小さな会社が世界で稼ぐ

アメリカの巨大企業と互角に渡り合う薬栓メーカー――大協精工 佐々木ビジネス&ライフスタイルコンサルティング 佐々木 隆彦

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

アメリカからの誘い

 「あの時、思い切って外資と組んでなかったら、うちは今のように強くなってなかった」

 大協精工専務の能登州弘氏は、そう言い切った。

 大協精工は医療医薬用パッケージ(薬栓や容器)を製造販売する会社で、日本でのシェアは相当高い。同社の前身、鐘ヶ淵ゴム加工有限会社は1954年に東京の墨田区で産声を上げた。創業当時は、発注主が決めた仕様通りにモノを作る小さな「下請け加工業者」に過ぎなかった。しかし創業から半世紀が経った今、年商200億円、700名の従業員を抱える中堅企業に成長している。

 創業者の須藤真通氏は、ことあるごとに「下町の加工屋で終わってはいけない。開発屋になれば、仕事は楽しいし、会社ももっと良くなる」と社員に説いて聞かせたという。さらに同氏は、言われたことをただ忠実にこなすだけの業者から、何か新しいものをユーザーに提案する会社への「業種転換」を、取引先である医薬品メーカーにも宣言した。1960年代前半のことだった。

 しかし、日本の製薬業界は非常に保守的で、実績のない者など一顧だにしない。だから、大協からの提案に耳を傾けるところはなかった。研究開発には莫大な金がかかる。試作に使う原材料や装置など、資金はいくらあっても足りない。大協の台所事情は、楽になるどころか、ますます苦しくなっていった。「すわ、倒産か」。にっちもさっちもいかない窮状に追い込まれていった。

 そんな苦境に立たされても、この会社は諦めなかった。宣言したことを簡単に翻すことなどできないと、「研究開発と高品質」というモノづくりの王道を突き進んでいった。苦しい時期は相当長く続いたが、明けない夜はない。地道な努力が日本国内で徐々に評価され始めると同時に、「品質の大協」という高評価が海を渡って行った。そんな時、下町の会社に青い目の女神が微笑んだ。薬栓業界の巨人、アメリカ・ウエスト社から業務提携の話が持ち込まれたのだ。業種転換を宣言してから既に10年の歳月が流れていた。

初めは不平等条約だった

 当時の大協精工は小さな会社で、社内に法務の専門家はいなかった。頼りにしていた顧問弁護士も、外国企業との提携事案など手掛けたことがなかった。その結果、アメリカ企業が提示するプロポーザルの不平等さに誰も気付くことなく、契約は取り交わされた。お陰で、自由に営業できる市場が制限されるなど、被った不利益は決して小さくない。その後の契約改正にかけた時間とコストも半端な規模ではなかった。

 専務の能登氏は当時を振り返って、「薬栓業界は狭い。ウエストは、わが社の活発な開発活動を聞きつけて、買収を念頭にアプローチしてきたのだと思っています。でも、当時の大協はまだ左団扇(うちわ)ではなかったので、ウエストからの提携話はタイムリーでした。たとえそれが不平等条約であったとしてもです。だからパートナーであるウエストを一方的に責めることなどできないし、ウエストとの関係がなければ、この会社は今ほど大きくなっていなかったのは間違いないです」と明言する。

 ウエストには優れた営業力がある。大協精工には技術力がある。今は、互いに助け合う関係に発展しており、大協は自社株の4分の1をウエストに持たせている。25パーセントという中途半端な株式保有率では経営に口出しすることはできないが、ウエストはそれに異を唱えない。「2社は他人ではなく、同志の関係にある」。それを互いに確認するために敢えてそうしているらしい。

相手をうまく利用する

 大協精工が、ウエストとの関係を維持するのには、戦略的な理由がある。それはまず、アメリカと太いチャネルを持つことで、日本市場でのパワーを格段に強められるということだ。「注射剤を開発する日本企業は非常に少なくなっている。新薬を作れるのは欧米企業がほとんどで、日本の会社はその後追いに終始している」という。その結果、新薬に使用されるべき薬栓や容器の仕様も欧米ユーザーが決めてしまう。普通であれば、日本の薬栓メーカーに出る幕はない。しかし、欧米企業と直接つながって、新薬情報をいち早く入手できれば話は別だ。大協はウエストとつながることで、欧米企業との太いパイプができた。それをフル活用すれば、日本にいるだけでは得られない情報を手にすることができる。結果的に、医療医薬用パッケージの仕様決定にも関われるチャンスが増え、大協の製品がデファクト・スタンダード(事実上の標準)になりやすくなる。事実上の標準になれば、大協は自社の影響力を業界内で着実に強められるというわけだ。

 さらに、新しいパッケージの認可を得るには、アメリカFDA(アメリカ食品医薬品局)の厳しい審査にパスする必要がある。その審査プロセスは複雑で、関係当局とのコネクションを持たない外国企業の手に負えるものではない。大協精工は、その辺りの手続きに精通したアメリカのパートナーと強い絆で結ばれているので、認可を得るのに余分なコストがかからない。その分、研究・開発に専念できる。

 ウエスト社は、大協精工の10倍もある大きな会社だ。大協にしてみれば、彼らとの協業は、「猛獣に添い寝する」のに等しい。ウエストが大協に襲いかからないのは、その日本のパートナーが得意とする高い品質と開発力にメリットを感じているからに他ならない。大協は自由だから強みが発揮できる。仮にウエストが大協を自社の傘下に無理やり押し込もうとすれば、大協の強みが失われてしまうかもしれない。ウエストはそのリスクを認識していて、大協との互恵的な関係が長らく続くよう舵を取り続けているわけだ。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。