小さな会社が世界で稼ぐ

国外に19拠点を持つナンバーワンの巻線装置メーカー――NITTOKU 佐々木ビジネス&ライフスタイルコンサルティング 佐々木 隆彦

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「社外部下」になって情報の輪を広げる

 付加価値を生み出すには、顧客が何を求めているかを知り、日特がその要求に応えられる会社であることを世に知らしめることが重要だ。しかし、情報収集と情報配信の両方を独力で行うことなど小さな町工場にできるはずもなかった。近藤氏はまず「自社製品を一流のものにする」ことが肝心だと思った。そのためには、機械特性に係るユーザーニーズを知らないといけない。その知識を早く手に入れたい。何か効率的な入手方法はないかと日々考え続けた結果、良いアイデアがふと頭に浮かんだ。それは、日特の社員が大手企業の生産技術者、しかも一流のエンジニアたちの「社外部下になること」だった。

 業界で下位にあった自社には、そもそもユーザーの求めるものが何か分かっていなかった。仮に分かったとしても、それを作り上げるだけの技術力はなかった。自力がないなら、誰かに助けてもらう他に手はない。そして、その誰かとは、顧客である大企業の生産技術部で働く機械エンジニアだと近藤氏は考えた。大企業の研究開発部門で働く人たちは、自身の担当領域には詳しいが、それ以外の情報にはなかなか触れられない、いわゆる「蛸壺(たこつぼ)」状態にあることを彼は知っていた。つまり、エンジニアたちも全体情報に飢えているということだ。優秀な人であればあるほど、自分の取り組んでいることが正しいかどうかを常に確かめようとする。だから、彼らは情報に貪欲で、一見無関係と思われることでも聞きたがる。そこで、「この会社は良い!」と見込んだ客先の有能技術者には、許される範囲で、いろいろな情報をこまめに出してあげる。そうすれば喜んでもらえる。このように、社外部下に徹することで、彼らは日特をかわいいと思ってくれ、長い付き合いができるようになる。近藤氏はそう考えたのだ。

 彼の予想は見事に的中した。技術者たちは頼もしい味方になってくれた。彼らは、自分たちの求める機械を設計できるだけの力が日特にないことを知るや、工場にわざわざやってきて、機械に求める特性について詳しく説明してくれた。時には、自分たちの手で装置を作り上げることまでしてくれた。日本の高度経済成長は終焉期に差し掛かっていたとはいえ、まだ設備需要が相応にあったのは幸運だった。発注した装置が仕様通りの性能で納品されないと、エンジニアたちは上司に大目玉をくらう。悪い人事査定を付けられては大変とばかり、大企業の社員は本気になって日特を助けてくれた。彼らの仕事をつぶさに観察することで、良いと言われる装置のメカニズムが学習できた。また、見よう見まねで機械を作っていくなかで、設計・組立に関する地力が着実に付いていった。一流のエンジニアとつながる戦術が見事に功を奏したのだ。この経験を通して、近藤氏は人脈こそが競争力の源泉であることを体感した。

 センスの良いエンジニアは間違いなく出世していく。たとえ他のセクションに異動したとしても、暫くすると新しい部署でも頭角を現す。そんなエンジニアとの関係を大切にすることで、「情報の輪」が広がっていく。つまり、彼らは、日特がユーザーニーズに応えられる会社であることを内外に宣伝する「良き伝道者」になってくれるし、普通では日特が知り得ない情報を提供してくれたりもする。

 一流のエンジニアとつながるためには、こちら側もそれ相応の人材を揃えなければいけない。地方大学になら無名なメーカーにでも来てくれる学生がいるかもしれないと、当時の国立二期校工学部へのリクルート行脚も行った。そんな地道な採用活動を続けたお陰で、人材の層が厚くなり、一流のエンジニアとのコミュニケーションがさらに密になっていったという。

組み合わせの妙で価値を高める

 「設備は兵器である」。これは近藤社長の持論だ。良い設備を持つと会社は強くなるということだ。良い設備は価値を生み出してくれる。その価値とは、「生産スピード」「省スペース」「完成品の性能」の3つである。生み出される価値の大きさは、会社の強みに直結する。これら3つの価値の大きさは、5つの要素技術の組み合わせで決まる。すなわち、(1)巻きつけ土台の組立・加工技術、(2)巻き速度や多軸同期などの制御技術、(3)ワイヤーのテンション技術、(4)継線技術、(5)中間品や完成品の搬送・ハンドリング技術である。これら5つの要素技術がバランス良くつながっていないと、生産スピードは上がらないし、現場に余分なスペースが要るようにもなる。さらに、製品の性能も良くならない。つまり、搬送機、ハンドリング機など、個々の装置がいくら良いものでも、それらがプラットフォームでいい具合につながっていないと、全体最適には至らない。個別の機械の供給業者がバラバラなら、調整に時間がかかってしまい、生産性を落とすこともある。

 「バブル期以降、日本企業の生産技術力は劣化してきている。昔は社内で調整できたものが、今は自力でできなくなってきている。だから、誰かが全体を俯瞰的にコントロールしなければならない。日特こそが、全体最適を実現するコントロールタワーになるべきだ。そして、巻線技術を核にした精密FAメーカーに進化していく」。そんなビジョンを近藤氏は持っている。

 自社で供給できないものがあれば、オープン・イノベーションで外部から持ってくる。営業出身者ならではの柔軟な発想だが、そこにはイノベーションの真髄である「組み合わせ」のダイナミズムが息づいていることは確かだ。

佐々木隆彦 著 『小さな会社が世界で稼ぐ』(日本経済新聞出版社、2019年)、序章、第1章から
佐々木 隆彦(ささき・たかひこ)
佐々木ビジネス&ライフスタイルコンサルティング株式会社 プリンシパル。
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所 招聘研究員。同志社大学経済学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院修士課程修了(MSc.)。大学卒業後、日系大手電子部品メーカーに入社。エレクトロニクス部材の海外マーケティングを担当。ニューヨークにある北米本社にてIBMやAT&T、インテルなど大手企業に対する新規開発品のスペックイン活動を行う。その後、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング:MURC)に転じ、MURCのプリンシパルとして、海外事業展開、クロスボーダー・アライアンス、グローバル人材育成などのコンサルティングに従事。2019年、日本中小企業の海外事業展開支援を専門に行うコンサルティング会社を立ち上げ、現在に至る。
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キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、営業、イノベーション、国際情勢

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