長島聡の「和ノベーションで行こう!」

ものづくり拠点「ファブラボ」が地方・地域経済を再構築する 第32回 慶応義塾大学の田中浩也・教授に聞く

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田中 かっこいいCMを作る、地域の広告ブランディングを行うといった仕事を通じて、その反応のお手伝いをしたいデザイナー志望の若者も増えています。価値をきちんと世界に発信して、届けたい、という志向は相当あります。

長島 工場の現場にいる職人の方々が幅広い人と話ができるようになって、どこの誰がどんな価値を持っているのかが見える化されれば、新しいものづくりの提案がもっとできるようになります。ファブラボにいる人たちは、そういう発想の広がりを持たれているのではないでしょうか。

 もう一つ感じるのは、全国的にですが、ものづくりに携わる方々のビジネスを促進する交流の場が思ったより少ないことです。

 経営指導員をはじめとする方々によって各地で異業種交流会が行われるようになってきましたが、会合のテーマ設定が重要だということを改めて感じています。単純に集まって“ワイガヤ”をしても、参加者の前提知識が違うため、ビジネスにまでたどり着きません。それが、ファブラボという具体的なものづくりをする場であれば、異業種の人たちが集まる意味がより大きくなりそうです。

田中 ファブラボの良さの一つは具体性です。道具やツールが並んでいますからね。とにかく、まずは、何かつくろう、つくらないと始まらないじゃないか、という雰囲気になる。そこで、何かがつくられれば、それを見た人が順々に集まってくるのです。そこからさらにビジネスの話をするのは、コミュニティー的にも質的にもまた違う段階なのではないか、と思いますけど。

長島 確かに容易ではありませんが、だんだん何かできそうな気はしてきています。

田中 ちなみに、バトラーカーはローランド・ベルガーという会社の中で、どういう位置付けのプロジェクトなのでしょうか。

長島 開発期間は4カ月で、弊社としては、「事業R&D」だと考えています。いずれ、このプロジェクトそのものをパッケージ化して売却する計画ですが、「想い」のある人に売却したいとも考えているので難しい(笑)。売却するまでは我々が引き続き、開発を主導します。それこそ車の活用を促すITシステムについては、遠隔操作のネットワークなどを含めて研究します。

 このほかにも、事業R&Dのメニューを我々として持ちたいと考えており、類似のプロジェクトを年に一つか二つ走らせていきたいと思っています。

田中 全国コンテストのようなものができるくらいにまでは、盛り上げていきたいですよね。モビリティーにおける次の10年が見えてくるような気がしました。

長島 やりたいですよ。全国に笑顔やプライドを生むツールにできたらいいと、関係者はみんな思っています。

「ラジカルソリューション」とは何か

長島 最後に、「ラジカルソリューション」についてうかがえますか?概要はウェブページなどで読んでいますが、どういう背景から生まれたものなのかについてお話しをいただけますでしょうか。

田中 これは、研究室のゼミでも議論している段階の言葉で、試論です。デザイナーが行う思考過程をベースに問題を定義してそれを解決するという、いわゆる「デザイン思考」が行われるようになってしばらくがたち、学生たちもそういうことが良いことだと教えられてきた感じがあるのですが、ちょっと違うのではないかという気がしてきたのです。

 「問題を、解ける範囲に小さく定義して、小さく解決する」よりずっと大切なことは、「もっと根本的にこうなったらいい」という大胆な妄想力、つまり「ドリーミング」です。そして、すべての創造は、それが出来上がってみたら、結果的に何らかの問題を解決している、あるいは、そう見えるものだと思うのです。しかしそこには、解決だけでなく、新しい価値が生まれています。

 もちろんドリーミングは、問題を解決するどころか、新しい問題を生み出すことがあります。自動運転を実現するには法律が対応していないため、法律を変えなければならず、それに伴って人の生活も変わらざるを得なくなります。結局は、経済と社会と技術をセットで、パラダイムシフト的に変革しないと、最終的な問題の解決、次の段階への移行はできません。

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