)、OMO(オンラインとオフラインの併合)などにも言及されている。これはオンライン(ネット)事業における顧客を、オフライン(リアル店舗販売)事業へスムーズに送り込む領域を両社が協働で開拓するという意味だ。

 「(2)集客におけるシナジー」については、LINEにおける国内8200万人の利用者を抱えるコミュニケーションプラットフォームと、ヤフーの幅広いeコマース(ネット通販)事業が連携することで、ZHDグループの各種eコマースサービスに対する集客や送客を加速して、売上増が期待されるとしている。

 広告とeコマースサービスの各事業は、両社の現在の売上高と利益の柱になっている。(1)(2)は、経営統合によって、これら事業でさらなる成長を追求することを示したものだろう。

 ZHDの2019年上期(4月~9月累計)決算では、売上高に相当する売上収益が4841億円で、営業利益は756億円と増収減益だった。内訳を見ると、広告がメインになるメディア事業は売上収益が1477億円で営業利益が720億円[3]。eコマースサービスに対応するコマース事業では、売上収益が3354億円で営業利益が356億円だ。ZHD全社の営業利益はそれらに調整額の318億円等を反映したものになっている。

 ただし、ZHDの成長率は、売上収益で前年同期比4.1%増と大きくはない。内訳を見ると、同期間のコマース事業の売上収益の成長率は対前年同期比6%増、営業利益については同15%増と増収増益。メディア事業は、売上収益および営業利益ともほぼ横ばいだ。これに調整額(報告セグメントに帰属しない一般管理費)の318億円等を反映した全社の営業利益は前年同期比9.0%減になる。

 一方、LINEの2019年3四半期における累計決算(1~9月)は、売上収益が1667億円で、営業利益が275億円の損失となっている[3]。内訳を見ると、広告サービスを中心としたコア事業の売上収益は1448億円で、セグメント利益(営業利益に相当)は249億円。LINE Payなどのフィンテック、AI(人工知能)、eコマース事業などを含む戦略事業の売上収益は218億円で、セグメント利益は524億円の損失である。全社の営業利益が損失になったのは、コア事業以上に戦略事業へ投資をしているためだとわかる。

 LINE各事業の成長率も見ておこう。コア事業の売上収益は対前年同期比10%増、セグメント利益は同17%増である。また、戦略事業の売上収益は同13%増で、セグメント損失は228億円の赤字から524億円の赤字へ拡大した。戦略事業で巨額のセグメント損失が発生している理由は、LINE Payの「300億円キャンペーン」や「Payトクキャンペーン」などのマーケティング費用が大きく負担となっているためだと推測される。

 以上のように、広告とeコマースサービスの事業は、ZHD、LINEともに売上高の大部分を占めており、その成長率の引き上げは今回の経営統合の成否のカギを握る重要なピースの一つである。ここにシナジーを求めるのは順当な判断だ。

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