長島聡の「和ノベーションで行こう!」

ものづくり拠点「ファブラボ」が地方・地域経済を再構築する 第32回 慶応義塾大学の田中浩也・教授に聞く

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 日本型のイノベーション=「和ノベーション」を実現していくには何が必要か――。ドイツ系戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーの長島聡社長が、圧倒的な熱量で未来に挑む担い手たちを紹介していきます。今回のゲストは、「ファブラボ」という市民のものづくり拠点を日本で始めた慶応義塾大学の田中浩也・教授です。

大学で「デザイン」と「工学」の融合に取り組む

長島 先生との出会いは、由紀ホールディングス 大坪正人社長とのお話しがきっかけでした。大坪社長が「“ファクトリー・サイエンティスト”を育成する取り組みを慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)で先生と検討している」という話をされまして、私が食いついたのです(笑)。私は「これは早く実現したほうが絶対にいい」と感じ、大坪社長から了解をいただいて、SFCへうかがいました。自分なりに、お手伝いできることをまとめて、先生にお会いしたのを思い出します。

 そのSFCへの訪問の際、ミシンが、たくさんあったことが気になりましたが、時間も限られており、すぐ帰ってしまいました。お話しに出てきた「ファブラボ」という施設も、気になって検索をしたり、本を買ったりして勉強していますが、目次を読むだけで日本の未来にとって大事なことだという思いが巡りまして、本日の対談をお願いしました。

田中 ありがとうございます。

長島 まず、SFCにある田中研究室の概要を改めて教えていただけますでしょうか。

田中 慶応大学SFCは2000年に、日本の総合大学としては、かなり先駆的に、デザインのカリキュラムを始めました。デザインといえば、普通は美大・芸大で学ぶものだと思われていた時代ですが、米スタンフォード大学などが、総合大学としてデザインのカリキュラムを持つようになり、それと軌を一にしています。

 そんな中、私も2005年にSFCへ招聘され、「デザイン」と「工学」という、それまで別々だったものを融合する「デザインエンジニアリング」や、それを担う人材の育成に取り組みはじめました。併せて、デザインエンジニアリングの核となるツールとして、2010年から「デジタルファブリケーション」をテーマにした研究を行っています。

 デジタルファブリケーションは、デジタルデータをもとに創作物を製作する技術の総称です。研究を始めたときは、3Dプリンターが注目を浴びる少し前でしたが、ツールとして研究室に何台も導入しました。最初は、モックアップや試作品をつくっていましたが、過去7年は、我々が文部科学省COI (Center Of Innovation)の研究拠点に選ばれたこともあり、技術が加速度的に進化し、今では高さ2メートルの大型装置を使って、家具や車の外装などの実用品をつくることもできるようになっています。研究室の人員も、今では学生25人、特任教員10人の大所帯になりました。

長島 一つの研究室で35人もいるのですね。

田中 日本ではあまり例がないのですが、SFCでは学部1年生から研究室に入ることができる点も、ひとつの理由です。「慶応義塾」という名前が示すように、大学に「塾」の精神がありまして、学部1年生のときから、師事したい先生の背中を見て学ぶことができます。

長島 デジタルファブリケーションの研究テーマは幅広く、それだけ研究に携わる方も多くなるのでしょう。学外の人材・組織とのコラボレーションも盛んに行われているそうですね。

田中 はい、大きく分けると、市民の方々とのパブリックなコラボレーションと、企業との共同研究があります。

 市民の方々とのコラボレーションは主に「ファブラボ」を通じて連携しています。ファブラボは世界各地に設けられた市民工房でネットワーク化されており、私もファブラボの日本における設立・展開を推進してきました。主婦や定年退職されたエンジニアなど地域の方々が、ファブラボで3Dプリンターをはじめとする最新の工作機械を使ってさまざまなものを製作されています。

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