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SDGs 自社の強み、世界発信するツールに コンサルタント 笹谷秀光氏に聞く

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 SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まっています。しかし、従来のCSR(企業の社会的責任)との違いのほか、CSV(共通価値の創造)やESG投資との関連などわからないことが多いという声もあります。SDGsはなぜ必要なのか、どう取り組めばよいか。コンサルタントとしてSDGsの日本企業への普及を進める笹谷秀光氏に聞きました。

■「やるべきことリスト」として活用

――SDGsとは何ですか?

 SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことです。世界中の課題を解決する目的で2015年決定の国連文書に盛り込まれました。「貧困をなくそう」「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「つくる責任、使う責任」といった17の項目を2030年までに達成する目標としてあらわしています。それを達成するための具体的な行動をターゲットとして各目標に約10個ずつ計169あげています。世界の課題を網羅した「やるべきことリスト」というべきものです。

 持続可能な社会づくりの意義は世界中で共有されているうえ、193カ国の合意のもとで策定されたことから、世界の共通言語としての性格を持つことが最大の特徴です。つまり、ある活動を説明する場合、SDGsのどの部分にあたるかを示すだけで、その意義が世界中に伝わるのです。

 目標達成に強制力はありません。企業は取り組まなくてもいいわけです。しかし、世界経済フォーラム(ダボス会議)の報告書によると、SDGsが達成されれば2030年までに年間12兆ドル(約1320兆円)の新たな市場機会がうまれるとされており、ビジネスの面に絞っても企業が早急に取り組むべき意義があり、世界企業は2015年決定直後からSDGsを活用しており世界の動きは極めて速いです。

――CSR、CSVといった概念との違いは?

 CSRとはCorporate Social Responsibilityの略称で「企業の社会的責任」という意味の一般用語です。日本では2003年から普及が進み、多くの大企業には担当部署が設置されました。当初はビジネスというより「社会貢献の一環」との面が強く打ち出されていましたが、2010年にCSRの世界標準(ISO26000)ができてからは「本業によるCSR」といった概念が広がりました。SDGsはこの考え方を引き継いでいるといえるでしょう。

 CSVはCreating Shared Valueの略で「共通価値の創造」と訳されます。ハーバードビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授らが提唱した経営戦略用語です。社会的な課題を本業など自社の強みを使って解決することで、企業の成長へつなげる差別化戦略のことです。SDGsを使ってCSV戦略を実践できるという関係になります。

――ESGという言葉も注目されています。

 ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Government)の略語です。その3つのテーマを考慮した企業に投資をすべきだというESG投資の意味で使われています。多くの機関投資家がこの方針を支持していることから、株価対策の大きなテーマになっています。SDGsとESGは重なる部分が多く、SDGs経営をしていれば、ESG投資に対応できます。つまり、SDGsが株価対策でも重要になっているといえます。

■人材確保や社員のモチベーション向上にも必要

――ビジネスチャンスや株価対策以外でのメリットは

 取引先との関係維持・強化、人材の確保、社員のモチベーション向上など様々なメリットがあります。SDGsはすでに世界の共通言語となっていることから、サプライチェーン全体で取り組むことが課題となっており、他社との取引には必須の要件となります。極端な話をすれば、SDGsに取り組まなければ自動車大手、流通大手、インフラ整備などのプラットフォーマーとの取引をしてもらえないような状況も起こりえます。また、2020年の五輪・パラリンピックも2025年の大阪・関西万博もSDGsで調達などのルールが決まります。さらに、ミレニアル世代・ポストミレニアル世代といった若者は社会課題に関心が強く、社会課題の解決を仕事選びの基準にしています。SDGsへの取り組みはそうした若者をひきつけるほか、社員のモチベーション向上につながります。逆にいえば、取り組まないデメリットが極めて大きいともいえるでしょう。

――企業はどう取り組めばよいか

 企業は自社の事業活動を SDGs の各目標と照らし合わせ、既存事業や新規事業がSDGsのどの部分に相当するか確認をすることから始めるのがよいでしょう。そのうえでSDGsという「やるべきことリスト」をビジネスチャンスの発見とリスク回避に使っていきます。例えば、SDGsの3番目の目標である「すべての人に健康と福祉を」に関しては、「妊産婦死亡率」「伝染病」や「道路交通事故死傷者」などで9つのターゲットがあり、製薬企業だけではなく、さまざまな企業にとってビジネスを考えるうえでのヒントとなります。一方、このリストはそのままリスク管理リストにもなります。5番目の目標の「ジェンダー平等を実現しよう」では「女性・女児差別」などのターゲットをかかげています。自社で女性差別がないか、自社だけでなく調達先・取引先ではどうかといったことをこのリストに沿って、チェックする必要があります。

――日本でのビジネス活用例は

 住友化学がアフリカで展開するマラリア対策用の蚊帳「オリセットネット」は代表的なSDGs事例です。感染症対策だけでなく、雇用や教育の面でも貢献しています。同社はこの事業をSDGsと結びつけて、世界にアピールしています。その結果、アフリカでの評価だけでなく、同社のブランド価値も向上させています。営業でのストーリーテリングの質向上につなげているのがエプソンです。水はほとんど使わずに使用済みの用紙を投入すれば新しい紙に再生できる機器「ペーパーラボ」の仕組みや意義をSDGsを使って説明する販促活動をしています。伊藤園は「茶畑から茶殻まで」ビジネス全体をSDGsにひもづけて国内外で発信をしています。こうした例からわかることは、日本企業は世界へ発信するツールとしてSDGsを使えるということです。日本企業はSDGsという言葉ができる前から環境配慮などの事業を進めてきました。しかし、それが世界にきちんと伝わってきたかどうかは疑問です。SDGsという共通言語を使えば、効果的に世界に自社の活動を伝えることができます。

 SDGsはCSRなどと違って一部の専門部署が担うことではなく経営マターです。経営トップのイニシアチブの下対応しなければ世界のビジネスから取り残されることになります。日本企業はSDGsに対し高いポテンシャルを持っています。SDGsという世界共通言語ができたことを、これまでの取り組みや自社の強みをアピールできるチャンスととらえて、今すぐにも取り組んでほしいと思います。

(聞き手は町田猛)


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