長島聡の「和ノベーションで行こう!」

ものづくり拠点「ファブラボ」が地方・地域経済を再構築する 第32回 慶応義塾大学の田中浩也・教授に聞く

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ファブラボの活動は「スクール」と「プロジェクト」

長島 ファブラボでは市民の方々がどのような活動を行っていますか?

田中 一つはSTEAM(スティーム、科学・技術・工学・芸術・数学)教育の「スクール」としての活動です。あらゆるものがインターネットにつながるIoTを活用した機器の製作から、デジタル刺しゅうといった幅広い講座があり、世界中のファブラボが連携した「ファブアカデミー」もあります。デジタルものづくりのカルチャースクールと言ってもよいでしょう。

長島 あのミシンはデジタル刺しゅうで使うのですね。

田中 はい。もう一つは、「プロジェクト」です。これはまちづくりや・まちの課題解決に取り組む活動で、例えば、鎌倉では、プラスチック・リサイクルのやり方を研究していたりします。大人から高校生までが参加しているところが特徴だと思います。

長島 IoTの活用やものづくりを通じて鎌倉の街を住みよくするのですね。今、鎌倉のほかに日本全体で何カ所のファブラボがあるのでしょうか?地域興し・まちの課題解決に役立つように、長期的にはどのように運営するお考えですか?

田中 日本で「ファブラボ」と名前がついた施設は約20カ所前後くらいだと思います。ほかにも「ファブカフェ」「ファブスペース」など“ファブ施設”と呼べる、ものづくり拠点を合わせれば約200カ所になるでしょう。それら“ファブ施設”は今、どちらかというと、都市部にあります。都市部のファブラボは、消費者向け生産施設として、DIYの延長上に、小物やアクセサリーをつくるラボが多いと思います。あるいは、ベンチャーインキュベーション施設に、プロトタイプを高速に作る施設として備えられている場合もあります。

 ただ、これから面白いのは地方・地域のファブラボではないかと思うんです。バス停やベンチのように、やや大きいサイズのもの、あるいは、モビリティーや、交通システムのような、みんなでシェアして使うパブリックなものを、行政に頼るだけでなく、地域の人が集まって一緒につくるようになれば面白い。企業も大学もそこに乗ってきて、オープンにものづくりができるようになれば、と考えています。

長島 ファブラボの運営にはコストがかかりますから、経済的に回せるかどうかが大事になってきますね。つくったものを、誰かに、できるだけ多く買ってもらう必要があります。

田中 確かにそこが課題なんです。ただ、ファブラボに10年間携わってわかりましたが、つくったもの自体を売るというより、ファブラボで得られたものづくりのナレッジを売る、あるいは、ファブラボでつくったもので実験を行ってそこで獲得されたデータを売る、といった新しいビジネスモデルの方に可能性を感じます。「ものづくり」だけをしていても意味はありません。IoTやAI(人工知能)、ビッグデータの時代には、サービスの劇的な革新が起こっていますから、その視点を身につける必要があります。

長島 お話しをすればするほど、ファブラボには、地域興し・まちの課題解決についての大きな可能性を感じます。

 ご存じのように、日本の地方・地域は、どこも人口が減っています。人口が減ると地方・地域の平均年齢は一般に高まります。一部で平均年齢が下がっていますが、それは高齢の方々が都市へ流出するのが原因で、地方・地域ではじわじわと生産も消費もできなくなっています。

 その課題を解決するには、地方・地域発の商品やサービスを、都市に流通させる仕組みの再構築が必要になります。例えば、都市の住民が、地方・地域発の商品やサービスに興味を持って購入することで、地方・地域と都市の間で経済循環を発生させなければなりません。ファブラボはその循環を担う拠点の一つになり得るのではないでしょうか。

 ファブラボは、3Dプリンターをはじめとするさまざまな工作機械・器具を備えており、デジタル技術をベースにしたミニ工場として利用可能です。ものづくりの材料として地域の農作物などを活用することも容易でしょう。トウモロコシなどから植物由来のプラスチック素材であるポリ乳酸を生産して、加工するなどです。

田中 これまでは企業が、地方・地域に研究所・工場を建設することで、経済循環が生まれていましたが、その効果は次第に薄れつつあります。しかし、モビリティー、農業テック、バイオマテリアルといった先端技術が地方・地域との掛け算によってイノベーションを生み出す時代の到来が期待されており、そうなれば状況は変わるでしょう。地方・地域は自動運転に向いたエリアをつくりやすく、ドローンの特区などもやりやすいですし、新しい品種の野菜を育てる畑もふんだんにあるためです。

長島 地方・地域にはそれぞれ特色があります。掛け算するものが違えば、生み出されるものも違ってきます。

田中 そうした掛け算によって生み出された多様性に価値を持たせることができれば、大きな工場ではなく、ミニ工場や工房の規模の施設で担える生産量で、あるいはミニ研究所での試作や実験で十分な経済循環が生まれる可能性があります。

「VUCA」時代には地方・地域ごとに特色のある工房が経済性を持つ可能性

長島 本当にそう思います。最近のような「VUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)」時代には、ファブラボのような、地方・地域ごとに特色のある工房が経済性を持つ可能性があります。先生が指摘された、多様性による新しい価値が高められるかどうかがカギになるでしょう。

田中 そこで人口20万人都市、というのに注目しています。ヨーロッパの主にドイツやフランスにある人口20万人規模の都市をリサーチしたことがありますが、その規模の都市には他にない個性や特徴があります。フードデザイナーの中山晴奈さんという方と、日本のその規模の都市を約20カ所くらいリストアップしているのですが、それぞれ、城下町である、あるいは農業などの1次産業が盛んであるといった特徴があり、モビリティーサービスのニーズも高く、多様性という価値によるイノベーションを起こすことができる規模だと感じています。

長島 例えば、山口には萩焼のような陶器や、大内塗のような工芸品があり、それらは地方・地域の多様性が価値を持った例だと思います。ただし、そうした伝統なものをつくって売るだけでは産業として拡大しません。それに何を加えたらよいのでしょうか?

田中 伝統に何かを加える、というのではなく、その技法の本質を現代期待される先端技術を推進する強み、優位性としてとらえることが大事だと思います。例えば、金沢で炭素繊維(カーボンファイバー)という先端素材の研究・生産が行われているのは、繊維製品をつくってきた歴史・文化が金沢にあるからだと聞きました。そういった、ものづくりの歴史・文化を、現代の「何か」に飛躍させて結びつける必要があると思います。

長島 要は、そこの土地にある産業のDNAみたいなものですよね。

田中 そうだと思います。偶然いま、プラスチック・リサイクルのプロジェクトもやっているんですが、栃木、埼玉、三重、千葉など、いろいろな場所に特色ある技術を持った工場があって、通ってみて本当に面白いんですよ。こうした価値を、都市部の人こそもっと知らなければいけないと思います。

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