長島聡の「和ノベーションで行こう!」

ものづくり拠点「ファブラボ」が地方・地域経済を再構築する 第32回 慶応義塾大学の田中浩也・教授に聞く

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 一方、企業との共同研究は多岐にわたり、材料の企業から最終商品を手掛けているメーカーまでさまざまです。多くの企業は今、オープンイノベーションに取り組んでおり、大手からベンチャーまで幅広い企業と一緒に、3Dプリンターの実応用に関する研究を進めてきました。最近では、ブリヂストンと共同で3Dプリンター製コンセプトタイヤを製作し、「東京モーターショー2019」に参考出品していますし、竹中工務店と一緒に進めてきた、3Dプリンター製建材の実験なども六本木で公開しています。

 これからは、市民と企業を分けずに、「産官学民連携」という言葉のとおり、大学と市民と企業と行政を連携させて、まち全体をリデザインする研究へと昇華させていきたいと思っています。

長島 共同研究を仕掛ける際は、連携相手の興味を引く企画や構想が必要になると思います。そうしたものは、学生さんと一緒につくり上げられるのでしょうか?それとも先生の頭の中に突然わくものでしょうか?

田中 テーマとタイミングによってさまざまです。例えば、「ファクトリー・サイエンティスト」は本当に、大坪さんと「何かいっしょにやりたい」という話をきっかけに、約半日の議論で生まれました。

長島 半日で出来たとは驚きです。ファクトリー・サイエンティストは、ものづくりの技術そのものではなく、資格やスキルセットともいうべきもので、しかも通常の資格やスキルとは視点が違います。

 新しい資格をつくる場合、普通は単一のスキルに対応するものにします。しかし、ファクトリー・サイエンティストになるには、物事を起こすためのスキルをまとめて身につけることが必要であるとともに、アウトプットを重視していると感じました。

田中 そうですね。プロジェクトの推進役やリーダーシップの在り方として「ジェネレーター」という言葉を聞いたことがありますが、それに近いものです。ジェネレーターは、相手を巻き込みながら、自分もどんどん口出しをして――たぶん長島さんもそうなんでしょうけど――関わり合いながら物事を進めて、アウトプットを出します。ファクトリー・サイエンティストは、工場のデジタル化に際して、「ジェネレーター」となる人材を育成するものです。そのため、センシング、データ処理、プレゼンテーションまで、単一のスキルではなく総合的に、一気通貫で体得できるようにしてあります。

長島 関わり合いということですが、コンサルティングでも相手を巻き込みながら、自分も楽しくなって、より主体的にプロジェクトへ参加する状態があります。それに近い感じでしょうか。

田中 そうですね、相手を巻き込みつつ、相手からも巻き込まれるコラボレーションを通じて新しいものをつくっていくのが、ファクトリー・サイエンティストの役割ですし、これはファクトリー・サイエンティストに関わらず、あらゆるプロジェクトに共通の原理だと思います。

米国でスタートして世界に広がったファブラボ

長島 市民が自由に工作機械などを活用できるファブラボはそうした相手を巻き込み・巻き込まれる状態を実現する新たなものづくりの拠点として注目しています。そもそも、世界のどこで、どのように始まったのでしょうか。改めてうかがえますか?

田中 2000年ごろに米マサチューセッツ工科大学(MIT)で実験的に始まりました。当時、デジタル工作機械がテーブルに載るほどコンパクトになり、低価格化して、デジタルなものづくりの「民主化」が可能になることが見えてきていました。一般の人も、ものづくりが自由にできるようになる未来が見えたので、では、社会実験として、「市民が自由に工作機械などを利用できる施設が生まれたとしたら、実際に何をつくるようになるのか」について研究するプロジェクトが始まりました。それがファブラボの起源です。

 その後、オバマ政権の時代に、アメリカの小学校や図書館に3Dプリンターが配備されるなど大きな展開があり、ファブラボのような市民工房が米国各地に広がりました。さらに、市民参加型のまちづくりに活かせるといった理由で、ヨーロッパ各地に展開されるとともに、アフリカやインドなどにも草の根的に広がりました。私も、それらに刺激を受けて、日本でファブラボを開設しています。

長島 日本では先生が2011年につくられたファブラボ鎌倉が最初でしょうか?鎌倉という場所を選ばれた理由が気になります。

田中 鎌倉は日本で最初につくられたファブラボの一つで、もう一つは筑波でした。当時私は世界中のファブラボを見て回っていたのですが、日本のファブラボでは日本らしいコンセプトが必要だと考えて、神社仏閣が多数あって、地域らしいものづくりができる土地である鎌倉を選びました。世界中にファブラボが開設されていますが、それぞれのファブラボでは、その国・地域らしいものが製作されているんです。例えば、アフリカでは農家が卵を数える装置を、オランダではソーシャルデザインが盛んである、などです。日本でも日本らしい何かを発見して、世界に発信できたらいい、と思いました。

長島 ファブラボ鎌倉では、市民のみなさんは最初に何をつくったのでしょうか?

田中 やはり土地柄もあって、木工品は軸の一つになってきたと思います。林業の方の指導のもと、富士山で木を切り、鎌倉のファブラボでそれを加工して、スマホケースのように、それまで木工品がなかったものを製作しています。今では「フジモックフェス(FUJIMOCK FES)」という市民参加のものづくり体験イベントを毎年開催するようになりました。

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