小さな会社が世界で稼ぐ

アメリカの巨大企業と互角に渡り合う薬栓メーカー――大協精工 佐々木ビジネス&ライフスタイルコンサルティング 佐々木 隆彦

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 しかしこのことは、大協に大きなプレッシャーとして跳ね返ってきてもいる。大協がユニークな開発力と高い品質力といった切り札を失った時点で、ウエストの目に映る大協の価値は低下する。そうなれば、これまでアメリカ側が提供してくれた各種の便益が手に入らなくなるかもしれない。大協はそれをよく理解していて、研究・開発(R&D)の手を休めるわけにはいかない。

 下町のゴム栓メーカーは、経営者の慧眼(けいがん)によって危機一髪、「泥船(イノベーションを創出する企業努力を迅速に評価しない業界)」からの脱出を果たした。また、製品仕様に関する情報をいち早く入手できる立場を得たことで、コモディティ化の罠にはまることなく、高収益がコンスタントに続いている。あの時に勇気を持って海外とつながらなかったなら、「茹でガエル」になっていたかもしれない。

ドメスティックだけでは生き残れない

 「脱・下請け稼業」という、先代が発した大号令で、大協精工は薬栓業界の大手であるウエスト社と手を結ぶことができた。その後の企業努力もあって、年商は200億円にまで伸びた。さらに内外売上比率は3対7と、今や海外事業が大協にとっての大黒柱になっている。

 しかし、「ウエストとの出会いは受動的なものだった。だから、今の海外事業は『瓢箪(ひょうたん)から駒』と考えるべき。これからは、大協が万事能動的に働きかけていく番だ」と、現社長の須藤盛皓氏は過去の成功をあくまで冷静に受け止め、これからやるべきことを明らかにしている。具体的には、中国や韓国の競合企業が追い上げてくるなか、同社の強みであるR&D機能をさらに強化しなければならない。それを効率的に行うためにイノベーションラボラトリーの立ち上げを決めた。投資規模は50億円に及ぶ。

 「メディカルデバイスでは、北欧企業がデザイン面で頭ひとつ抜きん出ている。もっと上を目指していくには、欧米やアジア企業とのアライアンスを積極的に進めねばならない」と能登専務は言う。さらに続けて、「医療医薬用パッケージ業界で勝ち組になるには、グローバル化が絶対条件だ。勝ち残るために海外生産が必要になるなら、国内工場の維持・存続に固執してはいられない」と言う。大協にとってベンチマーキングすべき対象はまだまだある。

 海外企業とのアライアンス網を広げていくには、グローバル人材が欠かせない。ウエストとの協業を通して大協はそれを痛感したので、15年ほど前からグローバル人材の募集を進めてきた。しかし初めの頃は、なかなか人が集まらなかった。高過ぎるスペックを掲げていたからだ。高度な英語力、化学の知見、そして医薬品業界での実務経験。この3つを必須要件としていたのだが、スペックを満たす人は現れなかった。そこで5年ほど前からハードルを少し下げることにした。医薬品業界の知見については、入社してから研鑽させることにしたのだ。その結果、応募者が増え始めた。2人の募集に対して、90 名が面接に来たこともある。この事実からも、「中小企業に有能人材は集まらない」というのは迷信であることがよく分かる。今では、栃木本社と東京営業所に15名ものバイリンガルがいて、皆が戦力になっているという。

 ただし、人材の充実は一朝一夕にできることではない。社内の人的資源に制約を感じるなら、社外専門家の助けを借りる方法もある。「40年以上も前に海外企業と手を組んだのは大英断だったが、手続き面では反省すべき点が大いにある。『初めての国際契約』で犯した失敗は二度と繰り返さない」と能登専務は断言する。あの時、クロスボーダー・アライアンスに長けた外部専門家の助言が得られていれば、不平等条約の改正に長い月日と金銭的・精神的なコストを支払わずに済んだのは間違いない。

佐々木隆彦 著 『小さな会社が世界で稼ぐ』(日本経済新聞出版社、2019年)、序章、第1章から
佐々木 隆彦(ささき・たかひこ)
佐々木ビジネス&ライフスタイルコンサルティング株式会社 プリンシパル。
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所 招聘研究員。同志社大学経済学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院修士課程修了(MSc.)。大学卒業後、日系大手電子部品メーカーに入社。エレクトロニクス部材の海外マーケティングを担当。ニューヨークにある北米本社にてIBMやAT&T、インテルなど大手企業に対する新規開発品のスペックイン活動を行う。その後、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング:MURC)に転じ、MURCのプリンシパルとして、海外事業展開、クロスボーダー・アライアンス、グローバル人材育成などのコンサルティングに従事。2019年、日本中小企業の海外事業展開支援を専門に行うコンサルティング会社を立ち上げ、現在に至る。
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キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、営業、イノベーション、国際情勢

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